表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/122

第66話 ファイアット子爵の刑

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

 ■■■■■■■■■■

 第66話 ファイアット子爵の刑

 ■■■■■■■■■■


 裁判は進み、ダルデール卿の証言も終わった。

 そして休憩を挟んで判決が言い渡されることになった。


 部屋で寛いでいたら、執事がお爺様に何かを耳打ちした。

 お爺様は鋭い視線になり、頷いた。


「トーマ。これより陛下がお越しになる」

「はい?」

「非公式にトーマと話がしたいそうだ」

「俺とですか?」

「神の使徒であるトーマは、この国にとって重要人物なのだ」

「拒否権は?」

「ない」

「そうですよねー」

「非公式にでもトーマを呼ぶと、あのババアが騒ぐから今回の裁判は丁度よかったのだろう」

「でもいきなりはないですよ」

「私もそう思うが、事前に根回しがあると、ババアに知られることになるからな」


 俺を呼びつけると神殿が騒ぐから、城の中にいる今ならと思ったってことか。




 二、三分で国王がやってきた。いつかのラインハルト王子も一緒だ。


「堅苦しいのはいい。かけてくれたまえ」


 お爺様と俺が最敬礼をしようとしたが、座れと促された。

 ラインハルト王子はこっそり手を振ってきた。気楽でいいね、こっちは国王相手に緊張してるのにさ。


「やっと会えたな、余が国王のオトフリートだ」

「久しぶりだね、トーマ君」

「初めて御意を得ます、トーマ・アシュード・ロックスフォールと申します、国王陛下。お久しぶりです、ラインハルト王子」

「さっそくだが、余に病はあるのだろうか?」


 え、最初に聞くことがそれなの?


「……陛下はお酒の飲みすぎに注意が必要です」


 国王は酒の飲み過ぎで肝臓が弱っている。酒好きみたいだけど、ストレスもあって飲み過ぎているようだ。このままではいつか倒れることだろう。


「む? 余は酒王を飲んでおらぬが?」

「酒王は毒が入っていますので、論外です。ですが、どんな酒でも少量であればなんの問題もありませんが、飲みすぎると害になります。この数年、陛下は酒量が多くなっているようです。体調がすぐれず、食欲不振といった症状があると思います」

「うむ。たしかに最近は体調が思わしくなく、食欲もないな……神官の治療を受ければいいのか?」

「治療を受け、規則正しい生活とバランスのよい食事を摂ることをお勧めします」

「其方が余を治療してくれぬか」

「その儀はご勘弁を」


 俺が口を開く前に、お爺様が断った。


「陛下には侍医がついております。その者らを差し置いては、要らぬ軋轢を生みます」

「むぅ……トーマを侍医に任ずる……」

「それができるとお思いですか?」

「うぐ……神殿に邪魔されるだろうな」

「ここは素直に神官の治療を受け、生活習慣や食事を見直されたほうがいいでしょう」


 ナイスお爺様と思うのだが、このままでは国王は死ぬんだよな……。

 ラインハルト王子は同年代の数少ない知り合いだから、その父親が死にかけているのを放置はしたくない。


「お爺様」

「どうした?」


 お爺様の耳元でゴニョゴニョ。

 このままでは国王が死ぬと言うと、お爺様が表情を強張らせた。


「な、なんだ? どうしたというのだ?」


 国王が慌てている。

 その前で俺とお爺様はこそこそ内緒話をした。


「ゴホンッ。陛下」

「余は死ぬのか!?」

「……人間、誰でもいずれは死にます」

「ちょっと待て! それは老いてからの話であろう! 余はまだ四十三である。死ぬには早すぎると思うのだ!」


 国王は中腰になって前のめりになった。必死だ。

 本当に死ぬと思っているのだろう。たしかにこのままでは死ぬけど。


「お爺様。陛下に効く薬を作りますので、後日陛下に渡してください」

「そうか! 頼んだぞ、トーマ!」


 国王がソファーに座り直した。


「トーマ君。僕は健康だよね!」

「ええ、ラインハルト王子は健康ですね」


 十歳でも不健康な子供はいるけど、ラインハルト王子はいたって健康だ。


「しかし、バイエルライン公爵だけずるいのではないか」

「某の孫にございますれば、フフフ」

「それを言ったら、余とてブリュンヒルデ殿は叔母であるゆえ、トーマとは遠縁にあたる!」

「そうでしたか?」

「な!? 公爵!」

「ハハハ。冗談にございます」


 え、そうなの? そういえば、お婆様は王女だったと聞いたっけ。

 その後、昔話に花を咲かせる国王とお爺様。


「しかし、先程のライトスターの慌て様は見ものであった。楽しませてもらったぞ、トーマ」


 国王は軽やかに笑った。

 その後、国王とラインハルト王子は雑談をして帰っていった。




 裁判が再開され、判決が言い渡される。

 証拠がちゃんとしていれば、即日刑が言い渡されるのが一般的だ。

 数十万という被害者を出した酒王の裁判は、今日結審する。


「ファイアット子爵とライトスター侯爵は前に」


 二人は証言席の前に立つと、裁判官がレースの向こうの国王に向かって一礼した。


「主文。ファイアット子爵は隠居、爵位を男爵に降爵し、罰金とし三億(ガゼル)を国庫に納めるべし」

「そ、そんな! 私はライトスター侯爵に言われてあの酒を造っただけです! どうかご慈悲を!」

「黙れ、この莫迦者め!」


 なんとライトスター侯爵がファイアット子爵を殴り飛ばした。


「ライトスター侯爵を取り押さえなさい!」

「奴隷の子のくせに、恩を仇でかえしおって!」


 俺がライトスター侯爵家に恩を受けた? それはどんな恩なのか、膝を付き合わせて聞きたいところだ。


「黙れ!」

「ウガッ。儂にこんなことをして許されると思うなよ!」


 騎士が暴れるライトスター侯爵を床に組み伏せた。


「ライトスター侯爵に退廷を申しつける!」


 それでも暴言を吐いたライトスター侯爵は猿ぐつわを噛ませられ、騎士たちに担がれて法廷から連れ出された。


 落ちついたところで、裁判官がファイアット子爵を見下ろす。


「ライトスター侯爵に命じられたと、裁判中になぜ言わなかったのか」

「そ、それは!?」

「貴殿の立場はある程度理解している。だが、無言を貫くのであれば、ライトスター侯爵の罪も引き受けるということだ。それを理解してないはずはないであろう。貴殿はこの大法廷を侮辱するのか」

「そのようなことは!?」

「ならば、ライトスター侯爵の罪状を全てここで吐露するがいい。そうすれば、慈悲を与えることもあろう」


 そんなわけで、裁判は継続することになった。もちろん、ファイアットとライトスターへの判決の宣告は翌日に延期になった。





 その翌日、再び大法廷でファイアットの証言が行われた。

 その場には大暴れしたライトスターの姿はない。


 ライトスターの弁護人は出席したが、ファイアットの語るライトスターの犯罪があまりにも多いことから、途中で弁護を放棄していた。


 そしてファイアットは隠居させられるのは変わらないが、降爵はなくなった。また、罰金は一億Gに減額となった。

 ライトスターの犯罪を暴露したことで、かなり減刑された形だ。


 そしてライトスターは、あまりにも多くの犯罪に手を染めていたことから、騎士たちの捜査が行われることになった。

 その結果が出るまでは地下牢に閉じ込められ、面会も国王の許可がある者に限られた。



ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


気に入った! もっと読みたい! と思いましたら評価してください。

『ブックマーク』『いいね』『評価』『レビュー』をよろしくです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こりゃもうライトスターは公開処刑だね (悪役令嬢モノで見慣れた刑罰)
俺がライトスター侯爵家に恩を受けた? それはどんな恩なのか、膝を付き合わせて聞きたいところだ。 現侯爵には恩は無いかもだけど少なくとも侯爵家には多少の恩はあるんじゃない?一応庶子として確認して食事を…
奴隷の子ねー大丈夫なの、それ言って笑
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ