第60話 国王オトフリート
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第60話 国王オトフリート
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▽▽▽ Side クルディア王国国王オトフリート ▽▽▽
我が国は四百二十三年の歴史がある。
その長い歴史の中で、勇者や聖女は何度もこの世界に召喚されているが、わが国ではその召喚は行っていない。
それというのも、わが国の初代様が異世界から召喚された勇者なのだ。その初代様が定めた法により、我が国は勇者召喚を行ってはならないとなっているのだ。
故に我が国は異世界からの召喚は行わず、国の危機に際しては初代様の血を引く王家が先頭に立って対応することで、何度も滅亡の危機を回避している。
勇者の血は子孫にも大きな力を与えてくれる。基本はBランク以上の子が生まれるのだ。
余もAランクであり、レベルは三百を誇る。最近は政務が忙しいのもあるが、体調も思わしくなく鍛錬を怠っているが、ひとたび事が起きたなら戦場に出る覚悟はある。
幸い、我が子たちもランクはB以上だ。第四王女のエリスと第七王子のラインハルトに至ってはSランクであり、将来有望である。
他に、王家の血が流れている公爵家や、他の上位貴族家もそれなりのランクを誇る者が多い。
ただし、勇者や聖女など異世界から召喚された方々の血は堕落した者を嫌うようだ。
初代様の血筋でも過去に堕落したり悪に染まった者の子孫は軒並みランクが低くなっているのだ。
我が王家も五代目が堕落し、その子孫のランクは低くなった。
五代目が堕落する前に生まれた六代目はよかったが、その子孫からはDランク以上の子が生まれなくなったのだ。
そのことを重く受け取った王族たちが直系から王位継承権を剥奪し、分家から養嗣子を迎えて七代目にしたのだ。
余で二十九代目だが、何度か王が堕落したことで分家から次代の王を迎えている。
現在の王家は二十三代目がバイエルライン公爵家より養子に入った血筋である。
二十七代目の姫がバイエルライン家に嫁いでおり、今も王家とバイエルライン公爵家はよい関係を築いている。
そのバイエルライン公爵の娘ヘルミーナが誘拐されたのは十数年前のことだった。
あの時はバイエルライン公爵が必死にヘルミーナを探したが、発見されることはなかった。
そのヘルミーナが先ごろ発見されたと聞いたのは、まだ一年と少し前のことだ。
ヘルミーナはライトスター侯爵の妾になっていた。誘拐された際に記憶を失い、侯爵家の奴隷になっていたのだ。
ライトスターめ、よくも平然とそんなことができるものだ。
本来、子供が誘拐された貴族はそのことを隠す。傷物となった娘は嫁ぎ先を失うからだ。仮に傷物になってなくても、世間はそのように思わない。
しかし、バイエルライン公爵は娘が生きて帰ってきてほしいと似顔絵をバラ撒いた。
それなのに、そのヘルミーナを奴隷にしていたのだ、ライトスター侯爵家はバイエルライン公爵家から攻撃される理由を自ら作ったことになる。
ライトスターは知らなかったと言うだろうが、そんな言い訳が通じるものではない。
まったく愚かなことをしてくれたものだ。あの時はバイエルライン公爵を抑えるのに苦労をした。
それと神殿も何度か抑えた。ライトスターめ、トーマを殺そうと刺客を放ったらしい。
ライトスターが自滅するのはいいが、内戦は問題外だ。公爵家と侯爵家、神殿と侯爵家が内戦になったら、王国が揺らぐ一大事だ。
そのヘルミーナにはライトスターの血を引いた息子がいる。なんとその息子が神の使徒だというのだ。
我が国の長い歴史の中で、使徒という存在は一度も現れていない。
使徒とはなんなのだ? 神殿の総本山に問い合わせたら、過去に一人だけ現れた記録があるそうだ。
神殿の歴史は二千年以上、我が国にない歴史の記録が多くある。
神殿によると、使徒とはこの世の闇を払い人々を導くただ一人の存在なのだとか。
それは勇者や聖女とどう違うのか。
勇者は武を持って悪に立ち向かう者であり、聖女は慈悲を持って人を助ける者、そして使徒は人々を導く存在だというのだ。
ライトスターは堕落した。その莫迦息子はすでにランクが低くなっていると聞いておる。
ライトスターはひた隠しにしているが、そのようなことは隠しきれるものではない。
だが、なぜトーマはランクSなのだ? ライトスターの血筋であれば、D以上にはならぬはずだ。
それも神の使徒のなせる業なのか……?
使徒であるトーマを監視せねばならぬ。
我が国の害になるのなら、たとえバイエルライン公爵の血筋であっても排除せねばならぬ。
だが、本当に人々を導く存在であれば、トーマを支援しよう。
丁度第七王子のラインハルトが、トーマと同じ年齢である。ラインハルトにトーマの人となりを探らせるとするか。
「よいかラインハルト。トーマに近づき、その人柄を探るのだ」
「人柄を探る……のですか?」
「そうだ。トーマが我が国に混乱をもたらすような言動をしたなら、排除せねばならぬ」
「……分かりました。私がトーマを監視すればいいのですね」
「余の考えすぎであればいい。だが、最悪を考えておかねばならぬのだ」
「はい」
今の教皇は人格者だが、神官にも多くのクズがいる。神殿とて一枚岩ではない。トーマを利用しようとする者は必ず出てくる。
今のトーマが純粋な少年でも、クズによって邪に染まっていくことは十分に考えられる。
そこはバイエルライン公爵が目を光らせているから大丈夫だと思いたい。彼の神官嫌いは誰もが知っていることだからな。
「本当に使徒が人を導いてくれる存在であればいいのだが……」
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