第67話 褒美はあれで
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
■■■■■■■■■■
第67話 褒美はあれで
■■■■■■■■■■
お爺様にお願いして、肝臓に効くという漢方薬を集めてもらった。
もちろん、国王の肝硬変の薬を創る。
・フアルト(三百グラム)とロロミニュウス(二百グラム)とイクランゼ(三百グラム)を肝玉頑錠(三十粒)に変換 : 消費マナ三千ポイント
意外とマナ消費が激しかった。
お爺様の胃癌用の胃岩浄の消費マナは一千ポイントだったのに。
多分だけど、今回の薬材では肝硬変にあまり効果がないものばかりだったのだろう。
それを効果のある薬にするため、大量のマナを消費したと思われる。
・肝玉頑錠 : デウロの使徒トーマが作った肝硬変用の神薬 一日三回、食後に服用すること 一回一錠、十日間飲み続けることで、肝硬変は完治する
丁度、ライトスターの裁判が行われるから、この薬を届けるとしよう。
「主文。ライトスター侯爵家を闕所に処す。現当主および、その家族はラスターク島へ流罪に処す」
ライトスター侯爵というか、ライトスター家は多くの犯罪に手を染めていた。
物証が次から次に出てくるが、その多くはお爺様(の暗部)が集めたものになる。お爺様はここぞという場でその証拠を提出したのだ。
これには国王も関与していたらしく、今回の裁判がなくてもいずれ家は取り潰されていたらしい。
その中には、うちの酒麹を盗んだことも、俺を襲ったことも含まれていた。
これはつい三十分ほど前のことだ、ライトスターはうちから酒麹を盗んだことを自分から認めた。
「この奴隷の子が使っていた麹を使ったのだ! だったら、こいつの酒も毒であろうが!」
記憶を失ったお母さんを奴隷にしたライトスターの息子が、お母さんを奴隷と言うことに殺意を覚える。
この場でライトスターを殺してやりたいところだが、グッと我慢した。
「うちは酒麹をアシュード領から出したことはありません」
俺はぴしゃりと言い切った。
「お前のところから持ってきた酒麹に間違いないわ!」
「そういえば、数年前に泥棒が入って酒麹を盗んでいったことがありました。そのことを言っているのですね?」
「そんなことは知らん!」
「それ以外に酒麹が門外に出たことはありませんよ」
ライトスターは歯からギリギリッと音を立てて噛んだ。
「あと、うちの酒麹は神であられるデウロ様よりいただいたものです。アシュード領で酒を造ることを前提にしておりますので、それ以外のところで酒を造ることはまったく想定してないものです。それどころか、向いてないと言えるでしょう。そして何よりも神から授けられた酒麹を盗むなど、神をも恐れぬ所業。仮に裁判で無罪になろうとも、デウロ様はあなたを許してはくださらないでしょう。ほら、神罰が下りますよ」
その瞬間、ライトスターから黒い渦が立ち上った。ライトスターは「ぐぅっ」と苦しそうな声を発し、ドカリッと椅子に座り込んだ。
「な、なんなのだ……体が……」
「神罰を受けたのです。ステータスを見てみるといい」
「な……に?」
ライトスターは左手の甲を触り、ぼそりと呟いた。
そして、その目は大きく見開かれた。
「な、なんだこれは!?」
「デウロ様を蔑ろにした報いを受けたのです」
「莫迦を言うな! こんなことがあっていいわけがないだろ!」
そう叫んで暴れ出したライトスターは、騎士に取り押さえられた。
その際に裁判官たちがライトスターのステータスを確認したら、ランクがFまで下がっていた。
ライトスターのステータスは裁判前に確認されており、裁判官ならそれを知っている。
この世界でランクが下がることはない。それが起きたということで、大騒ぎになった。神を蔑ろにし、使徒を殺そうとした愚か者が天罰を受けたのだと皆が言う。
デウロ様からいただいた力で創った酒麹を盗み、毒を仕込み、俺を複数回殺そうとし、お母さんを奴隷と言った報復だ。ざまあみろ!
ライトスターは死罪にはならなかったけど、ランクFの元貴族が流刑地でどれほど生きていけるかは簡単に想像できる。おそらく、死よりつらい現実が待っていることだろう。
そんなわけで、ライトスター不在の場で判決が言い渡された。本人が聞いてなくても、刑はしっかり執行される。
さて、俺にもライトスター家の血が入っているけど、俺は正式にライトスターの籍に入ったことはない。しかも、今はロックスフォール家の籍に入っているから、俺にとばっちりがくることはないらしい。
それはタリアや他の庶子も同じだ。
ライトスター侯爵、いや、今は元ライトスター侯爵が歯噛みしているのが目に浮かぶようだ。
そしてジャイズやあの本宅に住んでいたいけすかない人たち、ライトスター家に籍がある人たちも全員流罪になった。いい気味だとは思う。
まだ乳飲み子もいるが、そういった子は孤児院で引き取る。まだ赤ん坊だから性格は捻くれていないだろう。
もちろん、前ライトスター家当主も流罪だ。というか、ライトスター家凋落の原因はあの人にある。あの人が人間として最低だから、現当主(息子)やジャイズ(孫)のような人間が育ったのだと思う。
庶子はあの人の影響を受けずに育ったおかげで、人間として最低にならずに済んだと考えることにした。
裁判の後、俺とお爺様はライトスターの前当主(御屋形様)の檻の外で二人だけで立った。
「ヘルミーナ……いや、アリューシャを奴隷にした報いは受けてもらうぞ、このクズが! 貴様はこれから死なせてほしいと懇願するほど辛い目に遭うのだ!」
お爺様はライトスターの当主に向かってそう吠えた。相当我慢していたのだろう。
お爺様があまりにも恐ろしかったのか、当主はその場で失禁してガクガク震えていた。
お爺様はそれ以上は何も言わず、その場を立ち去った。
俺も色々言いたいことはあったけど、あの姿を見たらなんか言う気が失せてしまった。口は開かないが、ランクはしっかりFにしておいた。少しだけ溜飲が下がったよ。
俺はお爺様とダルデール卿と共に国王に面会した。
国王には回復魔法をかけてもらうように言ってある。それで治っていればいいけど、この世界の病気や人体の知識では、肝硬変というものがどういった病気なのか分からないはず。そういった場合、回復魔法で治らないことが多い。
回復魔法は万能ではないのだ。
「ふん。ババアはどこにでも湧いてくるわ」
「ホホホ」
この二人は相変わらずだ。
ダルデール卿がいるのは、国王が神官の治療を受けたからだ。そこから俺のことまでいきついたらしい。王城内の情報収集能力が怖い……。
結構深いところまで神殿の手が伸びていると思われる。その逆もありそうだけどね。
さて、国王の状態を確認したが、改善は見られない。残念ながら回復魔法は効果がなかったようだ。
「回復魔法をかけてもらったが、状態が改善したようにはまったく思えぬ。余はまだ病を抱えているのだろうか?」
「残念ながら」
「そうか。だが、トーマが治してくれるのであろう?」
「陛下。トーマ様を便利使いされるのは、いかがなものでしょうか」
「そのようなつもりはないぞ、ダルデール卿」
「でしたら、治療の前にまずは報酬の話をしていただきたく存じます。陛下の病状がよくなられましたら、トーマ様に何をしてくださいますか?」
ダルデール卿に迫られ、国王は顔を引きつらせた。
「たしかに、陛下の命の代償ともいえる報酬は大事ですな」
お爺様も国王に迫った。
二人に迫られた国王は、額に汗を浮かべている。
俺としては、自由に暮らせるように約束してくれればそれでいいのだけど。
「褒美と言えば、先ごろ闕所になった家がありましたな」
「ええ、そうですね。トーマ様にその家の格と領地を与えるのがよいと思います」
この二人、日頃はいがみ合っているのに、こういう時は妙に気が合うね。
それにしても、その闕所になった貴族は間違いなくライトスター家のことだよね。つい一時間前に判決を聞いたばかりなんですけど。
「そ、それは……」
「「それは?」」
うわー。圧がすごい……。
「……分かった。だが、伯爵だ。余の命を救ってくれたとしても、さすがに侯爵は無理だ」
「何を仰いますか。トーマ様は酒王の毒に苦しまれておられた数十万の人々を救っておいでです。その功績を陛下は無視されるのですか?」
「うぐ……」
「陛下。ここは度量を見せるところですぞ」
「……分かった。トーマを侯爵に叙し、バルド領を与える。それでいいな!」
やけくそかよ。
「このカール・アクセル・バイエルライン、孫に変わって感謝の言葉を述べさせていただきます」
「神殿を代表し、陛下のご英断に感謝いたします」
えーっと、俺も感謝したほうがいいのかな?
「ありがとうございます」
なんかよく分からないうちに俺は侯爵になるのが決まってしまったようだ。
「だが、トーマは未成年だ。成人するまでは、公爵が責任をもって後見するように」
「謹んでお受けいたします」
話はついたとばかりに、二人はお茶を飲み出した。
そこで俺は国王に肝玉頑錠を贈った。
「十日の間、一日三回、毎食後に服用してください。決して飲み忘れてはいけません。もし忘れた場合は、完治しないと思ってください」
「うむ。心得た」
「それと薬を服用中は酒を控えてください」
「う、うむ……」
「また、完治した後も、酒は一日にコップ一杯の量にしてください」
俺はティーカップを指差した。この量なら、毎日飲んでも大きな問題はないはずだ。
「それは!?」
「陛下は酒による害になりやすい体質のようです。長生きしたければ、これ以上は飲まれないことをお勧めします」
「うぐ……分かった……だが、もしまたこの病になったらトーマが助けてくれるのであろうな?」
「また褒美をいただきますが、よろしいですな」
すかさずお爺様が口を挟んだ。
「そこはおまけということで」
「なりません」
国王はしょぼんと肩を落とした。
そんなに酒が好きなのかな? 酒造りは楽しいけど、飲んだことないから分からないや。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
気に入った! もっと読みたい! と思いましたら評価してください。
『ブックマーク』『いいね』『評価』『レビュー』をよろしくです。