第63話 ランク変換
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第63話 ランク変換
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神殿の尋問官……こえー。
目が逝っているよ、この人。
その尋問官がベルグを拷問したら、あっさり吐いたらしい。
俺はその場面を見ていないし、見たくもない。
「あの者はベルグという暗殺者です。闇組織『バジリスクの牙』に所属しているそうです」
ダルデール卿が厳しい表情をしている。相当ヤバい組織のようだ。
「トーマ様。闇組織『バジリスクの牙』はこのクルディア王国だけでなく、他の国にも多くの拠点を持つ巨大な悪の組織にございます。そして、残念ながらこの国の貴族の中にも『バジリスクの牙』を利用している者は多くいるのです」
俺が想像するよりももっとヤバい組織だった!
「俺の暗殺を依頼した人は分かったのですか?」
「いえ、残念ながら……。『バジリスクの牙』は仕事を請け負う部門と暗殺を行う部門が分かれているようで、『バジリスクの牙』内でも複数の者の間を通ってベルグのところに依頼が出るそうです」
ダルデール卿は「ただ」とつけ加えた。
「どうやらファイアット子爵ではなさそうです」
「なぜ分かるのですか?」
「今回の暗殺には、かなりの金額が報酬として支払われているようです。子爵家の資産は現在差し押さえられており、大金を動かすのは難しいはずなのです」
「……ライトスターですか?」
「そう考えるのが妥当かと」
「以前もライトスターに命を狙われましたが、本当にしつこいですね……」
「ライトスターについては、包囲を進めております。今回のことも暗殺者からではなく、ライトスターの周辺から調査を進めていきます」
ライトスター家は神殿とお爺様が動いていることを知らないのだろうか。
知っていてやっている可能性もあるけど、知らないのだろうな。知っていたら、自分たちにも危険になることはしないと思う。
この二カ月後、『バジリスクの牙』の拠点がいくつも潰されたと聞いた。
王国騎士団が潰したらしいけど、その影にお爺様や神殿がいたのかもしれない。
尋問官が尋問した後に、ベルグにあることを試させてもらった。
変換・レベル5で覚えた【対象のランクを変換できる】能力だ。
ベルグのランクはB、これを最低のFまで落とそうとしたが、発動しなかった。
そこでCに一ランク落とそうとしたら、発動した。
「ぐっ……」
マナが大量に持っていかれた感覚がした。
確認したら、一万五千ポイントも減っていた。
人の人生を変えてしまうから、ここまで大きなマナを消費したのだろうか。
ベルグを確認したら、ちゃんとCランクになっていた。
しかも加護の闇の剣士がただの剣士になっており、スキルの闇剣術と影移動が消えて、ただの剣術があった。
そして、ライフ・スタミナ・マナも減っていた。
ランクダウンは明らかに全体のスペックに影響するということが分かった。
今度はランクをDに下げようと変換してみた。成功してマナは同じように一万五千ポイントが減った。
ランクの高さとマナ消費量は関係ないようで、一律で一ランク一万五千ポイントというのが分かった。
翌日、マナが回復したところで、二ランクダウンをしてみたら、三万ポイントの消費だった。一ランクずつ二回行っても、二ランク一気でも消費マナは変わらないことを確認した。
ベルグのランクは最低のランクFになったため、加護はただの村人になっていた。スキルも全部消えており、能力も激減だった。
ランクの変換はまさに神の領域のものだ……。
「トーマ様。止めていただけないでしょうか」
ダルデール卿が止めるのは、俺のダンジョン探索だ。
また暗殺者が送られてきたらと思ってのことだろう。
「こればかりはどんなに危険でもやらないといけないのです。ダルデール卿にはご心配をおかけしますが、承知してください」
デウロ様にアリラック・ダンジョンを探索するように勧められたのだから、探索しない選択肢はない。
それに今回はレベルの低い暗殺者だったからなんとかなったけど、もっとレベルの高い暗殺者がやってきたら、それこそ危険だ。
誰にも害されないために、俺自身が強くなる必要がある。
ダルデール卿の反対を押し切って、俺はアリラック・ダンジョンに向かった。
シュザンナ隊長他四人の神殿騎士がそれについてくる。逆にすぐそばに神殿騎士がいるのだから、暗殺者も手を出しにくいと思う。
アリラック・ダンジョンの一層のモンスターは、リトルアーマーという一メートルくらいの動く鎧と、スケルトンという人骨だ。
「はっ」
ベンの一撃でスケルトンがバラバラになった。
骨はさすがに持って帰っても売れないが、たまに小さな宝石が頭蓋骨の中にある。宝石がある確率はかなり低いらしい。
ベンが倒したスケルトンに宝石はなかった。残念。
「光の大神ライトルイド様に祈りを捧げます。ライトアロー!」
リトルアーマーに光の矢が刺さり、内側から聖なる光が噴き出した。
スライムやリリトルバッファローなどにライトアローが当たっても、こういった現象は起こらない。
これは相手がアンデッドだから起こるものだ。
「一層のモンスターは油断しなければ、問題ないようだな」
アリラック・ダンジョンは古いダンジョンで、低層は探索し尽くされている。
だから、マップもあって簡単に二層へ入ることができた。
二層、三層、四層も苦労せず通り過ぎる。
五層にはなんとボス部屋がある。
大きな観音開きの金属扉が開いていると、入ることができる。閉まっていると、誰かが戦っているということになる。
俺たちがボス部屋に到着すると、すぐに扉が開いた。場合によっては順番待ちをしていることもあるらしい。
俺たちは運がよかった。
俺、ベン、シャーミー、そしてシュザンナ隊長たち神殿騎士がボス部屋に入ると、扉が自動で閉まっていく。
扉が完全に閉まると、ボス部屋の中央に黒い霧が発生して何かを模っていく。
ボス部屋は直径五十メートル、高さは中心部で十メートルのドーム型だ。
その中央に現れたのは、首のない馬に乗った頭部のない鎧だった。
「あれはバトルメイルというモンスターだ。持っている槍に気をつけてくれ」
「おう! 任せておけ!」
馬はポニーくらいで、鎧も大きくはない。それでも槍は鋭く、それで怪我を負うと一時的に能力が下がるデバフがかかるのだ。
首がない馬なのに、なぜか嘶いて突進してくる。
ベンは盾でその槍を真っ向から受けた。
「おりゃーーーっ!」
バトルメイルの槍を受け、一メートルほど押し込まれる。
さすがはボスだけはあるけど、ベンを押し込んだだけで傷は負わせていない。
「こんなもん!」
ベンがモーニングスターを振り下ろすと、馬が大きく後方に飛びのいた。
「ちっ、意外とはえーじゃねぇか」
アシュード・ダンジョンにはボスというものがいなかったが、やっぱりボスというだけあって他のモンスターとは一線を画す実力を持っているようだ。
だけど、アシュード・ダンジョンの十五層のモンスターのほうが明らかに速い。
雷樹の弓を引くと矢が現れる。
狙いを定め、射る。
それが鎧の胸に当たると、轟音と閃光が発生した。
弓には雷の効果を付与することができる。その場合はマナを多く消費するが、雷なしの矢が五ポイント、雷ありの矢が十五ポイントと少ないのでいくらでも射ることが可能だ。
雷の矢の効果は素晴らしく、バトルメイルは麻痺に陥った。
「畳みかけろ!」
「応!」
「光の大神ライトルイド様に祈りを捧げます。ライトジャベリン!」
麻痺したバトルメイルに攻撃を集中させ、一気に倒した。
結果は圧勝。内容も危なげない。まだ余裕がある戦いだった。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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