第61話 奇病の原因
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第61話 奇病の原因
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四十人ほどの奇病患者を診たけど、うちから盗まれた酒麹から造られた酒による害だった。
こういう時のスキル・変換の情報変換は便利だ。
「彼らは毒に侵されています」
「ですが、解毒魔法も合わせて使っています。それなのになぜ?」
「解毒した後にまた毒を摂取しているのでしょう。彼らの共通点を洗い出す必要があります」
「ですが、彼らは職業も違いますし、年齢層も違います」
「まずは食べ物を調べましょう。口にしたものを事細かく聞き出してください。治療する前と後、特に定期的に口にしているものがないか、確認してください」
「承知しました」
ダルデール卿はすぐに患者たちから聞き取りを行ってくれた。
俺たちはその中から共通項を探した。これは出来レースだが、あの酒以外にも複数の食材に行き当たった。
でも、それらを調査すれば、原因は特定できる。
「何に毒が入っているか、すぐに確認をさせます」
複数のものの毒はすぐに確認されて、あの酒が原因だと分かった。
ファイアット子爵のベッテンバムス領で造られている酒は、酒王という名で売り出されている。
酒王に含まれている毒は一定量蓄積することで体に悪影響を及ぼす。この確認にそれほど時間はかからなかった。
この世界でもネズミに毒と思われるものを与えてどうなるかを確認する。
ネズミのような小型の動物に悪影響を及ぼす量は極めて少ないことから、すぐに結果が出たのだ。
「間違いなく、酒王には体調不良を引き起こす毒が入っております」
この毒は酒を飲み過ぎなければ、どうということはない。飲み過ぎることで症状が現れるのだ。
そして、症状が現れても五日から十日も飲まずにいると、自然と治ってしまうのだ。
以前も言ったが、体調が悪いのに飲み続けるから、体調不良が続く呑兵衛への警鐘のような酒になっている。
デウロ様は酒の神と称しているが、俺は飲み過ぎるくらい酒を飲めとは言っていない。
酒は適量が大事だ。自分の身体と話し合って酒量を決めてほしい。
酒王の毒は十日も飲まなければ消えるけど、普通に酒の飲み過ぎで体を壊すことはよくある。そういう意味でも、この酒王の毒のことを吞兵衛はしっかり受け止めてほしい。
神殿はすぐにファイアット子爵のベッテンバムス領に人を送った。
ベッテンバムス領の神殿で、出荷前の酒王を入手してもう一度ネズミで確認するのだとか。
「それでは、俺はここで失礼します」
「此度は奇病の原因を明確にしてくださり、感謝します」
毒の治療は神殿の得意分野だ。今回は初めての毒と症状だったため、毒か病か分からずに手をこまねいていたらしい。
でも、毒と分かったのだから、あとは神殿に任せておけばいい。
教皇に挨拶したら、馬に乗って総本山をあとにした。
「これでファイアットはお終いだ。ライトスターに泣きつくことだろうよ。フフフ」
お爺様が馬車の窓から顔を見せて笑った。
酒麹を盗んだのはまず間違いなくライトスターだろう。その酒麹をファイアットに渡し、酒を造らせたのだと思う。
今回の毒騒動がどう動くか分からないけど、ライトスターの分家であるファイアットは大きなダメージを受けるはずだ。それがライトスターのダメージになれば嬉しいと思う。
王都に入って移動速度を落とし、貴族街のバイエルライン公爵屋敷へ入った。
学園はまだ始まっていないので、ローゼマリーとその兄のヘルムートも屋敷で過ごしていた。
お婆様とアレクサンデル様の妻のテレジア様とローゼマリーとヘルムートが出迎えてくれた。
ローゼマリーは俺のことがあまり好きではないから、俺じゃなくお爺様を出迎えたのだと思う。
「「「おかえりなさいませ」」」
使用人たちの間を通って家族の元へ。
「今帰ったぞ」
「おかえりなさい。あなた、トーマちゃん」
「お義父様、トーマ君。お帰りなさいませ」
「「お爺様お帰りなさいませ」」
今日はこのままバイエルライン公爵屋敷に泊まり、明日帰ることにした。
夕食を食べ、部屋で少し休んだ。
総本山では何があるか分からなかったから、さすがにマナを使い切ることはしなかった。今日は久しぶりにマナを使い切ろうと思う。
テーブルの上に石を置き、これを宝石に変換する。
レベルが百五十になった時、変換のレベルも上がって四になった。そしたら、変換・レベル一の効果が上昇して、貴金属や宝石に変換できるようになった。
でも、貴金属と宝石の変換はマナを大量に消費する。
また、変換・レベル三では、【視認できるある場所Aをある場所Bと変換できる】ようになった。
これは所謂転移のようなものだけど、かなりマナを消費する。
俺は他の人よりマナが多いが、その俺でも百メートル転移するだけでほとんどのマナを使い切ってしまうのだ。最初に試した時のマナ消費の激しさには焦ったよ。
それでも結構使い勝手がいい。戦闘時、二、三メートルを一瞬で移動することで敵の攻撃を回避できるのだ。だから、転移はいざと言う時に使うものになっている。
【変換・レベル1 : 物質変換 : 物質を別の物質に変換できる】
【変換・レベル2 : 情報変換 : 情報を閲覧・変換できる】
【変換・レベル3 : 場所変換(転移) : ある場所Aを視認でき、ある場所Bと変換できる】
【変換・レベル4 : 事象変換 : ある事象を別のものと変換できる】
【変換・レベル5 : ランク変換 : 対象のランクを変換できる】
こうして見ると、変換てヤバいスキルだよな……。
だが、あの自称神たちを見返すためには、この力が役に立つはずだ。
これからもレベル上げに励むぞ!
拳大の石に大量のマナを注ぎ込み、変換する。
できたのは一カラットくらいのエメラルドだ。
現在の俺の最大マナは三万五千ちょっとだが、一カラットのエメラルドを変換するのに、なんと五千ポイントもマナを消費する。
・石(拳大)をエメラルド(一カラット)に変換 : 五千ポイント
・石(拳大)をサファイア(一カラット)に変換 : 五千ポイント
・石(拳大)をルビー(一カラット)に変換 : 五千ポイント
・石(拳大)をダイヤモンド(一カラット)に変換 : 六千ポイント
四種類の宝石を変換するだけで、二万六千ポイントを消費した。
金の指輪に、この宝石をつけると……。
・エメラルド(一カラット)と鉄(一キログラム)をエメラルドの指輪(金)に変換 : 四千ポイント
・サファイア(一カラット)と鉄(一キログラム)をサファイアの指輪(金)に変換 : 四千ポイント
・ルビー(一カラット)と鉄(一キログラム)をルビーの指輪(金)に変換 : 四千ポイント
・ダイヤモンド(一カラット)と鉄(一キログラム)をダイヤモンドの指輪(金)に変換 : 四千ポイント
指輪にすると一万六千ポイントのマナを消費する。だから、エメラルドの指輪とサファイアの指輪を変換したところで、残りマナが一千数百になった。
マナの最大値の一割まで減ると、倦怠感が出る。おかげで今は少し怠く、眠気もある。
あと一千数百を使い切って寝よう。
そうだ、馬に乗った筋肉痛もあるから、湿布に変換しよう。
湿布だけだとマナをそれほど消費しなかったが、転移を使ってマナを使い切った。
かなり眠気が酷い。寝る前に湿布を太腿に貼った。
「ひや~」
冷たい……。
・綿布(一メートル四方)とスライムゲル(五百グラム)を湿布(十枚)に変換 : 二百ポイント
そして俺は眠りについた。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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