第68話 成り上がり(一)
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第68話 成り上がり(一)
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俺が侯爵に叙爵されることになり、お父様たちが急遽王都にやってきた。
俺も覚悟を決めて、この状況を受け入れることにした。どうせなら、侯爵という地位を使ってやるくらいの気持ちでいる。
「国王陛下の病を治し、酒王の毒に苦しむ者を救ったら侯爵か……」
お父様は呆然と立ち尽くした。
「いつか偉業を成し遂げると思っていたけど、こんなに早くやってしまうなんて、トーマはすごいわね」
お母さんが抱きしめてくれる。
今のお母さんのお腹は大きい。そう、妊娠中なのだ。
年が明けて二十八歳、女盛りである。
「おにぃたん すぎょい」
舌足らずのジークヴァルトは可愛いな。
抱っこしてあげる!
「トーマ様。立派になられましたね!」
「ララはちょっと見なかっただけで随分と大人びたね」
「まあ、いやですわ!」
い、痛い。背中を叩かないでくれ。
でも、ララはやっぱりおっちょこちょいのララだった。
この後、お爺様と俺がお父様に、ことの成り行きを語った。
その時に知ったのだけど、お爺様は配下の暗部をライトスター家の周辺に入れて数年をかけて悪事の証拠を集めていたらしい。
しかしライトスター家は酷いものだった。腐って豆腐がゲロになっている感じだ。
詐欺、拉致監禁、殺人、違法薬物の売買、そして違法奴隷の売買。
お母さんを奴隷にしたのは分かっている。ただ、お母さんを奴隷にした際、すでに記憶を失っていたのかは不明だ。
記憶を失った経緯について本人に聞けるわけもなく、理由は不明なままになっている。
場合によってはライトスターはお母さんの誘拐に関わっていないのかもしれない。ただし、お母さんを奴隷にした事実は消えることはない。
ラスターク島にはお爺様の手の者が入っているそうで、ライトスターたちは死んだほうが楽だと思えるような苦難が待っているそうだ。
「ライトスター家が潰れたのはいいのですが、先陣を切れず、残念な思いです」
「すまない、堪えてくれるか」
「いえ、戦などないほうがいいのですから、これは某の我儘です。お気になさらないでください」
お父様には悪いけど、戦争はないほうがいい。
時は少し遡るが、あの後お爺様と国王の間で、俺の叙爵について細かい話し合いが行われた。
王都の元ライトスター家の屋敷はそのまま俺にくださることになって、年末の忙しい時期に引っ越しをした。
使用人と兵士はお爺様のバイエルライン公爵家から異動した人をメインに、不足する人員は新規で雇うことになった。
趣味の悪い調度品や美術品やなんやかんやを全部売り払った。三分の二は二束三文だった。ただキンキラならいいものだと思い込んでいたんだろうな、あの人たちは。
屋敷の中がガランッとしてしまったので、調度品などを売り払ったお金で新しいものを買った。
もちろん足が出たけど、宝石商のティファス・ブルガルさんにジュエリーを売った際のお金で賄えてよかった。
美術品は、バイエルライン公爵家で死蔵しているものをもらって飾っている。
「ちょっと前に引っ越したと思ったら、また引っ越しかよ」
ベンはブツブツ言いながら、荷物を荷馬車に載せている。
「いいじゃないの、大きなお屋敷に引っ越せるんだから」
シャーミーはポジティブだね。
引っ越しは俺たちだけではない。隣の屋敷に詰めていた神殿騎士たちもだ。
幸いにも、元ライトスター家の王都屋敷は、本館の他にいくつもの建物があって、使用人や兵士が住めるようになっている。
しかも敷地はかなり広く、庭園もあれば馬を軽く運動させられる場所まである。
領地のほうは、俺が領地入りするまでお爺様が面倒を見てくれる。
この国の成人は十六歳だけど、俺にはやることがあるから領地入りはいつになることか。
▽▽▽ Side 総大主教マッカラン ▽▽▽
なんでもクルディア王国に使徒が現れたとか。
ふふふ。使徒などいるわけがない。あれはアシュテント派が作り上げた幻想でしかないのだ。
そもそもニルグード教は、我らカトリアス派だけでいい。アシュテント派などというまがい物があるから、使徒などという迷信を信じるのだ。
放っておくこともできるが、それでは我らとしても面白くはない。
「クルディアの使徒を僭称する者をこのまま放置してよいのか」(マッカラン)
「よくないであろうな」(総大主教2)
「ええ、使徒などあってはならないわ」(総大主教3)
我ら三総大主教の意見が一致したわ。まさか他の二人と意見が合うとはな。
我ら三人はカトリアス派を率いる総大主教の地位にある。カトリアス聖王国は聖王が国家元首であるが、実権はない。我ら三総大主教が全ての決定権を持っているのだ。
本来総大主教は一人だったのだが、いつしか二人になり、三人になった。
三人体制が慣例になったのは、もう百年以上前のことだ。
「では、我らはどう動くべきか」(マッカラン)
「使徒を排除すべし」(総大主教2)
細身のアーサーが円卓を叩いた。この男の容姿は優男だが、武闘派である。脳まで筋肉でできていると思うほどに、思考が乱暴だ。
「その使徒を攫ったらいいのよ」(総大主教3)
ゴリアテの口調は女性っぽいが、ゴリゴリのむさ苦しい男だ。初めて会った頃は化粧をし、女言葉を使う大男を不快に思ったものだが、最近ではもう慣れてしまった。
容姿と口調がまったく合っておらず、たまに面白いこと言う。だが、こいつはヤバい。気に入った少年を拷問してその悲鳴や泣き声を聞くのが好きなのだ。余も苛烈な性格だと自覚はあるが、ゴリアテほどいかれてはいない。
「攫う、か」(アーサー)
「その化けの皮を私が自ら剥いでやるわ」(ゴリアテ)
「ならば、覇天を動かすか?」(マッカラン)
「いいわよ」(ゴリアテ)
「ああ、それでいい」(アーサー)
「でも、せっかく覇天を送るのだから、使徒を攫うだけじゃ面白くないわね」(ゴリアテ)
「ふむ。それもそうか。では、かねてより予定していたあの計画も同時進行でよいかな」(マッカラン)
「ああ、構わないぜ」(アーサー)
「異議はないわ」(ゴリアテ)
ご愛読ありがとうございます。
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