第46話 馬車魔改造
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
■■■■■■■■■■
第46話 馬車魔改造
■■■■■■■■■■
丸い金属の筒で、アポーの中心をくり抜く。こうすると、ヘタと芯と種を簡単に取ることができる。
コツコツと大量のアポーをくり抜いて、同じ量の水と一緒に煮込む。皮はついたままがいい。煮込んでいると、アポーが柔らかくなるから、これを潰していく。焦がさないように混ぜながら、ほどよく水分が蒸発したところで樽に移し、五十度くらいまで冷めたらアポー用の麹を加える。この麹は変換で専用のものを創っている。
・アポー(一キログラム)をアポー酒用酒麹(百グラム)に変換 : 消費マナ二百ポイント
アポー酒を仕込んだら、今度は薬膳酒だ。漢方のような薬の素材を、十種類用意した。今後、こういった薬材を漢方と呼ぶことにしよう。
薬膳酒は効能によって、素材のチョイスが違う。馬王の蒸留酒に、三から五種類の薬を配合して、二種類の薬膳酒を熟成させることにした。こっちは馬王の蒸留酒を使うため、アポーのような火を使う仕込み工程はない。漢方を適度な大きさに切り、薬膳酒用に変換した薬膳酒の元と一緒に蒸留酒に入れるだけだ。この薬膳酒の元は二種類の薬膳酒に共通して使えるものだ。
アポー酒は麹のおかげで発酵が進み、順調だ。
予定では三カ月でアポー酒が出来上る。
二種類の薬膳酒のほうは、効能が期待できるまでに、半年はかかる。ただ、基本的に手がかからず、放置でいいのがありがたい。
アポー酒の世話をしながら、平行して山積みされたスライムゲルを処理することにした。いい加減倉庫に入らない、とメイドのサーラに怒られてしまったよ。
スライムゲルは実に多くのことに使える素材だ。
変換をする時、素材にするものと、最終製品にするものではマナの消費が圧倒的に違う。産業化するなら、変換でなんでも片づけてしまうのはよくない。
俺がいなくても作れるようにちゃんと道筋をつけないとね。
でも、お婆様の車椅子を見て思った。これは造っておかないといけないと。
・スライムゲル(三キログラム)と硫黄(一キログラム)と木材(二キログラム)と鉄(二キログラム)を車椅子用スライムタイヤに変換 : 消費マナ三百ポイント
ある程度の耐久性と耐候性、そしてクッション性を併せ持たせたものになる。
スライムゲルを補強するために中に鉄のワイヤーを入れる。このワイヤーを作るのは結構大変だ。
お婆様の車椅子用だから、今回は俺が変換で創るもので構わないだろう。
これをセバスさんに送れば、お婆様の車椅子がバージョンアップするはずだ。
次は馬車用のタイヤだ。
・スライムゲル(十キログラム)と硫黄(四キログラム)と鉄(十キログラム)と木材(十キログラム)を馬車用スライムタイヤに変換 : 消費マナ千二百ポイント
これはうちの馬車につける。
俺はあまり馬車に乗らないけど、アクセル領からの帰り道でしみじみ思ったんだ。お尻が痛い。
お爺様の馬車は超がつく高級仕様だから、魔道具で振動を抑えているけど、うちの馬車にはそんな高価な装備はついていない。
だからスライムタイヤで振動を抑える。あと、できれば板バネくらいはつけたいけど、ここまですると車輪の交換だけでは済まない。
ベンの父親のボーマンさんに頼んだら作ってくれると思うから、板バネは馬車を新車にする際に相談だな。
大工のバーズさんに頼んで、馬車の車輪を交換してもらおう。以前は樽を大量に作っていたから忙しくしていたバーズさんだけど、今はだいぶ落ちついているはずだ。
「バーズさーん」
「おーう。って、坊ちゃんですか! どうかしましたか?」
「うちの馬車の車輪を交換してほしいんですけど、時間ありますか?」
「車輪の交換ですかい? そのくらいなら、構いませんぜ」
バーズさんに屋敷の車庫にきてもらって作業をしてもらうことにした。
「これですかい?」
「はい。新型の車輪なんです。サイズは合わせているので、ちゃんとつくと思うのですけど」
「この黒いのは……」
「新しい素材なんです」
「さすがは坊ちゃんでさぁ、交換が終わったら声をかけますよ」
「それじゃあ、お願いしますね」
車輪交換は一時間もせずに終わった。さすがは慣れたものだね。
馬車の試し乗りをしてみることにした。神殿騎士の人に御者をしてもらって乗り回したけど、小さな振動は収まった。
でも、大きな振動は前より激しくなったかな……。スライムゲルの弾力が振動を大きくしてしまったようだ。微妙だ。やっぱり板バネがいるか。いや、この際だから板バネなんてけち臭いこと言わずに、エアサスにしてやろうか。と思ったけど、エアサスは今の俺では変換できないようだ。
試乗を一旦中止して、今度は馬車に板バネをつける。スライムタイヤだけで乗り心地がよくならなかったので、中途半端はいけないと思ったわけです。だって、新車を待っていられないんだもん。
板バネの設置は、鉄を素材に馬車ごと変換で造り変えることにした。
え、最初からそうしろと? そこはほら、何事にも自重というヤツがね。ヘヘヘ。
また神殿騎士に御者をしてもらったが、今度はいい感じに振動が抑えられた。ベンチにスライムゲルのクッションを設置したのもよかった。お爺様のところの超高級馬車と大差ない乗り心地だ!
「で、これはなんだ?」
「これは馬車です」
「俺の知る馬車とはずいぶんと変わったようだが?」
「がんばりました」
「そのようだな……」
お父様はハハハと力なく笑った。どうしたんだろうか?
「馬車で思い出したが、そろそろトーマに馬の乗り方を教えるか」
「馬ですか!」
楽しみだなー。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
気に入った! もっと読みたい! と思いましたら評価してください。
『ブックマーク』『いいね』『評価』『レビュー』をよろしくです。