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第57話 奇病について

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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 第57話 奇病について

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 入試の夜。スキル・変換で白磁の壺や皿を自室で作っている。

 うちは一般的に弱小貴族だから、あまり来客はない。ただ、俺が侮られるのは構わないけど、お父様が侮られるのは我慢ならない。

 アシュード領の屋敷にも白磁の壺や皿、ガラス製のグラスや食器を揃えている。それと同じようなものを作っているんだ。

 少なくとも、他の貴族が持ってない珍しいものだ。


【レベルがあがりました】

【スキル・変換のレベルがあがりました】


「お、やっと上がったか」


 久しぶりのレベルアップのシステムメッセージだ。

 これでレベル二百になった。早くデウロ様に報告したいが、我慢しよう。


 【変換・レベル5 : 対象のランクを変換できる】


 はい?

 これって……えええええええええええええっ!?

 めっちゃヤバいんじゃないか!?


 これは簡単に試せないよ。

 でも、ライトスターのヤツらになら、後ろめたさがなく使えそうだ。

 あー、そういえば、ジャイズはランクFで加護・農民なんだよな。ランクがこれ以上下がないFだから、下げることができないんだ。

 まあ、現ライトスター家当主はランクBで加護・剣豪だったから、こっちには試せるけど。会うことはあるのだろうか?





 翌日、ダルデール卿の来訪があった。お隣の元男爵屋敷に住んでいるし、塀もぶち抜いて直接往来できるようにしているから、来訪というかは微妙ですね……。

 ダルデール卿は少し困った風を装って相談があると言う。


「相談ってなんでしょうか?」

「はい。最近、東部を中心に体調不良を訴える人が多いのです。そのことでトーマ様にご相談をと」


 東部と聞いて、俺はすぐにあることが頭に浮かんだ。

 以前、アシュード領の酒工房が荒らされ毒まで仕込まれたことがあった。その際に酒麹が盗まれたのだ。


 あの酒麹で造られた酒は、少量を飲んだ程度なら問題はない。だけど、飲み過ぎると視力が落ち、あちこちの関節が痛くなり、倦怠感を感じるようになるんだ。

 どれも命にかかわるものではないし、五日から十日も酒を飲むのを止めれば体内から毒が排出され元通りになる。

 簡単に言えば、吞兵衛への警告のような効果になっている。飲み過ぎるのはよくないからほどほどにね、って感じかな。


「俺にどうしろと?」

「その人たちの体調不良を治すことはできないでしょうか」

「そう言われても……」

「ブリュンヒルデさんの病を治されたトーマ様であれば、東部の奇病を静めることができると、私は信じております」


 お婆様が死の床にあったことは、知られている。そのお婆様が今では元気に歩いているのだから、ダルデール卿は俺が何かしたと思っていることだろう。


 妄信されても困るんですけど、これはチャンスかもしれない。


「神官の回復魔法は効かないのですか?」

「一時的に効果はあるのですが、残念ながら二、三カ月すると再発するのです」


 回復魔法は万能ではない。怪我は大方治せるけど、病気にはあまり効果がないのだ。

 もっとも、原因が盗まれた酒麹から造られた酒なら、病気ではなく毒が原因なんだけど。それに、解毒できても毒を飲み続けている間は何度でも再発するものだ。耐性もつかないし。


「とりあえず、発生時期と症状について聞かせてください」

「はい。正確な発生時期は定かではありませんが、去年の冬辺りから体調不良を訴える人が増えてきました」


 ほぼ一年前ならファイアット子爵の領地で新しい酒が出てきた時期と合う。その酒はやっぱり盗まれた酒麹を使ったものなのかもしれない。


「症状は視力の低下、関節の痛み、倦怠感を感じるといったものです」


 盗まれた酒麹で造られた酒の症状と同じ症状だ。原因なのはほぼ間違いないかな。


「年齢層と性別はどうですか?」

「ほとんどの年齢層で症状がみられます。十代の後半以上で万遍なく発症しているのです」


 この国に飲酒の年齢制限はないけど、子供だとあまり酒は飲まない。だから十代後半からというのは、納得ができる。


「性別は七割から八割が男性です」


 女性も酒は飲むけど、男性のほうが圧倒的に酒量は多い。酒量が少ない人には、症状が出にくいから男性が多いのも納得だ。


「東部以外で症状が出ている場所はありますか?」

「この王都でも少なくない人が症状を訴えております」

「学園の合否が出た後に神殿の総本山へいく予定でしたよね」

「はい。その予定をしております」

「その時に、その症状を再発した人を集めてもらうのは可能ですか。数十人でいいです」

「承知しました。手配しておきますので、どうかよろしくお願いいたします」


 ダルデール卿は深々と頭を下げて帰っていった。


「さて、どうなることやら……」





 合格発表を待つ間、俺はいつもの日課と王都見物をして過ごした。

 王都の物価は基本的に高い。アクセル領で塩が一壺(一キログラム程度)が三千(ガゼル)程度なのに、王都では五千Gだった。

 パンもアクセル領で十Gくらいなのが、王都では十五Gする。

 他のものも軒並み高く、一・三から二倍くらいした。


 王都には貴族の屋敷が多いため、貴族価格があるのだとか。

 貴族の関係者がいかないような場所では、もっと安く購入できるらしい。


 それと王都を走る馬車に、タイヤつき車輪が目立つ。

 タイヤはアクセル領で生産されている。アクセル領で走る馬車の多くはタイヤの馬車になっているし、よく売れているようだ。





 合格発表を明日に控えた日、俺たち家族はバイエルライン公爵家で食事をすることになった。

 バイエルライン公爵家は貴族街の東側にあり、ロックスフォール屋敷から結構遠い。


「学園に通うにも、ロックスフォールの屋敷では遠いであろう。この屋敷から通えば近いぞ」

「まあ、それはいいわね!」


 お爺様とお婆様はタッグを組んでバイエルライン屋敷に俺を下宿させようとしている。

 たしかにバイエルライン屋敷からだと通学時間がかなり削減できる。

 だけど、俺がバイエルライン屋敷に下宿すると、もれなく神殿騎士もついてくるのだ。

 お爺様はあまり神殿が好きではないので、敷地内に神殿騎士の詰め所を造るのを許さないだろう。

 お隣さんの屋敷を購入しようにも、この付近は上級貴族の屋敷ばかりなのだ。

 これは絶対に揉めると思う。


「そのほうがローゼマリーも喜ぶわ」


 ローゼマリーというのは、アレクサンデル様の娘さんだ。俺の従姉になるかな。

 現在十三歳のローゼマリーは学園の魔法科に在籍している。

 ただ、俺はあまりローゼマリーに好かれていないから、喜ぶことはないと思う。


「わたくしは、別に嬉しくありませんわ」


 ローゼマリーはプイッと顔をそむけた。

 彼女とはこの王都にきて初めて会い、今日で二回目なんだけど前回もこんな感じだった。


「マリーちゃん、そんなこと言わないで」

「しらない」


 お婆様が窘めると、ローゼマリーは席を立って食堂を出ていった。

 難しい年頃だし、実害があるわけじゃないから気にしないことにしている。


 アレクサンデル様や奥様のテレジア様が申しわけないと謝るのを慌てて構わないと言う。

 それに俺はこの話を受けるつもりはない。それなら、学園の寮に入ったほうがいい。

 もちろん、寮には入らないけど。


 俺はその提案をやんわりとお断りした。

 せっかく俺のためにお父様が王都屋敷を改築してくれたのだ。その屋敷を使わないという選択肢はないのだ。



ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
お酒の飲みすぎが原因だったら治療してもまた再発するんじゃないかな 治療して再発した時に文句言われなければいいなあ
今回の事はまぁ主人公にも関わりが有るから良いにしても、これから先も伝染病とか流行る度に教会関係者に都合よく使われちゃうのかな? そんな義理も義務も無いよなぁ。
今一番楽しみにしてる三つくらいの小説の中の一つです。 一日に何回もチェックしてます。 これからもトーマくんの活躍を楽しみにしてます。更新ガンバってください。
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