第45話 なんでも神のせいにするのはね
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第45話 なんでも神のせいにするのはね
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「もういってしまうの?」
そんな悲しそうな顔をされると後ろ髪が引かれるから……。
「また遊びにきますから」
「本当よ。絶対にきてね」
「はい。約束します」
お婆様に別れの挨拶をしたら、後ろからお母さんが抱きついてきた。
「トーマ。無茶したらダメよ」
「お母さん。恥ずかしいですよ」
「自分の子供を抱きしめているだけよ。恥ずかしいことなんてないわ」
それはお母さんの話で、俺は恥ずかしいわけですよ。
お母さんの次はお爺様だけど、抱きつかれるのはちゃんと避けた。そんな恨みがましい目でみないでください。
「ジークヴァルト。お兄ちゃんはおうちに帰るけど、お母さんと一緒に待っててね。ちゃんと迎えにくるから」
「あーいあーい」
「うん。お利巧だね、ジークヴァルトは」
俺は今日、お父様と共にアシュード領に帰る。
お母さんとジークヴァルトは残ることになった。しばらくお婆様の面倒を見たいとお母さんが言ったからだ。お父様は寂しそうだったが、一カ月も領地を離れているからそろそろ帰らないとね。
アクセル領からジャドーズ領に入った。領主のリッテンハイム男爵はお父様と仲がいいということで、挨拶へ向かう。
「トーマ!」
プラチナブロンドを揺らしてタリアが走ってきた。
「やあ、タリア。今日も可愛いね」
「本当に!?」
俺の一歳上の母違いの姉は、今日もとても可愛かった。リッテンハイム男爵が大事にしてくれているようでよかった。
「こら、タリア。はしたないぞ」
「はーい」
このダンディな男性がリッテンハイム男爵か。
最近よく思うのだけど、この世界の人は美形が多い。お父様もリッテンハイム男爵も、それにお爺様やアレクサンデル様も皆イケメンだ。
「トーマ。久しぶりね」
「お久しぶりです。ルイスさん」
「やあ、君がトーマ君かい。私はウィルヘルム・ジャドーズ・リッテンハイム男爵だ。よろしくね」
「初めまして、リッテンハイム男爵様。ロックスフォール騎士爵家のトーマと申します。以後、お見知りおきください」
「立派に挨拶ができるね。タリアと大違いだ」
「わ、私だってそのくらいできます!」
「だったら、ロックスフォール卿にちゃんと挨拶をしなさい」
「ロックスフォール騎士爵様、ごきげんよう。私はタリア・リッテンハイムと申します」
「ロブ・アシュード・ロックスフォールだ。可愛いレディ、よろしくね」
「はい!」
「私はロックスフォール卿と話があるから、タリアはトーマ君を案内してあげてくれ」
「はい。いこ、トーマ」
タリアに手を引かれて庭へと出ていく。今日は陽気がいいから、風が気持ちいい。
タリアと久しぶりに会い、近況を話し合った翌日にジャドーズ領を出てアシュード領に帰った。
アシュード領に帰ったら、神殿からダルデール卿がやってきた。ストーカーかと思ってしまうのは、内緒だ。
「無事のお帰り、心からお慶び申しあげます」
「ありがとうございます」
「ブリュンヒルデさんが元気になられたとか、お慶び申し上げます」
「はい。嬉しいことです」
「ブリュンヒルデさんが助かったのは、まさに神のご意志にございましょう」
「なんでも神の意志にしてはいけませんよ」
「トーマ様が関われば、神のご意志と思われるものですよ」
まさかの俺のせい!?
「俺が関わったことで、お婆様の症状が回復したのでしたら、それはデウロ様のご意志であり、神というざっくりとした括りにするのは不敬ですよ」
「たしかにそうですね。デウロ様にお詫び申し上げます」
ダルデール卿は床に両膝をつき、祈る姿勢になった。よしよし、もっとデウロ様に祈るのだ!
「なんでもあのバイエルライン公が、デウロ様の銅像を作って領内に設置しているとか」
ソファーに座り直したダルデール卿がお爺様の話をし出した。なんでも知っていますね、本当に。神殿の情報網は莫迦にできないのがよく分かったよ。
お爺様はこれまで神など信じないスタンスに見えていたようだから、ダルデール卿はそのことが聞きたかったんじゃないかな。
「はい。俺に加護を与えてくださったデウロ様ならと、屋敷内に祭壇を作り、銅像を領内に設置してくださっています」
今回アシュード領に設置するものとして、十体のデウロ様像をいただいてきた。
「あのバイエルライン公が変われば変わるものですね。フフフ」
お爺様は決して神を否定するものではない。お爺様が否定しているのは、神殿のありようなのだ。神殿はいいことがあれば神の恩寵だと主張し、悪いことがあれば神の試練だと言う。そういうことをなんでも神のせいにする神殿の姿勢が気に入らないと言っていた。
俺がアクセル領に滞在している間に、倉庫にスライムゲルが山積になっていた。
「まさかこんなに……」
子供たちにスライムゲルを買い取ると言った後、アクセル領にいってしまったからすっかり忘れていた。一メートル角の木箱が、毎日満杯になるくらい持ち込まれたらしい。スライムゲルは大した金額じゃないけど、子供たちはがんばって狩ったんだろうな。
そして、馬王のほうはというと……。
「いい感じです!」
「トーマ様の酒を、駄目にすることだけはできないと必死で面倒を見ました!」
「こんなに必死になったことはなかったです!」
ジンさんとラムさんが面倒を見てくれたおかげで、俺が仕込んだ馬王は特級酒になっていた。
そのせいか、二人は目の下にクマができ、頬がこけ、疲労困憊だった。そこまでしなくてもと思うけど、二人にとっては重大なことだったようだ。でも、ここまで馬王をしっかり育ててくれて、感謝しかない。
二人が仕込んだ馬王も、特級酒になっているものが多い。
俺が近くにいると、危機感がなくて必死さが足りなかったのかな。途中一回帰ってきたけど、一カ月も領地を離れていたから、あの顔になるくらいに必死になったと……。よし、これからは俺の関与は少しにし、ほとんどを二人に任せよう!
「これからは馬王のことは、二人に任せますね」
「「勘弁してください!」」
勘弁しません。
「二人はちゃんと馬王を造っているじゃないですか。自信を持ってください。二人なら大丈夫です!」
二人に任せると言っても、俺は俺で新しい酒を造るために酒工房に通うから。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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