表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
86/122

第84話 ベンの恋

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

 ■■■■■■■■■■

 第84話 ベンの恋

 ■■■■■■■■■■


 覇天事件によって閉鎖されていた学園が、久しぶりに再開された。

 学園は以前よりも警備の人員が増やされていた。物々しい姿の警備員が巡回している。


 サロンで寛いでいると、ラインハルト君がやってきた。


「やあ、トーマ君」

「ラインハルト君。おはよう」


 彼は自然な所作で俺の前に座った。

 ララがハーブティーとマフィンを、これまた自然な所作で置いていった。

 ララのメイドとしての動きはかなり洗練されている。俺が侯爵になってから、随分と練習したのだろう。ありがたいことだ。


「聞いたよ、クラウディア嬢のこと」


 ラインハルト君にも知られるほど、あの話は広がっているようだ。


「まさかあのクラウディア嬢が一目惚れとはね」

「人は見かけによりませんから」

「本当だね」

「あら、何が本当なのですか」

「やあ、レーネ嬢」

「おはよう、レーネ嬢」


 レーネ嬢も当然のように俺たちのテーブルについた。

 もちろん、ララの動きは速い。


「クラウディア嬢のことだよ」

「ああ、あの件ですか。わたくしも驚きましたわ」


 ベンが居心地悪そうにしているが、仕方がない。英雄は女性に惚れられるものだ。

 そして、件のクラウディア嬢がやってきた。


「皆様、ごきげんよう」


 彼女はそういうと、ベンを見て頬を朱に染めた。

 なんだかんだ言ってもまだ十一歳の子供だからね。

 おや……おやおや、ベンもまんざらじゃない? 頬を赤くして、意識しているんだ。フフフ。


「あ、あの……ベン様……」


 お、愛の告白か!?


「………」


 おい、ベン! 返事くらいしてあげなよ!


「あの時は、ありがとうございました。おかげでこうして無事に過ごせております」

「そそそそれはっ……」


 声が上ずっているぞ、ベン。それはよかったと言いたいんだろ?


「クラウディア嬢がご無事で何よりでした。ベンは恥ずかしがり屋なので、俺が代弁させていただきました」

「あ、いえ……」


 クラウディア嬢の顔が熟れたトマトのように真っ赤になった。

 ラインハルト君やレーネ嬢はニヤニヤとしている。人の恋路を見守るのは楽しいね。




 教室では、今回の騒動について当たり障りのない説明が行われた。

 担任のアストリット・グーゲル先生は、あの騒動で亡くなっているため、担任に格上げされた元副担任のフィリーネ・ハウスドルフ先生が説明した。


「―――ということで、これからは十九名になっております」


 ファンデンベルグ侯爵家の四男が死亡しているため、この一年A組の生徒の数は十九人になっている。


「それでは、亡くなられた方へ哀悼の意を表して、黙祷」


 ほぼ一分ほどの黙祷を捧げた。





 再開初日は無事に終わり、俺は屋敷に帰った。


「なあ、ベン」

「おう、なんだ?」

「クラウディア嬢のこと、どうするんだ?」

「なななななんでそんなことっ!?」


 いや、あからさま過ぎるだろ!


「シャーミー。これ、どう思う?」


 ここは俺の私室。俺とベンとシャーミー、そしてララしかいない。


「初めて惚れられて、まんざらでもないって感じかしら」

「シャーミーッ」


 上ずった声で叫ぶベンが可愛すぎる。


「ベンがその気なら、俺は応援するぞ。准爵なんていわず、騎士爵くらいにはしてやるし、そうしたい」

「………」


 ベンが真面目腐った表情をした。あれはロクでもないことを考えている顔だ。

 なんだかんだ言っても、もう五年のつき合いだ。ベンのことはある程度分かる。というか、ベンはいい意味で分かりやすい男なのだ。


「俺ではクラウディア様の相手に相応しくない」

「そんな理由で諦めるのか?」

「そんな理由って……身分の差は莫迦な俺でも分かるくらいに、大きなものだぞ。トーマ」

「ベンがまともなことを言っている!?」

「驚いたわね!?」

「お前ら……」

「だけどさ、俺はベンとクラウディア嬢の気持ち次第だと思うぞ。バルツァー伯爵のことは、俺に任せればいいんだ。それくらいのことはしてやるから。俺たち親友だろ」

「しかし……」

「じれったいわね。いつものイケイケのベンはどこいったのよ! 男なら当たって砕けろよ!」


 シャーミーが男らしい。でも、当たって砕けないように、俺がフォローするからさ。


「お前たち……」


 ベンもなんだかんだ言って来年で十六歳だ。この国では十六歳は成人になる年齢で、婚約者がいてもおかしくない。それは平民でも貴族でもだ。

 この世界の婚期はかなり早い。十代のうちに結婚する人がほとんどだ。


「すまん。俺のために」

「いつものベンらしく、突撃してきなさい!」

「突撃はともかく、バルツァー伯爵とは話を進めておくよ」


 泣くんじゃないよ、まったく……。俺まで泣けてくるじゃないか。





 学園再開の翌日、俺はお爺様に頼まれていた病の診察を行うことになった。

 最初に診察を行うのは、件のバルツァー伯爵だ。今一番ホットな話題に絡む重要人物である。


 バルツァー伯爵は軍務卿だと聞いているが、顔に大きな傷痕がある身長二メートルくらいの人だ。存在感がすごいな、この人。

 クラウディア嬢は母親似なんだね、よかった。

 伯爵は部屋に入ってくるなり、キョロキョロと部屋の中を窺った。ベンを探しているのかな。俺の後ろにいるから、しっかり見ていってくださいな。


 そのベンは、かなり緊張しているようだ。初めて彼女の親に会いにいく彼氏のようにね。


「バルツァー伯爵ですね。そこにお座りください」

「ダミアン・ガーランド・バルツァーだ。よろしく頼む」

「トーマ・バルド・ロックスフォールです」


 ソファーが小さく見えるな。


「それでは診させてもらいます」

「その前に少しいいかな」

「……なんでしょう?」

「ベンという者はどいつだ?」


 ベンがビクッとしたのが分かるほど、気配が漏れている。

 まったく、お父さんに名前を呼ばれた程度でキョドるんじゃないよ。


「お前か」

「は、はい!」

「娘をどうするつもりだ?」


 スゲー迫力!

 でも、どうするかは、バルツァー伯爵次第ですよ。ベンと結婚させるにしても、そうでないにしてもね。


「バルツァー伯爵。その話は後でしましょう」

「……いいだろう。診てもらった後で話を聞こうか」


 バルツァー伯爵を変換で見たけど、まったくの健康体……ではなかった。

 本人は隠しているようだけど、長らく酷使してきた左膝がかなり悪い。本来あるべき軟骨がまったくない状態だ。

 平然と部屋に入ってきたけど、相当痛むはずだ。あと水虫。

 水虫はこの国の兵士や騎士に多い。軍人にとって職業病みたいなものだな、水虫は。


 うちやバイエルライン公爵家、それに神殿騎士の多くが水虫に悩んでいたから、塗り薬を皆に与えている。

 そしたら、結構な人がデウロ信徒になってくれた。こういった地道な啓蒙活動は大事だよね。


 そして、軍人のバルツァー伯爵も相当酷い水虫に悩まされているようだ。

 王国軍にデウロ信者を作るいいきっかけになりそうだ。フフフ。


ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


気に入った! もっと読みたい! と思いましたら評価してください。

『ブックマーク』『いいね』『評価』『レビュー』をよろしくです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
古来より世界中の軍隊で水虫は悩まされてきたある意味、軍の風土病 それを治療できる神の薬・・ これはデウロ様が水虫治療の神として軍人たちに信仰される未来がみえます・・・ デウロ様は苦笑するだろうけど…
革靴を履いたまま数週間 沼と泥と塹壕にまみれ、地べたに寝る事もある そら水虫まみれやろなって 昔は足の指無くなって、傷痍軍人扱いされる人も居られたとか 軍人達をあまねく加護する薬の神としてしこたま信…
ファンタジーに水虫はもう定番なのね。 足元大切!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ