第49話 薬膳酒
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
■■■■■■■■■■
第49話 薬膳酒
■■■■■■■■■■
季節は秋に移った。
神殿の総本山にアッフェルポップを送ったら、すごい反響だったらしい。ダルデール卿が楽しそうに話してくれた。
アッフェルポップは一斗樽ではなく、七百五十ミリリットルの素焼きの瓶に入れて販売をしている。素焼きといっても、スライムゲルが素材に含まれているので、防水性は万全だ。スライムゲルは本当に万能素材だよ!
ラベルには神殿御用達と明記し、その上にデウロ神様の酒とデカデカと書いてある。うちが神殿(ダルデール卿)に卸す際の金額は、一瓶で三千G。
アッフェルポップでも馬王でも、ラベルにはロックスフォール家の家紋がついている。神殿に卸すものには、より豪華に見える金の家紋を入れているけどね。
あと、村に街灯が設置された。
鍛冶師のボーマンさんが街灯を作ってくれて、それに集光ランプをつけて村のメインストリートを照らしている。
「トーマ様。この街灯なるものを神殿にもつけさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか」
ダルデール卿は何かあると、すぐにやってくる。相変わらずフットワークが軽いね。
「神殿ですか、構いませんよ」
俺は村の神殿だと思い、軽く返事をしてしまったのだけど……。
「ありがとうございます! 総本山を含め、クルディア王国全体で三千社があります。数万本になりますが、まずはこの村の神殿と総本山のものをお願いします」
神殿というのは、全ての神殿を指すものだったようだ。
でも、大型案件だから、安定して生産ができる。最近ではこの村も人が増えてきて、ボーマンさんに弟子入りした人もいる。増産をがんばってもらおう……。
さっそくボーマンさんのところに向かった。
「そりゃー、大変だ」
うん、大変なんです。
「街灯を一本造るのに、最低でも二日はかかる。弟子たちが使えるようになればもう少し生産性は上がるが、最初は月に十五本程度ですぜ、坊ちゃん」
「そこで考えたのですが、柱は木にします。壁に設置してもいいです。要は集光ランプの傘の部分を柱や壁に設置できるようにすれば、柱は他に任せてボーマンさんは集光ランプの傘の部分だけ造ってもらえばよくなります」
「なるほど、それなら造るのも早いぜ」
ダルデール卿には、この量産化案を了承してもらっている。柱は神殿側で用意してもらう。金属の柱が欲しいのなら、それは神殿が独自に鍛冶師に頼んで用意すればいい。
こっちは集光ランプとそれを包む傘などを造ることに集中すればいいのだ。
「造った街灯は全て俺が買いますので、造りまくってください」
「分かったぜ。おい、お前ら! 坊ちゃんのためだ! 死ぬ気で造るぞ!」
「「「おおおっ!」」」
死ぬ気までは要求してませんけど……。
ボーマンさんの鍛冶工房は、ボーマンさんの他に、長男のガンズと弟子が三人いる。
ベンもたまに手伝いをしているけど、基本はこの五人だ。
それと、この村に一つしかない鍛冶工房だから、街灯造りばかりをするわけにはいかない。村人の生活に不便が出ない程度にがんばってください。
そんなことをしていると冬になった。
二種類の薬膳酒ができ、お父様と長老に飲んでもらおうと集まってもらったら、どこからか聞きつけてダルデール卿までやってきた。まあ、いいけど。
「これは一日一杯この分量を飲んでもらうものです」
二十ミリリットルくらい入る小さな器を出す。これもスライムゲル入り素焼きの器だ。
「そんな小さなものでは飲んだ気になれないぞ」
「お父様、これは酒でもありますが、薬だと思ってください。だから、香りも薬のような独特なものになります」
「トーマ様。薬といいますと、どのような薬効があるのでしょうか」
「はい、ダルデール卿。今回用意したのは、二種類です。一種類は疲労回復効果のあるもので、疲れが溜まった時や風邪の引き始めに飲みます」
「風邪にも効くのですか!?」
「はい。あくまでも引き始めという条件がつきます。要は、早めに飲んでしっかり寝ることで、重症になりにくいというものです」
「それでも素晴らしいものですわ」
「ああ、素晴らしいものだ」
「さすがはトーマ様ですな」
そんなに褒めると、あとの次が紹介しづらいんですが。
とりあえず、三人に飲んでもらった。やや飲みにくいのが表情で分かる。
「次は血行促進効果があるものです」
「血行促進というのは、どんな効果なんだ?」
「冷え性や、冷えからくる頭痛、あと血行障害が酷いと感染症にかかりやすくなります。そういったことを予防できる効果があります」
「それは素晴らしいですわ! 私も手足が酷く冷えるのです。これを飲めばそういったことが改善されるのですね!」
ダルデール卿がすごい食いつきだけど、冷え性は女性に多いから苦労していたんだと思う。
「飲み続けることが大事なので、飲みすぎは駄目ですよ」
「はい。用法を守って飲みます」
クイッと薬膳酒を喉の奥へ流し込んだ、ダルデール卿に注意をする。
疲労回復用はアルコール度は四パーセント、血行促進用は二パーセント、共にアルコールは少ない。だけど、アルコールが入っていることに変わりはないから、酒に弱い人は二十ミリリットルでも酔っぱらう可能性はある。
「―――ですから、使う時は自分の体質と相談も必要です」
「そこは自己判断だな。酒に弱い者は寝る前に飲むくらいに留めるべきだろう。そんなことまでトーマが面倒を見ることはできんからな」
「一応、販売用の瓶に注意書きをしようと思います」
「トーマ様がそこまで考えておいでなら、問題はないでしょう」
造っていて香りに顔を顰めることもあったけど、二種類ともあまり美味しくはないというのが三人の表情からよく分かった。まあ、薬ですからね。
その翌日、ダルデール卿と長老が体の具合がいいと言いにきた。そんなに早く効くのかは俺でも疑問だけど、喜んでもらえてよかった。
薬膳酒の名前を決めようと思った。そこでお爺様につけてねと、手紙を書いた。
そしたら、お爺様がやってきた。
フットワーク、軽すぎじゃないですか?
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
気に入った! もっと読みたい! と思いましたら評価してください。
『ブックマーク』『いいね』『評価』『レビュー』をよろしくです。