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第48話 アッフェルポップ

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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 第48話 アッフェルポップ

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 無事にアクセル領に到着した俺は、その足でお婆様に挨拶へと向かった。

「トーマちゃん! きてくれて嬉しいわ!」

 一カ月ぶりにお会いしたお婆様は、以前より声に張りがあり若々しく見える。

 そして俺は嬉しい光景を目にした。お婆様が誰の手も借りず、自分だけの力で立ち上がったのだ。まだ歩くまではいかないけど、自分の足で立っているのだ。

「お婆様……」

「あなたのおかげで、わたくしはまた立ち上がることができました。ありがとうね、トーマちゃん」

 お婆様に抱きしめられ、俺は思わず涙してしまった。悲しいことや痛いことばかりで涙は枯れ果てたと思っていたが、この世界では嬉しくて涙が出ることを知った。

 デウロ様を祀る祭壇の前で、俺は感謝の祈りを捧げた。早くレベルを二百にして、実際にお会いしてお礼が言いたい。


「トーマよ。タイヤの量産化に目途がついたぞ」

「それはすごいですね!」

 お婆様の車椅子用のタイヤを贈った後、お爺様からタイヤの問い合わせがあった。

 そこで車椅子と馬車のタイヤについて情報を送ったら、お爺様からタイヤを量産したいという話があったのだ。

 タイヤはワイヤーを作るのが大変だから、実現しないと思っていた。お爺様はそれでもいいからと言うので、タイヤの作り方と板バネの構造を伝授した。

 あとは公爵家がネットワークと財力を使ってタイヤの量産化を目指していたのだけど、こんなに早く目途がつくとは思っていなかった。

「耐久試験も終わりに近づいたが、問題は出ていない」

「タイヤと板バネを合わせれば、馬車を魔道具化しなくても振動が抑えられますし、魔道具の馬車にタイヤを使えば、さらに乗り心地が上昇しますからね」

 それにタイヤの技術は他にも色々と使い道がある。前世のゴムは色々な工業製品に使われていた。厳密にはゴムではないけど、ほぼゴムのスライムゲル製品には、多くの可能性があるはずだ。


「ちっ、あのクズめ。ふざけたことを」

 ライトスター侯爵家の兵士が俺を待ち伏せしていたことを報告したら、お爺様が怒ってくれた。

 バイエルライン公爵家に正面から喧嘩を売ることはないが、何をしてくるか分からない。だからお爺様にも警戒をしておいてほしいとお願いしておいた。

「最近、何やらやっていると思ったが、そんなことをしていたか。潰すか」

 なんか不穏な言葉が……。聞かなかったことにしよう。


 アクセル領では、主にお婆様の話し相手をしていたけど、タイヤ工房の視察もした。情報変換でタイヤをみたけど、品質は悪くない。さすがは公爵家が誇る職人の方々だ。

「そろそろお母さんもアシュード領に帰ろうと思うの」

「お父様が寂しがってましたが、お婆様はいいのですか?」

「自力で立てるようになったし、顔色もよいから、もう大丈夫よ。それにそんなに遠くないから、いつでもこられるわ」

 お母さんの記憶は戻っていない。幼い頃の記憶がないのはどんな気持ちなのだろうか。俺は辛い記憶しかないけど、あのお爺様やお婆様なら虐待なんてしてなかっただろう。楽しい想い出はあったほうがいいに決まっている。それを忘れてしまったのは、悲しいことだ。


 お母さんが帰ると聞いたお婆様は、とても寂しそうにした。

「仕方ないわね。ヘルミーナにはロックスフォール卿という旦那様がいるのですものね」

「また遊びにきます」

「その時には、ジークちゃんと遊べるように、もっと体力をつけておくわ」

 上品に笑うお婆様の目は寂し気だった。


 帰りはお爺様が護衛を五十人もつけてくれた。過保護というべきか、大げさというべきか。でも、ありがたくその好意を受け取っておこう。おかげで無事にアシュード領に帰ってこられた。

 お父様はお母さんとジークヴァルトを抱きしめ、最後に俺を抱きしめた。

 俺はそこまで家を離れてないから、いいのに。


 神殿からダルデール卿が訪ねてきた。

「これがアポーのお酒なのですね」

 ダルデール卿、お父様、シュザンナ隊長、そして神官のオトルソ・ダイゴさんにアポー酒を試飲してもらう。

「ほう、これはいいな。このシュワシュワとした感覚が刺激的だ」

 このアポー酒は所謂炭酸が含まれている。刺激的な喉越しは炭酸のなせる業ですね!

「本当にシュワシュワしますわね。そしてとてもフルーティーです。とても美味しいお酒だと思います」

 ダルデール卿にも高評価だ。

「シュワシュワが刺激的ですが、とても飲みやすく、美味しいです! もう一杯いただけますか!?」

 シュザンナ隊長も掴みはオーケー。

「ああ、なんという芳醇な味なのでしょう。まさに神の酒に相応しいです!」

 泣いているんですが、この神官さん。

「このお酒の名前を教えていただけますか」

「ダルデール卿につけていただこうと思い、まだ正式なものはつけていません」

「私にですか。それは光栄にございますが、トーマ様につけていただきたく思っております」

「俺がつけてもいいですけど、本当にいいのですか?」

「ホホホ。神のお酒の名を、私ごときがつけるなど、恐れ多いことです。どうかトーマ様がおつけください」

「そうですね……アッフェルポップ、ではどうでしょう」

 たしか、リンゴはドイツ語でアッフェル、炭酸は英語でソーダやポップというから、繋げただけなんだけどね。リンゴの炭酸飲料に捉えられかねないけど、この世界ならそんなことはどうでもいいことだ。

「「「アッフェルポップ……」」」

「アッフェルポップ! ああ、神のお酒として相応しい響きです」

 前世の知識をくっつけただけなんだけど、なんかダルデール卿がうっとり乙女の顔をしてるんですが?


 いきなりだけど、神殿が無理難題を言ってこないのは、ダルデール卿のおかげらしい。俺を総本山に寄こすようにと、催促が頻繁にあるらしいのだ。誰とはいわないけど、アッフェルポップをおかわりした某女性隊長が教えてくれた。

 状況次第だけど、そのうち総本山に顔を出してもいいかもと思っている。軟禁されるのは困るが、そうでなければ敵情視察はしておくべきだろう。



ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


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― 新着の感想 ―
シードルっぽいお酒も来ましたね
とても読みやすかった、ランキング一位なのも納得でした!
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