第8話 クズはどこにでも湧いて出る
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第8話 クズはどこにでも湧いて出る
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拳が俺の左頬に叩きつけられる。殴られた俺は、倒れた。
「アハハハ! クズは弱いな!」
俺を殴ったのは、ジャイズという六歳の子供だ。
俺は一歳三カ月くらいで、辛うじて自分で歩ける程度である。さすがに六歳の子に勝てるわけがない。
だが、見ている人は誰もジャイズを注意しない。
ジャイズは御屋形様の嫡孫(嫡子の嫡子)。簡単にいうと、将来このライトスター侯爵家を継ぐべき血統確かな子供である。
俺のような妾の子が仮に殺されても、誰もジャイズを責めることはないだろう。
生活環境が変わって数カ月、色々分かったことがある。さっきも出たが、この家はライトスター侯爵家だ。
当主(御屋形様)はエルガード・バルド・ライトスター侯爵(六十二歳)。
嫡子(ジャイズの父親)はバドラス・バルド・ライトスターで、現在は領内のことのほとんどを差配している。
ライトスター侯爵家が所属しているのは、クルディア王国。
ライトスター侯爵家が治めているバルド領は、クルディア王国の南部の肥沃な土地で小麦の栽培量が国内随一なのだとか。
ジャイズは俺にとって年上の甥っ子ということになるが、向こうは俺を血の繋がった親族とは思っていない。
「お前は奴隷の子だ! 俺様の前に現れること自体許されないんだぞ!」
俺様とか言うヤツ……結構いたな。前世の父親やクラスメイトの石破拳も俺様って言っていた。意外と多いんだよな、俺様君。
ただ、ここは離れ(別宅)でジャイズが住む本宅ではない。わざわざここにきているのはジャイズのほうであり、俺が本宅に出向いているわけじゃないんだ。つまり、あえて俺や他の妾の子供たちを殴りにきているんだ、こいつ。
多分、ジャイズは俺の名前さえ知らない。他の妾の子供たちの名前も知らない。ただ目についた子供を殴って楽しんでいるだけなんだ。いくら子供でも、反吐が出るほどのクズだ。
ひとしきり殴られ、蹴られた。殴り疲れたジャイズは激しい息遣いだ。ぽっちゃりを通り越した体形をしているし、ちょっと激しく動くと息切れがする。体力がないのがよく分かる。
「ぜぇはぁぜぇはぁ。今日はこれくらいで勘弁してやる!」
ジャイズはお笑い芸人のような言葉を吐き、肩やお腹を揺らして歩いていった。
かなり痛いが、ダメージは最低限に抑えた。骨を折ったり、内臓にダメージがあると命に係わるから、それだけは避けなければいけない。
俺は前世で殴られ慣れていたことで、いつの間にかこういった致命傷を避ける技術が身についてしまったのだ。もちろん、限度はある。だから、殴られないのが一番だ。
「トーマ。大丈夫かい?」
抱き起こしてくれたのは、母親と仲がいいルイスさんだ。彼女もまだ二十歳で、実家があまり裕福でないから親に売られたらしい。奴隷と大して変わらない境遇だ。子供が一人、俺より一歳年上の女の子がいる。
「ダイジョーブ」
口の中を少し切ったが、傷は大したことない。ジャイズより前世の父親に殴られたほうがキツかった。
「ごめんね、トーマ。守ってあげられなくて……」
「わるいのは じゃいず ルイスさんは わるく ない」
ルイスさんは俺を抱きしめてくれた。人間というのは、こういう人のことをいうのだと思う。決して本宅に住んでいるヤツらのことじゃない。
ルイスさんが抱っこして母親のところに連れていってくれた。俺は歩けるし、歩いたほうが体が鍛えられるからそうしたかったけど、ルイスさんが離してくれなかった。
「トーマ!」
「またジャイズ様にやられたの」
「オレは ダイジョーブ」
「トーマ……」
俺はルイスさんから母親の腕の中に渡された。
「ごめんね、トーマ。ごめん……ごめん……」
母親は涙を流して、俺に謝った。前世では母親からも虐待されていた俺だが、今世ではいい母親に巡り合えた。それはとても嬉しいことだ。
自分の部屋で一人になった俺は、いつものようにスキルを使った。
藁を大豆にし、齧る。大豆は栄養満点だ。体を作るために、食べている。そしてマナを使い果たしたら寝るに限る。
【レベルがあがりました】
スキルを使い続けていたら、なんとレベルが上がるんだ。スキルレベルじゃなく、ただのレベルのほう、おそらく身体のレベルが上がったんだよ。
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【個体名】 トーマ
【種 族】 半神(ヒューマン・神族)
【情 報】 男 1歳 健康
【称 号】 ×××の使徒
【ランク】 G
【属 性】 神
【加 護】 変換の神(未覚醒)
【レベル】 3
【スキル】 変換・レベル1
【ライフ】 5(25)
【スタミナ】 6(31)
【マ ナ】 7(37)
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能力の()内の数字は、本来そのレベルの正しい能力値になるらしい。俺はまだ幼児なので、能力値が制限されているようだ。
使えるマナが少しだけど増えたおかげで、変換できる量が増えた。といっても、少しだけど。
母親が妾になってこの離れに住めるが、俺たちが置かれた環境は安全ではない。できるだけ早くレベルを上げるべきだと思っている俺は、マナ不足による気絶を繰り返すのだった。それがレベルを上げてくれるのだから、やらない選択肢はない。
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