第66話 ファイアット子爵の刑
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第66話 ファイアット子爵の刑
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裁判は進み、ダルデール卿の証言も終わった。
そして休憩を挟んで判決が言い渡されることになった。
部屋で寛いでいたら、執事がお爺様に何かを耳打ちした。
お爺様は鋭い視線になり、頷いた。
「トーマ。これより陛下がお越しになる」
「はい?」
「非公式にトーマと話がしたいそうだ」
「俺とですか?」
「神の使徒であるトーマは、この国にとって重要人物なのだ」
「拒否権は?」
「ない」
「そうですよねー」
「非公式にでもトーマを呼ぶと、あのババアが騒ぐから今回の裁判は丁度よかったのだろう」
「でもいきなりはないですよ」
「私もそう思うが、事前に根回しがあると、ババアに知られることになるからな」
俺を呼びつけると神殿が騒ぐから、城の中にいる今ならと思ったってことか。
二、三分で国王がやってきた。いつかのラインハルト王子も一緒だ。
「堅苦しいのはいい。かけてくれたまえ」
お爺様と俺が最敬礼をしようとしたが、座れと促された。
ラインハルト王子はこっそり手を振ってきた。気楽でいいね、こっちは国王相手に緊張してるのにさ。
「やっと会えたな、余が国王のオトフリートだ」
「久しぶりだね、トーマ君」
「初めて御意を得ます、トーマ・アシュード・ロックスフォールと申します、国王陛下。お久しぶりです、ラインハルト王子」
「さっそくだが、余に病はあるのだろうか?」
え、最初に聞くことがそれなの?
「……陛下はお酒の飲みすぎに注意が必要です」
国王は酒の飲み過ぎで肝臓が弱っている。酒好きみたいだけど、ストレスもあって飲み過ぎているようだ。このままではいつか倒れることだろう。
「む? 余は酒王を飲んでおらぬが?」
「酒王は毒が入っていますので、論外です。ですが、どんな酒でも少量であればなんの問題もありませんが、飲みすぎると害になります。この数年、陛下は酒量が多くなっているようです。体調がすぐれず、食欲不振といった症状があると思います」
「うむ。たしかに最近は体調が思わしくなく、食欲もないな……神官の治療を受ければいいのか?」
「治療を受け、規則正しい生活とバランスのよい食事を摂ることをお勧めします」
「其方が余を治療してくれぬか」
「その儀はご勘弁を」
俺が口を開く前に、お爺様が断った。
「陛下には侍医がついております。その者らを差し置いては、要らぬ軋轢を生みます」
「むぅ……トーマを侍医に任ずる……」
「それができるとお思いですか?」
「うぐ……神殿に邪魔されるだろうな」
「ここは素直に神官の治療を受け、生活習慣や食事を見直されたほうがいいでしょう」
ナイスお爺様と思うのだが、このままでは国王は死ぬんだよな……。
ラインハルト王子は同年代の数少ない知り合いだから、その父親が死にかけているのを放置はしたくない。
「お爺様」
「どうした?」
お爺様の耳元でゴニョゴニョ。
このままでは国王が死ぬと言うと、お爺様が表情を強張らせた。
「な、なんだ? どうしたというのだ?」
国王が慌てている。
その前で俺とお爺様はこそこそ内緒話をした。
「ゴホンッ。陛下」
「余は死ぬのか!?」
「……人間、誰でもいずれは死にます」
「ちょっと待て! それは老いてからの話であろう! 余はまだ四十三である。死ぬには早すぎると思うのだ!」
国王は中腰になって前のめりになった。必死だ。
本当に死ぬと思っているのだろう。たしかにこのままでは死ぬけど。
「お爺様。陛下に効く薬を作りますので、後日陛下に渡してください」
「そうか! 頼んだぞ、トーマ!」
国王がソファーに座り直した。
「トーマ君。僕は健康だよね!」
「ええ、ラインハルト王子は健康ですね」
十歳でも不健康な子供はいるけど、ラインハルト王子はいたって健康だ。
「しかし、バイエルライン公爵だけずるいのではないか」
「某の孫にございますれば、フフフ」
「それを言ったら、余とてブリュンヒルデ殿は叔母であるゆえ、トーマとは遠縁にあたる!」
「そうでしたか?」
「な!? 公爵!」
「ハハハ。冗談にございます」
え、そうなの? そういえば、お婆様は王女だったと聞いたっけ。
その後、昔話に花を咲かせる国王とお爺様。
「しかし、先程のライトスターの慌て様は見ものであった。楽しませてもらったぞ、トーマ」
国王は軽やかに笑った。
その後、国王とラインハルト王子は雑談をして帰っていった。
裁判が再開され、判決が言い渡される。
証拠がちゃんとしていれば、即日刑が言い渡されるのが一般的だ。
数十万という被害者を出した酒王の裁判は、今日結審する。
「ファイアット子爵とライトスター侯爵は前に」
二人は証言席の前に立つと、裁判官がレースの向こうの国王に向かって一礼した。
「主文。ファイアット子爵は隠居、爵位を男爵に降爵し、罰金とし三億Gを国庫に納めるべし」
「そ、そんな! 私はライトスター侯爵に言われてあの酒を造っただけです! どうかご慈悲を!」
「黙れ、この莫迦者め!」
なんとライトスター侯爵がファイアット子爵を殴り飛ばした。
「ライトスター侯爵を取り押さえなさい!」
「奴隷の子のくせに、恩を仇でかえしおって!」
俺がライトスター侯爵家に恩を受けた? それはどんな恩なのか、膝を付き合わせて聞きたいところだ。
「黙れ!」
「ウガッ。儂にこんなことをして許されると思うなよ!」
騎士が暴れるライトスター侯爵を床に組み伏せた。
「ライトスター侯爵に退廷を申しつける!」
それでも暴言を吐いたライトスター侯爵は猿ぐつわを噛ませられ、騎士たちに担がれて法廷から連れ出された。
落ちついたところで、裁判官がファイアット子爵を見下ろす。
「ライトスター侯爵に命じられたと、裁判中になぜ言わなかったのか」
「そ、それは!?」
「貴殿の立場はある程度理解している。だが、無言を貫くのであれば、ライトスター侯爵の罪も引き受けるということだ。それを理解してないはずはないであろう。貴殿はこの大法廷を侮辱するのか」
「そのようなことは!?」
「ならば、ライトスター侯爵の罪状を全てここで吐露するがいい。そうすれば、慈悲を与えることもあろう」
そんなわけで、裁判は継続することになった。もちろん、ファイアットとライトスターへの判決の宣告は翌日に延期になった。
その翌日、再び大法廷でファイアットの証言が行われた。
その場には大暴れしたライトスターの姿はない。
ライトスターの弁護人は出席したが、ファイアットの語るライトスターの犯罪があまりにも多いことから、途中で弁護を放棄していた。
そしてファイアットは隠居させられるのは変わらないが、降爵はなくなった。また、罰金は一億Gに減額となった。
ライトスターの犯罪を暴露したことで、かなり減刑された形だ。
そしてライトスターは、あまりにも多くの犯罪に手を染めていたことから、騎士たちの捜査が行われることになった。
その結果が出るまでは地下牢に閉じ込められ、面会も国王の許可がある者に限られた。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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