第54話 王都のレストラン
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第54話 王都のレストラン
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王都のバイエルライン公爵屋敷は、アレクサンデル様が管理している。だから、アレクサンデル夫妻は基本的に王都在住だ。
バイエルライン公爵家は評議衆という最高評議会のメンバーになっていることから、基本的に当主かその代理の者が王都に常駐するように定められている。
これまではアレクサンデル様が当主代理として最高評議会に出席していたが、来年からはお爺様が常駐することになっている。
まあ、あれですね。王都に住めば俺と一緒にいられると……いや、俺を庇護してくれるというありがたいお考えなのです。
一応、ロックスフォール騎士爵家にも屋敷があるので、そちらで暮らす予定なんですけど。
さて、我がロックスフォール騎士爵家の屋敷だけど、貴族街の北西側にある。
バイエルライン公爵家の屋敷とは比べるまでもなく小さい。しかも門の横に神殿騎士の詰所ができている……ことはなく、なんとうちの隣の屋敷を買収したらしい。
隣の屋敷は男爵家のものだったので、うちより大きいというところが笑えるね。
「お待ちしておりました。トーマ様」
俺たちが屋敷に入ると、隣の屋敷からダルデール卿がやってきた。ちょっと待とうか、なんで塀がぶち抜かれているのかな?
「ホホホ」
笑って誤魔化したよ!
「以後、この屋敷の警護は神殿で担わせていただきます。ロックスフォール騎士爵に感謝申しあげます」
柔和な笑みを浮かべて鋭い視線でお父様を威嚇していたのを俺は覚えているけどね。
まあ、神殿騎士がいると虫よけにはなると、お爺様が言っていたから俺もそのつもりでいる。
それはさておき、王都屋敷の管理をしてくれていた使用人がいる。
執事のリュード・ボブソンはアシュード領の屋敷で執事をしているジョンソンの息子さんだ。それとその妻でメイドのルルカ。
これまではこの二人で屋敷を管理してくれていた。
今後は俺が住むということで、馬車の御者をしてくれるジャックさんとメイドのライラさんを雇っている。二人は夫婦で住み込みで働いてくれることになっている。
あと、俺の護衛ということでベンとシャーミーも一緒に住むことになっている。
「旦那様、奥様、トーマ様、ジークヴァルト様。お待ちしておりました」
「遠いところをお疲れでしょう」
リュードさんは緑髪茶目で、雰囲気がジョンソンさんに似ていて、顔はサーラさん似だ。
ルルカさんは茶髪茶目の女性で、ララの母親だとすぐに分かった。
「トーマ! 待っていたぜ!」
「領主様、奥様。こんにちは」
ベンとシャーミーは俺とダンジョンに入っていたから、レベルが二百近い。地味に神殿騎士よりレベルが高いんだ。
俺たちがアシュード・ダンジョンの十六層を探索しても、神殿騎士たちが足手まといになるため、神殿騎士たちは独自にレベル上げを始めた。
そのおかげで神殿騎士分隊長であるシュザンナ・コールラウシュさんはレベルを百九十まで上げているし、他の神殿騎士もかなりレベルが上がっている。
ただ、どうしても俺たちのほうがレベルが上がっているのが現実なんだ。
そこで話し合いをした結果、ベンとシャーミーが俺の護衛になるということになった。
正直いって、レベル二百の人って、あまりいないんだよ。
お爺様のところは兵の質がよいから三百オーバーの騎士もいたけど、王都にきて見ていたけどまだ一人も百五十オーバーの人を見ていない。
王国騎士団にならお父様並みのレベルの人がいるのだろうか。
話は戻るけど、シュザンナ隊長も王都に異動になっている。さっき、ダルデール卿の後ろにいたね。
入試までまだ三日あるので、王都見物をすることにした。
お母さんとジークヴァルトと一緒に馬車で屋敷を出る。
お父様は馬車に乗れないけど、俺は乗れる。この制度はあくまでも下級貴族の成人男性に当てはまるもので、まだ未成年の俺には適用されないのだ。ただし、下級貴族の家族が乗れる馬車は、箱馬車になる。
馬車にはシャーミーも乗っているけど、神殿騎士とベンは馬に乗って護衛をしている。
ベンは俺と一緒に乗馬の訓練をしていたから、ちゃんと乗れている。なんか騎士っぽいな、ベン。
「まずは服を仕立てましょうね」
王都では貴族御用達の仕立て店が数軒ある。
一般人向けの店ではないので、全てオーダーメイドだ。
上級貴族と中級貴族の場合、職人を呼びつけるけど、下級貴族は店に出向いて服を作る。こういう慣例もあるため、王都は本当に面倒だ。
バイエルライン公爵家出入りの仕立て職人の店に入った。
生地がたくさんあって目移りする。
「奥様、よくお似合いです」
「この生地は色が好きだわ」
お母さんのドレスを決めるのに、三時間以上かかった……。
女性の服選びにつき合うのがこんなに苦痛だとは思わなかったよ。
俺の服は三十分もかからなかった。
「あらー、ジークも可愛いわね」
ジークヴァルトは体の採寸を嫌がって時間がかかったけど、生地選びはそこまでかからずに済んだ。
「お腹空いたから、どこかで食事をしていこうよ」
「そうね。どこかいいレストランがあるかしら?」
シュザンナ隊長に聞いてみた。
「リルンフォーク・ザイドというレストランが美味しいと聞いたことがあります」
リルンフォーク・ザイドに向かったのだけど……。
「申しわけございません。全席予約席でして」
さすがは評判の高級店だね。
そういうシステムなら仕方がない。
「そこまで気が回りませんで、申しわけございません」
「シュザンナ隊長のせいじゃないですよ。こういうのも都会ならではということなんでしょう」
「そうですよ、シュザンナさん」
そんなわけで別の肩ひじを張らずに入れるような店を案内してもらうことにした。
「これはこれは、ジョナス子爵様。ようこそおいでくださいました」
「うむ。今日は近くに寄ってな。席は空いているか」
「はい。すぐにご案内いたします」
恰幅のいいジョナス子爵は奥へと通された。
今の会話から、ジョナス子爵は予約してないみたいだけど、すんなり案内された。
同じ予約がない俺たちは断られたことから、ここは客を選ぶ店なのだと理解した。
「な、あの店員め!?」
シュザンナ隊長が店にクレームを言いにいこうとしたので、止めた。
「この店は二度とくることはないので、構いませんよ」
「くっ、不快な思いをさせてしまい、申しわけございません!」
「シュザンナさんのせいじゃないわ。気にしないでね」
気分は悪かったけど、次に案内してもらったダンボロのレストランという店は一般人も入れる店で、俺にとってはこっちのほうがかえってよかったと思えた。
それに料理も美味しかったので、満足して帰ることができた。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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