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第86話 ベンの想い

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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 第86話 ベンの想い

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 ベンとバルツァー伯爵の壮絶な殴り合いのことを聞いた、お爺様が呆れかえっていた。


「お前は昔から変わらんな」

「………」


 お爺様の言葉に、バルツァー伯爵は顔を背けた。


「で、ベンはどうだった」

「……ふんっ」

「ガハハハ。偉そうに言えぬわな。負けたんだから! ハハハハハハハ」


 お爺様、バルツァー伯爵を揶揄って楽しんでいるよね?


「くっ。この化け物ジジイが」

「私がジジイなら、お前はクソオヤジだな。で、クラウディア嬢と《《ロックスフォール侯爵家家臣ベン》》の婚約を進めるぞ」

「好きにしろ」


 お爺様はうちから引き抜くなよと、バルツァー伯爵に念を押した。

 ベンの幸せのためなら手放すことも考えたが、そういうことにはならないようだ。良かった。


「そうそう、お前のその膝、早く治さんとな。カトリアス聖王国とは遅かれ早かれ雌雄を決することになるであろう。その先陣を切るのではないのか?」

「もちろんだ! この俺以外に誰が先陣を切るのか!」


 元気なことはいいことだが、軍務卿が先陣を切っていいのか!? どう考えても、あんたは後方待機だろ。




 その後、俺は週二で学園に通い、その午後は貴族の病気の診察をし、休みの時はジークヴァルトとエルゼの面倒をみつつ、ダンジョン探索を行った。


 ベンはというと、クラウディア嬢と正式に婚約することになった。

 その前に、覇天事件の際の功績で准爵に叙されることになった。


 王城から使者がやってきて、ベンを准爵に叙爵して帰っていった。家名はフレイムバルクになった。


「おい、俺が貴族なんていいのかよ?」

「いいに決まっているだろ」

「そうそう。でもね、文字の読み書きくらいはできるようになろうか」


 シャーミーの突っ込みは痛いところを突いた。


「うっ……だから俺はそういうのは苦手なんだよ!」

「苦手でも文字くらい書けないと、クラウディア様に愛想をつかされるわよ」

「うぅ……」


 シャーミーも今回准爵に叙爵されたけど、彼女は文字の読み書き計算はできる。暇さえあればアシュード領の神殿に入り浸っていたから、そういう勉強をしていたんだろう。


「文字の読み書きもだけど、計算もな」

「トーマ!」

「簡単な計算くらいできるようにならないと、本当にクラウディア嬢に嫌われるぞ」

「そ、そんなぁ……」


 ベンの顔には絶望が浮かんでいた。

 貴族になったんだから、マジでそれくらい覚えないとな。






 ▽▽▽ Side ベン ▽▽▽


 あれはいつだったか。俺が十歳だったかな、トーマと初めて会ったのは。

 ひょろっとしたちんまいのがいると思ったら、領主様の息子だった。


 その年の肉祭りは、トーマのおかげで全部最優先で食えたぜ! へへへ。


 そんなトーマがダンジョンを発見し、俺は情報を集めた。そしたら兵士の噂話で、トーマがダンジョンに入ると聞いた。これは俺もいかなければと思ったね!

 オヤジにトーマを守ってやると言ったら、二つ返事で送り出された。


「おう、しっかり肉盾になってこい!」

「おう!」


 肉盾なんて、肉好きな俺のためにある言葉じゃないか! オヤジは分かっているな!


 ダンジョン探索と酒工房の手伝いをしながら、肉を鱈腹食える毎日を送っていたら、トーマが使徒というものになった。日頃物静かな神殿の神父が騒いでいたのをよく覚えている。

 で、王都のほうからお偉いバーサンがやってきた。神父は頭が高いと拳骨を落としてきたが、俺は華麗に躱してやった。

 まあ、なんにしろ、トーマといると退屈しないぜ。


 あれはいつだったかな。そうだ、トーマが王都で学園の試験を受ける直前だったと思う。

 俺は体が軽くなったのを感じた。そこでステータスを見てみたら、なんとランクがAに上がっていたんだ! 加護も爆炎の重戦士に変わっていた。

 なんでと思ったが、シャーミーも同じようにランクAの聖光の魔導師になっていた。

 俺たちは思った、これはトーマのせいだと。だが、ランクが上がったおかげで能力が爆上がりしていた。力も上がったとすぐに実感できた。トーマといると、本当に退屈しないぜ。


 あれから数年。トーマはなぜか侯爵になっていた。使徒も偉いらしいが、侯爵は貴族の中でも偉いほうらしい。

 よく分からんが、トーマといると面白い。だから俺はトーマと一緒に王都に出てきた。幼馴染のシャーミーも同じだ。


 俺はトーマの騎士になった。トーマのそばでトーマを守るのが俺の仕事だ。しかも毎月給料がもらえるし、ダンジョンにいったら儲けた金は三人で折半だ。へへへ。いい儲けになるぜ。


 トーマが学園に通うっていうんで、俺も護衛として学園についていった。

 そこで俺は女神様に出会ってしまった。女神様の名前はクラウディアという。すごく綺麗だ。あまりの美しさにしばらく見入ってしまった。

 それが恋だと、後からシャーミーが教えてくれた。俺が恋なんてと思ったが、クラウディアのことを思うと、胸が張ちきれそうに鼓動するんだ。


 そんなある日、学園では武術大会と魔法大会が行われていた。

 トーマは魔法大会で優勝した。あいつの実力からしたら、まったく本気を出してないものだ。

 まあ、トーマとまともに戦えるヤツなんて、俺くらいなものだ。学園なんかに通っているヒョロいヤツらに負けるわけがない。


 武術大会と魔法大会の優勝者が試合をするのだとか。武術大会の優勝者は金髪の小僧だ。この国の王子らしいが、俺からしたらまだまだだぜ。


 金髪の小僧とトーマが戦ったが、相手にもなりゃしない。俺はそんな試合を試合場の奥から見ていた。

 護衛でも試合場に入ることはできない。それは王子のほうも同じだ。


 そして、それは王子とトーマの試合が終わった直後に起こった。いきなり観客席からいくつもの爆発音がしたのだ。俺とシュザンナ隊長は競技場に向かおうと思ったが、出入口が瓦礫で埋まっていて直接入ることはできなかった。


「ベン殿は一度外に出てから客席を経由してくれ。私は他の道が使えないか探してみる」

「分かった!」


 シュザンナ隊長の言うように、俺は外へと走った。そしたら物陰から何かが飛んできた。俺はとっさにモーニングスターを抜いて振った。

 甲高い音がし、ナイフが床に落ちる。

 ナイフを投擲したヤツが俺に迫る。甘いぜ!


「ぐあっ」


 スピードはあったが、こいつより速いモンスターはいくらでもいる。俺はそんなモンスターをいつも受け止めてきたんだ!


 おっといけない。こんなヤツに時間を食っていられない。

 だけど、さっきと同じようなヤツがあっちこっちで生徒や教師を襲っている。何がしたいんだ、こいつらは?


 何人かぶっ飛ばして進んでいると、悲鳴が聞こえた。またかと思ったが、どうせ試合場へ向かう途中のことだ。

 女子生徒を襲っていた男の後ろから思いっきり股間を蹴り上げてやった。


「ぎゃぁぁぁっ」


 飛び上がった男を殴りつける。


「うっせんだよ。おい、だいじょう……」


 手を伸ばして助け起こそうとした女子生徒は、なんとあのクラウディアだった。


「ありがとうございました。っ!?」


 どうやら彼女は足を怪我したようで、立とうとした時に苦悶の表情をした。

 どうする? 速くトーマの所へいかないといけないが、この子を放置はできない。

 仕方がない!


「ちょっと我慢してくれ」


 俺は彼女を抱き上げた。


「え、あ、ぅそ……」


 そして走り出した。


「きゃっ」

「舌を噛むから、気をつけろよ」

「は、はい」


 女性教師が丁度いたので、彼女を預けた。

 これでトーマのところにいける……と思ったら、もう終わった後だった。


「くそっ、間に合わなかったか……」

「ベン、遅いよ」


 ボロボロの恰好をしたトーマだったが、傷一つなかった。こんな不思議な光景はないとシュザンナ隊長が言っていたが、俺もそう思う。

 そういえば、以前も屋敷に暗殺者が出て、トーマは傷もないのに服は破れ血がついていたっけ。

 まあ、トーマだからこのくらいで驚いていたら疲れっちまうぜ。



 -・-・-・-・-・-・-

 ベンの話 三連完了!

 -・-・-・-・-・-・-

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
ここまで楽しく読ませてもらいました。 身分社会の中でいくら侯爵の騎士とは言え平民出身のしかも読み書きすらできない人間に大事な娘を嫁がせるなんてとんでも案件ですね。伯爵令嬢ってそんな安いものなんでしょう…
封建社会は血統による支配という前提で成り立ってるのに、なんで貴族令嬢と平民が結婚できたのか不思議 身分差を描きたく無いなら貴族なんて最初から出さなきゃいいのになと感じます
別視点のエピソードが時々あるのが、とてもいいですね。
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