第79話 襲撃、そして決着
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第79話 襲撃、そして決着
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「さて、生意気な子供にはお仕置きが必要だな」
「莫迦な大人は死ななければ治らないぜ」
「口だけは本当に達者だな」
「っ!?」
ビシュノウが姿を現した。その瞬間、俺の左腕に激痛が走った。まったく殺気を感じることができず、俺の反応は遅れた。
「くっ」
慌てて自重ソードを振ったが、すでにビシュノウの姿はなかった。
そして俺の左腕は肘上十センチメートルのところで、骨が露出するほど深く斬り裂かれていた。
血がとめどなく流れ出ていく寒々とした感覚があった。
「次はどこがいい」
「……変態かよ」
「クククククク。まだ口は達者だな」
「がっ!?」
右足の痛みと同時に、地面を感じなくなりその場に倒れた。ヤツはどこにいるんだ!?
目に入った光景は、俺の右足が膝下からなくなっているものだった。
こいつ、まったく殺気を出さない。しかもかなり遠いところから俺の身体を傷つけることができるようだ。
さっきまで殺気を纏った何かが飛んできていたのに、姿を見せてからは殺気が完全に消えた。まるで遊ばれているような気分だ。
痛みと悔しさに奥歯を強く噛み、闇の中にいるビシュノウを睨めつける。もちろん、どこにいるかは分からない。
「ハハハ。無様だな」
「暗闇から攻撃されれば、こうなるよ……」
めっちゃ痛ぇぇぇっ。
この痛みの分は、しっかりやり返すからな!
「こんなことで俺が諦めるとでも思っているのか。これだから雑魚の考えは浅はかなんだ」
「ここまでされても泣いて命乞いしないか」
「がっ!?」
今度は左足が斬られた。やっぱりビシュノウの姿は見えない。くそ、このままではヤバい。
「クククククク。これでお前は一生自分の足で歩けぬぞ」
そう言いながらヤツは俺の右側からその姿を現した。
「歩けなくてもっ」
「ハーッハハハハ! 見上げた根性だ。その根性だけは認めてやろう」
そう言うなり黒い何かが俺の右腕に刺し、引き裂いた。これは影か!?
「うぐっ」
「ハーッハハハハ、アハハハハハハ。両足だけでなく、右腕も失ったぞ。今度はその落ちかけの左腕を斬り裂いてやろうか?」
「それは……ご丁寧に……」
「四肢を使えないお前など、なんの役にも立たぬわ。使徒などと言ってもこの程度か」
「俺が使徒だと知っているのか」
「フフフ。本当はラインハルト王子だけを攫う予定だったが、お前も攫えと命じられたのよ。使徒の化けの皮を剥してやるってな」
どうやら俺のことが気に入らないヤツがいるらしい。
それにビシュノウの称号にあった、覇天の長とはなんだ? 覇天という組織を束ねているととれるが、その覇天とは犯罪組織なのか。
「なあ、誰が俺を攫えと言ったんだ?」
「それを知る必要はない」
「冷たいヤツだな」
「さて、お前にはしばらく眠っていてもらおうか」
「まだ眠くないんだがな」
嘘だ。めちゃくちゃ眠たくなってきた。このままだと、失血多量でまじでヤバい。永眠しそうだ。
「安心しろ。ここでは殺さんし、死ぬようなことはない。《《今はな》》」
「そりゃどーも」
「そういえば、お前の母親は生きていたんだな」
「……何を言っているんだ?」
なぜこいつがお母さんのことを口にする。まさかお母さんも攫うつもりなのか!? そんなことはさせないぞ!
「ギャハハハハハ! 勘違いするな。《《今回の標的》》はお前とラインハルト王子だけだ」
「………」
今回の標的だと? どういうことだ? これからお母さんを攫う計画があるのか?
「ギャーッハッハッハッハ! 幼かったヘルミーナを攫ったのは俺だよ」
「なっ!?」
「大雨に紛れて攫ってやったんだが、船で移動中に川に飛び込みやがったんだ。長雨の影響でライバー川は濁流となっていたからな。あれでは生きてないと諦めたものだ。実際、捜しても見つからなかったからな」
「お、お前がお母さんをっ!?」
「ああ、まさかライトスターの奴隷になって弄ばれているとはな。ヒヒヒヒヒヒ」
「お前がっ!?」
怒りで視界が真っ赤に染まる。こいつがお母様を攫ったせいで、お母さんは記憶を失い、奴隷に落とされ、ライトスターに犯された!
こいつがっ! この野郎がっ!
「お、お前だけはぁぁぁぁぁっ!」
「なんだ、俺を許さないって言うのか? だが、無駄だ。お前は俺に復讐することなど敵わん。お前はこれから攫われて死ぬまで日の目を見ることはない」
ニタリと厭らしい笑みを浮かべたビシュノウ。その笑みが俺の怒りをさらに燃え上がらせた。
お母さんを攫ったこいつだけは許さん!
ヤツは余裕の表情でゆっくりと歩いてくる。そんなビシュノウを俺は瞬きすることなく睨みつける。
「それじゃあな、使徒様よ。次に目覚めた時は、地獄にいることだろう」
「地獄にいるのは、お前かもしれないぞ」
「現実が見えてないガキだ。ククク。これからお前がいくところは、殺してくれと懇願するような場所だ。その強気がどこまで通用するか見ものだな」
「………」
「さあ、眠るがいい」
―――変換。
「ガァァァァァァァッ!?」
体が軽くなり、手足の感覚が戻ってきた。
俺はゆっくり立ち上がり、倒れてのたうち回っているビシュノウを見下ろした。
変換は便利なスキルだけど、どれも対象までの距離が離れていると使えない。だからギリギリまで引き付けないとできないんだ。
今回使った事象変換も射程の長さは大したことない。対象がある程度近くにいないといけないのだ。
こいつが余裕をかまして、姿を見せてくれたおかげで、今回はなんとかなった。
そしてお母さんの誘拐の真相も聞けた。油断したこいつのおかげでな。
「ふー……。お前だけは許さないからな」
「アガガガッ」
お前はこれまでに多くの人に恐怖や苦痛を与えてきたんだろ? そういった人たちの苦しみや痛みに比べれば、今お前が受けている痛みは大したことないはずだぞ。
そして、お母さんの記憶をお前が奪った。それはお前の命で償うなんて生やさしいことじゃないんだぜ。
「痛いのか? 痛くて泣いているのか? でもな、お前がこれまでやってきたことを振り返ってみろよ。痛いなんて恥ずかしくて言えないんじゃないか?」
「な、何を……した」
お前が間抜けなおかげで、形勢逆転しただけだ。
「言うわけないだろ」
「クソッ! ……ど、どうしてっ!?」
ビシュノウが何かしようとしたようだが、何も起きない。
「お前は俺を怒らせた。こんな怒りを覚えたのは、ティライア以来だ」
ライトスター家の人たちへの怒りの数百倍、俺はお前に怒っているんだぞ。
「な、何が!? なんでスキルが発動しない!?」
お前のランクをランクFまで落としておいたんだよ。
五段階も下げたから、お前の加護はただの村人になっている。つまり、お前が持っていたスキルは全て消え去ったんだよ。
ほら、暗闇が晴れていく。
「あががが……」
「なあ、誰がお母さんを攫うように命じたんだ?」
「………」
「まあいいや」
そのことはあとからゆっくりと聞かせてもらう。どうせあの尋問官が出てくるんだから、俺も立ち会わせてもらうとしよう。
俺は左手でヤツの口を掴み、右手をその口の中に突っ込んだ。気分がいいものではないが、これはやっておかないとな。
「うがぁぁぁががぁぁぁぁ」
「よし、抜けた」
奥歯を抜いてヤツに見せる。
「この毒で死ぬことはできないぞ」
そう、この歯には毒が仕込まれていた。それを俺は踏みつぶした。
さらに靴下を脱いでビシュノウの口に詰め込んだ。舌を噛んで死なせるつもりもない。
死ぬにしても、こいつに相応しい死に方がある。それは決して自死ではないのだ。
お母さんを攫った罪はしっかり償ってもらうぞ。一生地獄のような苦しみを味合わせてやるからな。
「トーマ様!」
シュザンナ隊長だ。
「ご無事ですか!?」
「ええ、無事ですよ」
「服がっ!? それに血も!?」
「そんなに慌てないでください。この通り傷一つありませんから」
俺の怪我は全てビシュノウが背負ってくれた。自分が俺に与えた怪我だから、ビシュノウが責任をもって受け持ってくれることだろう。
「こいつが、今回の騒動のリーダーのようです」
「この者を捕縛しろ」
捕縛しなくても、もう逃げることはできないけどね。
「決して死なせないようにしてくださいね。こいつには色々聞かないといけないので」
「承知しました!」
さて、ラインハルト君は……。
うん、生きているね。よかった。死んでいたら、大変なことになっていたよ。
「こいつの部下もいると思うのですが、どうなりました?」
これだけの騒動を起こして、一人ってことはないだろう。
「ベン殿とシャーミー殿と我ら、それから教師に紛れていた騎士らで粗方片づけました」
「それはよかった」
ご愛読ありがとうございます。
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