第76話 本戦開始
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第76話 本戦開始
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三次予選の翌日、お爺様が帰ってきた。
お爺様は俺の領地になったバルド領に入り、これまでライトスター家の後始末をしていてくれたのだ。
「膿は出し切ったが、問題は山積みだ」
お爺様はかなりお疲れのようだ。あとから、長命酒よりも疲労回復に効くお酒を差し入れよう。
ライトスター家は領内に違法薬物を流していた。おかげでかなりの数の薬物中毒者がいた。
これは事前に聞いていたが、実際に見るとその酷さがよく分かったらしい。
「薬物は徹底的に取り締まっておる。薬物中毒者は隔離して薬が抜けるのを待つしかない。トーマの領地なのだ、違法薬物は根絶するように命じてきた」
「それなら、その薬物に効く薬でも創りますか」
「できるのか?」
「症状を見てみないと分かりませんが、多分大丈夫です」
「ならば、中毒者を数名こちらに送るように命じておく」
「お手数をかけます、お爺様」
「何を言うか。トーマのおかげで私は生き甲斐を見つけたのだ。私はトーマに感謝しているのだぞ」
出会った頃のお爺様は、胃癌を抱えていた。あの頃に比べれば、顔色も肌の艶もよくなっている。
「でも、無理はしないでくださいね」
「玄孫の顔を見るまでは私は死なん!」
それは頼もしいですね!
お爺様も帰ってこられたので、お母さんとジークヴァルト、そしてお婆様、皆と共に過ごす。
もうすぐ子供が生まれるお母さんのお腹はとても大きく、赤ちゃんは元気にお腹を蹴っているらしい。
早く出ておいで。俺に可愛いその顔を早く見せてくれ。
魔法大会本戦一日目。
「トーマーッ!」
「おう」
タリアに手を振り返すと、両手で派手に手を振ってきた。
もうタリアの声援に慣れてしまった。タリアは武術大会に出ているが、三次予戦で敗退している。
彼女はランクDの加護は騎士で二次予選は突破したが、三次予選の二戦目で負けてしまったのだ。
「あと一回勝てば本戦出場だったのに、残念だ」
「今の私の力を考えれば、十分いい成績よ」
タリアはモンスターと戦ったことないと言っていたが、レベルは五十八だった。
彼女は必死で努力したのだろう。手にあった剣タコを見れば、すぐにそれに思い至る。
だから俺は彼女のランクをAに上げておいた。そしたら、加護が雷鳴騎士になっていた。雷属性の魔法が使えるようになった彼女は、これからもしっかり成長をするはずだ。
俺は滅多なことではランクを弄らないけど、身内なのだから応援したいじゃないか。
さて、本戦はAブロックとBブロックがあり、各ブロックを勝ち抜いた生徒が明日の決勝戦に出場する。
俺はBブロックで、初戦は女子生徒だ。特に何かを語ることはなく、戦いは終わった。
女子生徒には悪いが、お父様の名にかけて、俺は負けない。
二戦目は俺と同じ魔道具を使った男子生徒だった。なんとかという伯爵家の三男らしい。
家柄で配慮されるのは、組み合わせや相手が格下の貴族だった場合だ。
レベルが違いすぎるので、苦戦することなく勝たせてもらった。
「なんでだよっ!? なんで魔道具が役に立たないんだ!?」
そんなに悔しいのか? マナ量を魔道具でブーストする違反してまで勝ちたかった?
「その左腕のブレスレット、よく検査を通ったね」
「なっ!?」
赤い石が複数嵌ったブレスレットは、マナを三千ポイントも上昇させる。それのおかげで高火力の魔道具を使えるだけなのだ、悔しがるものではないだろ。
こんなあからさまな違反は、検査する教師もグルなんだろうな。買収されている可能性は否定できないと思う。
「な、何を言っているんだ!?」
「別になんでもいいが、そんなことをしても負けたってことを考えるべきだよ」
「くっ!?」
反則しても勝てないのは、日頃努力をしていないからだ。だからレベルもたったの八なんだよ。
訓練はすればするほどレベルが上がる。高レベルになると訓練だけではあがらなくなるが、一桁なら訓練次第でレベル十を超えるのも難しくない。
「ちょっと君、左腕を見せなさい」
「え、そそれは!?」
審判の教師がその生徒のブレスレットを確認したところで、副審をしていた二人の教師も競技場に上がってきた。
「これは明らかな違反だ。君、こっちにきなさい」
「お、俺は!?」
「細かい話はこちらで確認します。とにかくきなさい」
ドナドナドーナー。
男子生徒は教師に連れていかれた。
「トーマ君はもういい。控室に戻りなさい」
「はい」
審判に促され、控室に移動した。
とりあえずこれでベストフォーだ。
三回戦も特にこれといって苦戦はしていない。
俺はレベル上げが極めて大事だったから一生懸命上げたんだけど、他の貴族の子弟たちはなんでこんなにレベルが低いのだろうか。
ランクが低いとレベルを上げてもあまり能力が増えないけど、それでもレベルを上げて悪いことはないはずなんだよな。
とはいえ、まだ十一歳ということを考えると、俺が異常なんだろうな。
「トーマ! 決勝戦出場、おめでとう!」
タリアが抱きついてきた。
おいおい、淑女がそんなことしていいのか?
「決勝戦もちゃんと見にいくからね!」
「ありがとう、タリア」
姉なんだが、なんというか妹みたいで可愛いんだよな。思わず、プラチナブロンドの髪を撫でてしまうじゃないか。
▽▽▽ Side 覇天のビシュノウ ▽▽▽
三年前から準備を進めておったが、やっと決行の許可を得たわ。
都合のいいことに、現在は武術大会と魔法大会を催しておる。おかげで、学園の警備は緩くなっておるわ。
「時がきた。皆、問題ないな」
配下の者らが無言の肯定を返してくる。
今回のターゲットは使徒と言われるガキと、この国の王子だ。元々王子を攫う計画が三年前からあったが、そこに使徒も追加と言ってきおった。本国の者どもは気軽に言ってくれるわ。
だが、我ならばやれる。そう、我ならば、厳重な王城にだって入って国王の首を持ち帰ることができるのだ。フフフ。
「散れ」
合図と共に、消えていく配下たち。
我もいくとするか。フフフ。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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