第56話 ラインハルト王子
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第56話 ラインハルト王子
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「そこの君」
教室を出て廊下を歩いていたら身なりのよい子供が従者を六人も連れていたので、端によってやり過ごそうとしたけどなぜか声をかけられてしまった。
金髪碧眼でまるで物語に出てくる王子様のような子だ。
「はい。なんでしょうか」
俺は首を傾げながらも返事をした。
そもそもこの子は誰なんだろうか?
従者の数から上級貴族なのは理解しているが……。
俺の活動範囲は極めて狭く、知り合いは極端に少ない。
これまでアシュード領に引きこもり、たまにアクセル領へいくくらいしか出歩くことはなかった。
だから同年代の貴族に、しかも上級貴族に知り合いはいないのだ。
誰だよ、ボッチって言ったの!?
ベンやシャーミーのように、俺には信頼できる仲間がいるんだからボッチではないぞ。
「君がロックスフォール騎士爵家のトーマ君かな?」
「はい。僕がトーマです。失礼ですが、お名前をおうかがいしてもよろしいでしょうか?」
「これは失礼した。僕はラインハルト・クルディア。一応、第七王子だよ」
なんかそんな気がしていたんだ。なんで王子が王子のような容姿なのさ!
俺は右腕を胸の前に置き、腰を四十五度傾けて最敬礼をした。
「あ、楽にしてほしい。第七王子だから身分なんて気にしなくていいよ」
そんなわけにはいきませんよ。
俺が王子に失礼をしたら、お父様に迷惑がかかるんだから。
「失礼ですが、どこかでお会いしていましたでしょうか?」
「いや、今日が初めてだよ」
ではなぜ俺を知っているのかな?
俺は何か……あー、してるな。色々……。
考えたら、一般的に俺は神殿が抱え込んでいるように見えているはずだ。それは王家にとっても気になる存在なんだろう。
「いやー、父上が君のことをとても気にされていたんだ」
使徒の動向が気になるか。というより神殿のことが気になるのかな。
「聞いているよ。大変だったね」
神殿は面倒だけど、こちらも神殿を利用しているから問題ないですよ。
特に集光ランプの販売に関しては、完全に神殿に一任して大きな売り上げになっているので。
その分、神殿もかなりの利益を得ていると思うけど。
「そう警戒しなくていいよ。バイエルライン公爵家のアレクサンデル殿からヘルミーナ殿のことは聞いているから」
ああ、神殿のことではなく、お母さんのことだったか。
そう言えば、お婆様は現国王の叔母だったな。二代前の国王の末娘だったと聞いている。
お婆様は元王族だし、バイエルライン公爵家も一門衆の家柄だ。
そう考えると、俺にも王家の血が流れているのか……ないわー、王家なんてあり得ないし、そんな柄じゃない。
「ラインハルト王子にはご心配いただき、感謝いたします」
「さっきも言ったけど、僕は第七王子だからそんな堅苦しい言葉遣いは不要だよ。名前も呼び捨てでいいからね」
「……分かった。だけど、名前の呼び捨ては難しいから、ラインハルト君でどうかな?」
「うーん……。とりあえずそれでいいよ」
ラインハルト君はニカッとあどけない笑みを浮かべた。
「あら、ラインハルト王子ではありませんこと?」
なんだろう、このキラキラは?
そこだけスポットライトが当たっているかのようなお姫様だ。
淡紅藤色の髪をサイドで三つ編みにし、後方でまとめている。可愛らしい髪型だ。
瞳はエメラルドのような緑色でおっとりしたやや垂目、苦労なんて知らない澄んだ目をしている。
「クラウディア嬢か。久しぶりだね」
「そうですわね。ところで、そちらの方はどなたかしら?」
「ああ、彼はロックスフォール騎士爵家のトーマ君だ。トーマ君、彼女はパルツァー伯爵家のクラウディア嬢だ」
「ロックスフォール騎士爵家のトーマと申します。以後、お見知りおきを」
「初めまして、パルツァー伯爵家のクラウディアですわ」
クラウディア様に敬礼すると、彼女もカーテシー(淑女の礼)をした。
「僕はこれから騎士科の実技試験を受けるけど、トーマ君は教養一科の試験かな?」
「僕は教養二科ですから、これから帰るところです」
「あら、文官希望なのですの?」
「トーマ君はロックスフォール家の嫡子だと聞いているが、教養二科なのかい?」
「僕はロックスフォール家の長男ですが、養子ですから家は弟に継いでほしいと思っています」
それに俺にはやるべきことがある。デウロ様が神の座に返り咲く手伝いをしないといけないのだ。そのためには、領主になるよりも自由に動けるポジションのほうがいい。
それから神殿改革をしたい。
神殿をデウロ様を称え祀る場にすることこそが、デウロ様が神の座に返り咲く近道ではないかと、最近は思っているんだ。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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