第82話 為政者側のあれこれ
書籍化が決定しました。ありがとうございます。
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第82話 為政者側のあれこれ
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▽▽▽ Side 第七王子ラインハルト・クルディア ▽▽▽
僕は恥ずかしい。
あの時、僕は何もできなかった。
ランクSなどともて囃されていても、なす術なく気絶させられてしまった。
それに比べてトーマ君はすごい。
僕がこうして無事で過ごせるのも、トーマ君のおかげなのだ。
どうしたら僕もトーマ君のようになれるのだろうか。
王子とか次期国王とか関係なしに、僕はトーマ君の横に立てるようになりたい。
「ラインハルト。またふさぎ込んでいるの?」
窓のそとを見つめながら考え事をしていたら、アンネお姉様がお越しになった。
「トーマ君はあんなにすごいのに、僕はだらしなくて……」
「わたくしはトーマ殿が幼いころから苦労され、そして努力をしてきたと聞いています。それにトーマ殿は使徒様なのでしょ? だったら、あなたよりすごくて当たり前ではないですか。あなたがするべきことは、トーマ殿に追いつこうという意志を持ち続け、努力を怠らないことですよ」
「アンネお姉様……そうですね。トーマ君は多くの努力をして今の力を手にいれたのですね! 僕もトーマ君に負けないようにもっともっと努力します!」
「その意気ですよ、ラインハルト」
アンネお姉様のおかげで、吹っ切れた気がする。
トーマ君には追いつけないかもしれないけど、いつかはその隣に立てるように努力をしよう!
▽▽▽ Side 国王オトフリート・クルディア ▽▽▽
まさかカトリアス聖王国がこれほど愚かだったとはな。
しかも我が子ラインハルトを攫おうだなどと、決して許せるものではない。
今回は使徒のトーマも誘拐の対象になっておった。教皇もかなり憤っている。
それにミューゼル公爵家末妹と、ファンデンベルグ侯爵家の四男が覇天の襲撃によって死んだ。
ミューゼル公爵はなんとか抑え込めるが、ファンデンベルグ侯爵は戦だと声を大きくしている。
困ったことにバイエルライン公爵もカトリアス聖王国を滅ぼせと余に迫る有様だ。
余とてカトリアス聖王国を滅ぼせるものなら、滅ぼしてやりたい。だが、戦をしたら困るのは民である。簡単に戦の判断を下せるものではない。
戦をさけつつ、カトリアス聖王国の者どもに罰を与えることはできないものか。
「陛下! カトリアス聖王国の蛮行を許せば、我が国は他国より舐められますぞ! 今すぐ進軍の命をいただきたい!」
クルディア王国最高評議会では、ファンデンベルグ侯爵が吠えておる。
ここ最近、こればかりである。
「ファンデンベルグ侯、そう怒鳴らずとも聞こえておる。もそっと声を抑えてくれぬか」
「バイエルライン公も孫が襲われておられると聞いた。なぜそのように平然としておるのか!?」
バイエルライン公爵がファンデンベルグ侯爵の矢面に立ってくれるおかげで、戦の話は先延ばしにしている。
あの御仁は内心で戦を望んでいても、それを面に出さずに余の意を汲んでくれる。ありがたいのだが、それが逆に怖いのだ。いつ、バイエルライン公爵の怒りが大爆発するかと考えるとな。
だが、あの勢いでは、余の命がなくともファンデンベルグ侯爵は軍を起こすに違いない。そうならぬように、カトリアス聖王国への制裁を考えねばならぬ。
頭が痛いことよ……。
▽▽▽ Side カトリアス派総大主教・ゴリアテ ▽▽▽
あらあら、覇天のビシュノウちゃんが失敗したのね。
まさかビシュノウちゃんが失敗するなんて思ってもいなかったわ。
しかも捕縛されたらしいわ。なんて様なのかしら。
「ビシュノウめ、無様に捕縛されおって!」
アーサーが馬王の入ったゴブレットを壁に投げつけた。滅多に手に入らない美味しいお酒なのに、勿体ないわね。
「所詮は魔族よ、あてにするほうがいけなかったのだ」
そんなことを言うのは、マッカランだわ。一番ビシュノウちゃんを使っていたくせに、よく言うわね。
でも、あたしも気に入らないわ。せっかくいい玩具ができると思ったのに。まったく、役に立たないわね。
「ビシュノウちゃんは、自害したのかしら」
できればあたしの手でジワジワと殺してあげたかったわ。
「あいつに限って生き恥を晒すとは思えぬが……」
「ふん。魔族などに何を期待しておるのだ。命欲しさに、敵に降っておるんじゃないのか」
アーサーの言うように、敵に降っていたら面倒ね。こちらの情報を知り尽くしているもの、あの子。
「戦の支度をしておくべきだな」
「攻める口実が手に入ったのだ、攻めてこぬほうがおかしい。俺も戦の支度はするべきだと思うぞ」
あらあら、マッカランとアーサーの息が合うなんて珍しいわね。でも、ビシュノウちゃんが自害したとは限らないから、こちらの情報を喋っている可能性は捨てきれないわね。
「あたしは反対よ」
「「なんだと」」
「戦をしたければ、あなたたちだけでするといいわ」
「ふん。臆したか」
「女々しいゴリアテなど、無視すればいい!」
「なんとでも言うといいわ」
ビシュノウちゃんは、決して無能じゃない。そのビシュノウちゃんが捕縛されるほどの何かがクルディア王国にはある。
もしかして使徒っていうのも、本当のことかもしれないわね。それを見極めてからでも遅くはないわ。
それに、もし戦になったとして、この二人が必ず勝つとは限らないもの。その時は一気にあたしの勢力を伸ばす機会だわ。ウフフフ。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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