第72話 それは賄賂という
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第72話 それは賄賂という
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ダンッと衝撃を受け、たたらを踏む。タリアに抱きつかれたんだ。
「ちょっとタリア。危ないよ」
「私くらい受け止められなくて、使徒様や侯爵様なんてやってられないでしょ?」
「使徒様とか侯爵様って言わないでほしい」
「なんで? 学園でもその話でもちきりよ」
「タリアには今まで通りトーマと呼んでほしいんだ」
「エヘヘヘ。そう? じゃー、トーマね!」
彼女は俺の異母姉のタリア。抱きつかれて分かったが、かなり成長してらっしゃる。何がとは言わないけど、柔らかかった。
それに我が姉ながら、綺麗な子ですよ。
「タリア、はしたないわよ」
「はーい」
「ルイスさんお久しぶりです」
「はい。久しぶりね。アリューシャも色々大変だったわね」
「私にはトーマや旦那様がいたから、大して大変ではなかったわ」
「ロックスフォール様がいい人のようでよかったわ」
「ええ、とってもいい人よ」
「あらあら、お惚気ね。フフフ」
今日はお母さんとジークヴァルトと共に、リッテンハイム男爵の屋敷にお邪魔している。
タリアの母のルイスさんもお屋形様の妾だった人で、リッテンハイム男爵の後妻になっている。
「あなたがジークヴァルトちゃんね。私はルイスよ、よろしくね」
「よ、よろしくお願いします」
「私はタリアよ。こっちへいらっしゃい。抱っこしてあげるわ」
半ば無理矢理ジークヴァルトを抱っこしたタリアは、頬同士を合わせてジークヴァルトの柔らかさを堪能している。
「ねぇ、トーマ。色々お話ししてよ。色々派手にやっているみたいだから、楽しみだわ!」
「お茶の用意がしてあるわ。中庭にどうぞ」
二人に案内された中庭は、なかなか立派な庭だ。
今日は天気がよく暖かいけど、テーブルの周辺に魔道具らしきものが置かれており、春のような暖かさになっていた。
タリアとは手紙のやりとりをしていたから、基本的には何があったとかイベントは知っている。
それでもお喋り好きのタリアは、話に花を咲かせていた。
俺には異母兄姉が多くいるけど、今でも交流があるのはタリアくらいだ。
ライトスター家の離れで共に過ごしても、お屋形様のあの性格を引き継いだ兄や姉はいた。
余談だけど、俺の上にはたくさんの子供がいたけど、下にはあまりいない。俺が記憶しているのは一人だけだ。
学園に通うこと一カ月。と言っても週休四日である。
休みの日は毎日のようにダンジョンに入っている。おかげでアリラック・ダンジョンの二十五層のボスを倒した。レベルが高いと、サクサク進んで最深部へ到達するのも早かった。
このアリラック・ダンジョンは二十五層が最深層で、ここまで宝箱をいくつか発見した。しかし、デウロ様が仰っていたアイテムはなかったと思う。ビビッとくるアイテムはなかったから、多分違うと思う。
探すのは大変だとデウロ様は仰っていたから、ここからが本番だと思われる。
アイテムが見つからないまま、五月になった。三カ月くらい探し回っているが、見つからない。
もしかしたら、もう誰かに発見されて回収されたのか?
いや、そんなことはないはずだ。必ずどこかにある。そう思って探索を進める。
タリアとは週に一回は会っている。主にタリアがうちにきている。俺が作るお菓子に夢中なのだ。
あまり食べ過ぎると、ニキビができたり太ると言ったらショックを受けていたのが可愛かった。
学園では毎年五月に武術大会と魔法大会が行われる。
武術大会は剣、槍、弓などの武器を使った戦闘術を競うものなので、魔法系の攻撃は禁止だ。
逆に魔法大会では魔法以外の攻撃は禁止されている。
騎士科の生徒は武術大会に、強制参加になる。
魔法科の生徒は魔法大会に、強制参加になる。
そして教養一科と教養二科はどちらかの大会に出場する義務がある。教養二科でもどちらかに出場しないといけないのだ。
「トーマ君はどっちに出るんだい?」
ラインハルト君が優雅な所作でお茶を飲み、ティーカップをテーブルに置いたところで確認してきた。
「迷ってますが、多分魔法大会のほうですかね」
「魔法大会のほうか。僕はてっきり武術大会のほうだと思っていたよ」
俺は魔法は使えないけど、魔道具を使っても構わない。ただし、魔法と判定されない魔道具は使用禁止だ。
魔道具だと、魔法ではないと言う人もいるようだが、魔道具を使う際にマナを消費するからいいのだとか。
ラインハルト君は騎士科だから武術大会に、クラウディア嬢は魔法科なので魔法大会、ブルーノ君は教養一科で魔法大会、ダニエル君は騎士科で武術大会に、デボラ嬢は魔法科で魔法大会に、レーネ嬢は教養一科で武術大会に出場する。
俺としては魔法大会よりアリラック・ダンジョンのアイテムのほうが大事だけど、お父様の顔に泥を塗るわけにはいかないから全力でやるつもりだ。
「それはそうと、あれはあるかな?」
ラインハルト君の言う「あれ」とは、ショートケーキのことだ。
一月に栗羊羹をプレゼントしたら、ラインハルト君のお母さんが大層気に入ってしまい、あれから毎月一回何かしらのお菓子をプレゼントしている。
「ありますよ」
「毎回すまないね。それで、代金なんだけど―――」
「友達にプレゼントしているだけなので、代金なんて要りませんよ」
これは先行投資だ。
将来、ラインハルト君が国王になった際に、うちや家族たちを無下にしないようにとね。
もし、ラインハルト君が国王にならなくても、お菓子くらい大した負担にならない。
「皆の分もあるから」
うちの従者たちから、ラインハルト君以下五人の従者にお菓子を渡してもらう。
「いつもありがとうございます。トーマさんのお菓子はどこにもない珍しいもので、しかもとても美味しいとお母様も妹たちも喜んでいますのよ」
レーネ嬢の言葉に、皆が頷いた。喜んでもらえて、こっちも嬉しいです。
「今日はショートケーキというお菓子だから、できるだけ揺らしたり、傾けたりしないでくださいね」
受け取った従者たちにも注意がされている。
そして俺たちの前にもショートケーキが置かれる。
「まあ、綺麗なお菓子だこと」
「本当に真っ白で綺麗なお菓子ですわ」
「可愛らしいお菓子ですね」
クラウディア嬢、デボラ嬢、レーネ嬢が花が咲いたような笑顔で女子トークを繰り広げている。
「甘味が少なくて、丁度いい。美味しかったぜ!」
ダニエル君は野性的というか、豪快というか、一気に口に入れて咀嚼した。
こういう食べ方は、嫌いじゃない。アシュード領の肉祭りを思い出すよ。
ラインハルト君とブルーノ君は貴族らしい優雅な所作だ。
「この赤いのは何かな?」
ラインハルト君はイチゴをフォークに刺して持ち上げた。
「それはイチゴという果物ですね。酸味があって、ショートケーキには必須の果物です」
ミカンやモモもあるけど、やっぱりショートケーキといったらイチゴでしょ。
前世で一度しか食べられなかったお菓子を食べられるのも、この世界に転生させてくださったデウロ様のおかげだ。感謝して食べないとね。
今日は学園の登校日ではないので、朝から剣の稽古をしている。
軽く素振りをしたのち、ベンと打ち合う。
「相変わらずはえーな、トーマ!」
「ベンの攻撃を受ける気はないからな」
ベンの攻撃を受けると、剣が刃こぼれするんだ。二、三回受けると剣が砕けてしまうから、受けるわけにはいかないんだよね。
ベンと稽古していると、時間がたつのが早い。
「二人とも、まだやってるの? もうお昼よ」
シャーミーが声をかけてくれなかったら、ずっと稽古していたことだろう。
「よし、食べるぞ!」
ベンが走って訓練場を出ていった。
相変わらず食べることが好きだな。だから大きくなっているんだろうな。
今年十五歳のベンは、今現在で百八十センチメートルある。胸板も厚いし、腕も太い。
このまま成長したら二メートルいくのではと思ってしまう。
俺は十一歳で百五十三センチくらいかな。まだまだ成長すると思う。
▽▽▽ Side カール・アクセル・バイエルライン公爵 ▽▽▽
「何? 覇天の動きが慌ただしいだと?」
「はっ。どうやら学園で何かをしでかすようにございますが、詳細はまだ掴めておりません」
「何、学園だと!?」
学園にはヘルムート、ローゼマリー、そしてトーマが通う。
さらには、王族も通っている。すぐに学園……いや、学園のどこまで覇天が入り込んでいるか分からぬ以上、下手に情報を出すわけにはいかぬか。ならば、まずは陛下に報告し、対策を検討するとしよう。
「直ちに登城する!」
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