第77話 魔法大会決勝戦
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
■■■■■■■■■■
第77話 魔法大会決勝戦
■■■■■■■■■■
決勝戦当日。
朝食時に、お爺様から話があると言われた。
食後、リビングでお爺様が話を始めた。
「ウイドール・ゲルシュバイツァーが半月ほど前に死んだぞ」
「うい……」
え、誰? そんな名前に覚えはないのですが?
「ファイアットとライトスターの弁護を行っていた弁護人だ」
「ああ、あの人ですか」
たしか脳梗塞により既に左半身に痺れがあったはずの人だ。
「……せっかく教えてあげたのに、治療を受けなかったのですね」
「いきなり倒れ、そのまま逝ったらしい」
「そうですか」
「それでな、トーマに病があるか見てほしいという者らが何人かおるのだ」
「はい?」
「皆、死が怖いのだ。だから、トーマに病がないか診てもらいたいのだ」
「はぁ、そうですか。お爺様に……」
ちょっと待てよ。これはデウロ様の信仰を広げるいい機会かもしれないぞ!
「お爺様にお任せします。いいように取り計らってもらえますか。事前に分かっていれば、予定は空けるようにしますので。ただ、一つだけお願いがあります」
「願い? 何かな?」
「俺が診た人の領地で、デウロ様を信仰するように約束を取りつけてほしいのです」
「なるほどな。トーマに加護を与えてくださった神だ。トーマの力に頼るなら、デウロ神へ篤い信仰を捧げるのは当然だな。分かった。そのようにしよう」
「よろしくお願いします」
この世界の治療は、主に神官が行っている。光属性で怪我を治したりするんだ。
でも、病気は神官の治療でも治らないことが多い。
人間の体の構造とか分かってないみたいだし、何よりもウィルスや細菌の存在を理解していないからだと思う。
登校した俺は控室で精神集中している。
実力で負けるなら納得いくが、油断して負けるのは納得いかない。だから、今日の決勝戦も油断せず、対戦相手を倒す。
「トーマ君。魔道具の確認をするよ」
「はい」
教師に呼ばれ立ち上がる。控室に入ってきたのは、教師が二人と神殿騎士のシュザンナ隊長と三人の神殿騎士だ。
今日は自重ソードを持ってきている。
一人の教師が自重ソードを確認し、もう一人の教師が魔道具を隠し持ってないかチェックする。
「問題ないですね」
「こちらも問題ないです」
二人の教師が問題ないと判断し、俺は競技場へと進んだ。
対戦相手のクラウディア嬢がすでに競技場に上がっていた。
「やっぱり決勝の相手はトーマ様でしたわね」
「父の名誉のためにも、負けるわけにはいきませんから」
「ロックスフォール様のお話は、わたくしも聞き及んでおります。五年間無敗の伝説的なお方ですわ。できれば、わたくしもそうありたいと思いますが、相手がトーマ様では簡単ではないでしょうね」
うんうん。分かっているじゃないか、クラウディア嬢!
お父様のことはもっとリスペクトしていいんだよ。
「二人とも、決勝戦だ。悔いののこらないように、全力を出して競い合いなさい」
「「はい」」
審判先生の指示に従い、開始位置まで移動する。
そして決勝戦が開始される。
「はじめ!」
「光の大神ライトルイド様に祈りを捧げます。ライトアロー!」
クラウディア嬢は開始と同時に、魔法を放ってくる。
光属性の矢だけあって、なかなか速い。
ライトアローを半歩移動して避ける。
「光の大神ライトルイド様に祈りを捧げます。フラッシュ!」
視界が真っ白になった。まさかデバフを使ってくるとは思わなかった。いい判断だと思う。
「光の大神ライトルイド様に祈りを捧げます。ライトアロー!」
視界を潰して攻撃は、いい作戦だ。
だけど、俺は負けるわけにはいかないのだ!
自重ソードを抜き、斬り上げる。手応えあり!
「え!?」
自重ソードはライトアローを見事に斬り裂いた。見えないけど手応えはあったし、俺にライトアローが届いてないから、間違いなく斬ったはずだ。
「目が見えてるのですか!?」
「いや、見えないよ」
視界は真っ白ですよ。
「それで魔法を斬るなんて、非常識ですわ!」
「やってみたらできちゃった感じ?」
「そんなことで、魔法を斬るなんて……」
俺も目が見えない状態で魔法を斬るのは初めてだ。
うちには光魔法の使い手であるシャーミーがいるから、こういう魔法があることは知っていた。
知っているのだから、対策は立ててある。
今年の初めから目隠しして戦えるように訓練している。さすがにここまで上手く魔法を斬れるとは、自分でも思っていなかったけど、今回は運がよかったようだ。
「こうなったら、物量で押しますわ!」
俺の目がまだ見えないため、クラウディア嬢は物量で押してくるらしい。そういうことは思っても言わないほうがいいと思う。
―――変換!
「キャッ」
俺の視界がクリアになると同時に、クラウディア嬢があたふたして尻餅をついた。
「え? 何? どういうことですの!?」
クラウディア嬢と俺の視界を変換しただけです。
自分の魔法で、自分の視界が奪われることなんてないだろうから、クラウディア嬢はかなり慌てている。
そんなクラウディア嬢に向け、俺は自重ソードを振った。
「きゃっ……」
自重ソードの斬撃を受けたクラウディア嬢は、力なく眠るように気絶した。
「そ、そこまで! 勝者トーマ・バルド・ロックスフォール侯爵!」
視界を奪うのはいい作戦だったけど、自分が状態異常になった際の対策ができてないのは残念なところだ。
俺のように目隠しで訓練していれば、もしかしたら結果は少し変わっていたかもしれない。
可愛い寝顔をしたクラウディア嬢は、一分ほどで意識を取り戻した。
「わたくし、とても不思議な体験をした気がします」
気絶するほどの攻撃を受けたのに、怪我がまったくないことに首を傾げている。
綺麗な顔に傷が残ったら大変だから、怪我がないことはいいことだ。
その後、表彰式があり、俺は優勝トロフィーを受け取った。
「午後からは武術大会の優勝者との模擬戦がある。それまでゆっくり休みたまえ」
「分かりました」
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
気に入った! もっと読みたい! と思いましたら評価してください。
『ブックマーク』『いいね』『評価』『レビュー』をよろしくです。