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第78話 覇天のビシュノウ

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

 ■■■■■■■■■■

 第78話 覇天のビシュノウ

 ■■■■■■■■■■


 エキシビションマッチの相手は、言わずと知れたラインハルト君だ。

 さすがは滅多にいないランクS。

 それに、今日も相変わらずの貴公子ぶりですね。容姿では負けても、エキシビションマッチでは負けないんだから!


「やっぱりトーマ君が僕の相手になったね」

「それは俺のセリフだよ、ラインハルト君」


 五月の光がラインハルト君にだけ集まったような錯覚を起こさせるいい笑顔だ。

 そんなラインハルト君への声援が会場を割らんばかりだ。俺、完全にアウェーだよ。

 まあ、王子と成り上がり者だから、こうなるのも仕方がないか。


「これよりラインハルト・クルディア第七王子対トーマ・バルド・ロックスフォール侯爵のエキシビションマッチを行う。エキシビションマッチだが、手を抜かず全力で戦うように」


 エキシビションマッチは一応成績に反映されないし、相手が王子のラインハルト君でも関係ない。

 俺は……お父様の名にかけて負けるつもりはない!


「それでは……開始!」


 ラインハルト君は開始の合図と共に間合いを詰めてきた。


「はぁぁぁぁぁっ」


 振り下ろした剣を自重ソードで受け止める。

 動きは早く、剣筋も鋭い。レベル以上のものに感じるのは、迅雷の英雄という加護の効果によるものだろう。


「相変わらず軽々受け止めるね!」


 蹴りを放ちつつ、ラインハルト君は後方に跳んで距離を取った。

 今はレベルによるアドバンテージがあるから受け止めるのは簡単だけど、同じレベルになったら受け止められないかもしれない。それほど鋭い剣筋だ。


 再び一瞬で間合いを詰めたラインハルト君は、連撃を放ってきた。


「たぁぁぁぁぁっ」


 緩急をつけたいい攻撃だ。

 俺は足を使いその攻撃を躱していく。


「やっぱりトーマ君には届かないか」

「いい攻撃だよ」

「トーマ君にそう言われても、納得できないよ」

「だったら、左腕の使い方が甘いよ」

「うっ……それはそれで傷つくんだけど」

「理不尽!」


 何も言えないじゃないか、まったく。


「今は届かないかもしれないけど、いつかきっとトーマ君に一発入れてやるからね」

「その時を待っているよ」


 言い終わると同時に俺は動いた。

 ラインハルト君の正面で自重ソードを振り上げる。ラインハルト君はそれを盾で受けようとするが、俺は打ち込むことなく彼の後方に回り込んだ。

 そして、彼の首筋に自重ソードを当てる。


「……参りました」


 会場はシーンと静まり返った。俺が勝つとは思っていなかったのかな。


「そ、それまで。勝者トーマ・バルド・ロックスフォール!」


 しまった、魔道具として自重ソードを使ってなかった。まあ、エキシビションマッチだし、いいか。


「やっぱりトーマ君は強いな」

「そんなこと、少しはあるかな」


 お互いに笑いあった。

 その時だった。轟音がし、振り返ると観客席が派手に燃え上がっていた。


「な、何が!?」


 ラインハルト君のそんな声とほぼ同時に、競技場が火の海になる。

 俺は無意識にラインハルト君を抱えて跳び退いていた。

 審判先生が火の海の中でのたうち回っているが、ラインハルト君を抱えているから助けることができなかった。


「あっつ!?」


 背中に猛烈な熱を感じた。お尻に火が着いた気分だ。


「ほう、あれを躱すとは、いい勘をしているな」

「誰だ!?」


 炎の中から人影がゆっくりと進み出てくる。熱くないのかなと思ってしまう。


「ラインハルト王子とトーマだな」

「え、俺は呼び捨て?」


 初対面の人に呼び捨てにされる覚えはない!


「フフフ。この状況が分かってないようだな」


 分かっているよ。

 ラインハルト君を狙った何者かの襲撃だろ。俺は理解力はあるほうだと自負しているんだ。


「と、トーマ君。下ろしてくれるかな」


 ラインハルト君が恥ずかしそうに言った。


「あいつはヤバい。ラインハルト君を守るだけの余裕はないかもしれない。だから、俺が時間を稼ぐから、全力で逃げて」

「そんなこと!」

「逃げるんだ。ラインハルト君は足手まといでしかない」

「うっ……」


 ラインハルト君には悪いけど、無駄な言い合いをしている暇はない。

 あいつはさっきから俺に殺気を当て、俺の反応を見ているんだ。


 変換で見るまでもなく、以前俺を襲ったベルグなど比較にもならない強さを感じる。


「相談は終わったか?」

「ああ、終わったよ。それで聞くが、俺たちを逃がしてくれるなんてことはないよな?」

「フフフ。悪いが、それはない」

「きっぱりかよ。狙いはなんだ!?」

「狙い? ククククククッ。お前自身、分かっているのではないか?」

「俺自身?」


 まさかラインハルト君ではなく、俺を狙ってのことか?

 だったら、猶更ラインハルト君を巻き込むわけにはいかない。なんとしても、彼を逃がさないと。


「さあ、かかってこい」


 ヤツは真っ黒な剣を鞘から抜いた。

 なんだよ、その中二心をくすぐる格好いい剣は!?


 = ・ = ・ = ・ = ・ = ・ = ・ = ・ =

【個体名】 ビシュノウ

【種 族】 シャドー族

【情 報】 男 255歳 健康

【称 号】 暗殺者 カトリアス派幹部 覇天の長

【ランク】 A

【属 性】 影

【加 護】 邪剣の影

【レベル】 312

【スキル】 暗殺術・レベル7 影剣術・レベル7 影魔法・レベル7 影の世界(シャドー・ワールド)・レベル6

【ライフ】 3,400

【スタミナ】 2,900

【マ ナ】 2,020

 = ・ = ・ = ・ = ・ = ・ = ・ = ・ =


 息が苦しい。押しつぶされそうなプレッシャーだ。


「っひっひっふー、っひっひっふー、っひっひっふー」

「と、トーマ君?」

「ちょっと息苦しかったので、呼吸法を使っただけだから気にしないで」

「そう……」

「さて、あまり時間をかけていられないから、大人しく武器を捨てろ」

「え、嫌なんですけど?」

「だったら痛い目に遭ってもらうぞ」

「もっと嫌なんですけど」

「ふざけたガキだ」


 ビシュノウが動いたと感じた。俺は大きく跳び退き、ラインハルト君を投げた。


「逃げろ!」


 ラインハルト君は通路の前で綺麗な着地を見せた。さすがは迅雷の英雄だ。


「甘いな。影の世界(シャドー・ワールド)


 ビシュノウが発動したスキルにより、俺は真っ暗な空間に閉じ込められた。


「この影の世界(シャドー・ワールド)からは誰も逃られない。諦めるのだな」


 何も見えない真っ黒な世界の中に、ビシュノウの声が響いた。


「これはなんだ!? トーマ君! どこにいるんだ!?」


 ラインハルト君の焦った声が響く。どうやらラインハルト君もこの真っ暗な空間に閉じ込められてしまったようだ。

 マズいな、俺にはビシュノウだけでなく、ラインハルト君のいる場所も分からない。これではラインハルト君を守ることができないぞ。

 こうなると、ラインハルト君を投げたことは失敗だったか。


「っ!?」


 殺気を感じ、自重ソードを振った。キンッと甲高い音がした。手応えはあるが、何が飛んできたかは分からない。

 床に何かが落ちた音はしたが、ビシュノウの気配はまったく感じない。


「うっ、かはっ……」

「ラインハルト君!?」


 返事がない。


「ラインハルト君、大丈夫か!?」

「フフフ。無駄だ」


 暗闇の中方ビシュノウの声がした。それは左からだ。


「ラインハルト君に何をした!?」

「安心しろ。《《まだ》》殺してはいない」


 殺されてはたまらないが、この状況をどうやって打破するか。

 それよりも、今度は右側から聞こえただと?

 まったく動いた気配を感じないのに、移動しているというのか?


「トーマも痛い目を見ないうちに大人しくしたほうがいいぞ」

「勝手に言っておけよ」

「フフフ。生意気な小僧だ」


 カキンッ。

 また何かが飛んできたので弾いた。投擲する際はわずかに殺気が漏れる。それだけが救いか。


「勘がいいな」

「見えないところから攻撃するとか、卑怯だな」

「フフフ。卑怯? 甘いな。確実に勝てる状況を作り出すことこそ、兵法の極意だぞ」

「卑怯者が兵法を語るのか」

「何をもって卑怯と言うかは、見解の相違だな」

「大人のくせに子供を攫おうというヤツを、卑怯者のクズって言うんだぜ」

「減らず口を」


 喋っている間も何かが飛んでくる。一瞬も気が抜けない、緊迫した時間がゆっくりすぎるくらいに過ぎていく。



ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
ステータスでは圧倒的な差をつけて勝ってるけどなんで苦戦するんだろう?
ヤッチマイナー!!
鑑定してる余裕あるならランク落とせないの? 出来ないなら最初に条件を書いとくべきだと思う
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