第68話 成り上がり(二)
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第68話 成り上がり(二)
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俺の叙爵式は年末のクソ忙しい時期に、王城で行われた。引越しもあって本当にバタバタだ。
上級貴族と中級貴族は、王城で叙爵式・陞爵式が行われる。下級貴族は国王からの使者から叙爵状を受け取ることになるらしい。
「余の病を治し、酒王の毒に侵された数十万の民を救ったロックスフォール家子息トーマを侯爵に叙し、バルド領を与える。ただし、トーマが成人するまではバイエルライン公爵が後見を行うものとする」
「クルディア王国のために尽くすことを誓います」
この晴れの場には、お父様とお母さんもいる。二人は騎士爵だから末席にいるけど、その優しい視線を背中に感じる。
そう思うだけで俺が胸を張って国王の前に出られた。
叙爵式を終えると、今度は盛大なパーティーを屋敷で行う。この時の料理は基本的に立食になるが、その料理に俺の前世の知識をフル活用する。
といっても、前世で大したものを食べたことがない俺に、その料理の味は分からない。それでも珍しくて美味しい料理を出したい。
「トーマ様。これでどうでしょうか」
A四ランクの黒毛和牛サーロインを鉄板で焼いたものだ。ソースは山葵醤油か、岩塩というシンプルなもの。
「うん、美味しい!」
料理人たちにも食べてもらう。料理人たちはカッと目を見開いた。
「「「っ!?」」」
変換で創った前世の高級肉は、この世界の人にも美味しいようだ。想像上の肉はどんな味がするのだろうか。俺も食べてみる。
美味いな、これ。神戸とか松坂とか近江とか但馬とか色々なブランドがあるようだが、本当に美味しい。
「このピリリとしたソースも美味しいです!」
「この岩塩も美味しいです!」
「甲乙つけがたいです!」
山葵醤油も岩塩も好評だ。俺は岩塩のほうが好きかな。山葵醤油は大人の味だと思う。
さらにトンカツとマグロカツを作る。
トンカツはブランド豚のロースとヒレ。もちろん食べたことはない。
俺が食べたことがあるのは、コンビニのハムカツだ。あれは美味しかった。すきっ腹だったのもあるけど、段ボールなんかよりはるかに美味しかった。
「これはっ!?」
「先ほどの肉とは違う甘味です!」
「それにこのコロモがサックサクで、歯ごたえでも楽しめます!」
「こちらの赤身も美味しいっですね!」
「なんとも言えない旨味があります」
「魚と聞いていましたが、こんなに美味しくなるなんて!」
マグロは脂がしつこくならないように、赤身を使っている。赤身なのに脂が乗っているという矛盾。でも美味しい。
これらのトンカツとマグロカツは、コロモに使うパン粉の荒さを変えている。
トンカツは粗目のもの、マグロカツは細かいものを使った。
次はデザートのプリンを作る。これは施設に入っていた時、年下の子供たちにたくさんプリンを食べさせたくて、バケツで作ったのを思い出す。あの時は上手く固まらず、ショックを受けたものだ。
今回はバケツで作ったりはしない。
プリンの甘味とカラメルの苦味がいい感じに絡み合う。
「こんな甘味があるなんて……」
「お、美味しい……」
「これは至高のデザートです!」
プリンに生クリームを乗せ、サクランボなどのフルーツを盛る。プリンアラモードだ。前世で食べたくても食べることができなかった贅沢品である。
思い出しただけで泣けてくる。
「き、綺麗ですね……」
「なんてことだ、ここに天国があった」
「この生クリームがなんとも言えぬアクセントになって、プリンの甘さと苦みを包み込んでいます」
こうして俺の叙爵パーティーの料理が決まっていくのだった。
叙爵パーティーに多くの貴族がきてくれた。お爺様の顔もあるけど、新しい侯爵の顔を見てやろうという思惑もあるようだ。
立食パーティーの珍しい料理の数々に、参列者は舌鼓を打っていた。
「トーマちゃん。あのプリンアラモードというお菓子の作り方をうちの料理人にも教えてくれるかしら!」
いつになくお婆様の圧がすごい。
その後ろにいた貴族の奥方様たちもレシピを欲しそうにしていたが、冷蔵庫がないとね。
バルド領は穀物の生産地として有名だけど、そのうち冷蔵庫をバルド領で作ろうかな。
産業というものが大事なのは、アシュード領でよく分かったからね。
「もちろんです。レシピと材料を料理人に渡しておきます」
お婆様は上品に口元を扇子で隠してほほ笑んだ。
「トーマが選んだ料理はどれも美味いな」
お爺様は胃癌が治って、食欲がしっかり戻った。
ちゃんと食べることは大事だ。俺のためにも長生きしてほしい。
「お母さんはマグロカツが美味しかったわ」
肉と魚は俺が変換で創っているため、他の家では食べることができない。
でも、プリンはこの世界にある材料で作ることが可能だ。ただし、先程も触れたけど冷蔵庫がいる。
まあ、冷蔵庫がなくてもプリンを冷やし続けることができるなら問題ないけど。
この世界には魔法があるから、そういう点では便利だね。
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