第44話 ヒルデの散歩
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第44話 ヒルデの散歩
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お爺様も胃岩浄を全部飲んだとセバスさんから聞き、情報変換で確認した。胃癌が治っている! これで一安心だ。
お婆様も順調に回復していて、食事は液体だけでなく固体も食べられるようになった。
「セバスさん!」
「なんでございましょうか、トーマ様」
「これを作ってもらえないでしょうか」
俺はセバスさんに紙を渡した。
「これは紙にございますか? 随分と薄い紙ですが……?」
いや、紙を作ってほしいわけじゃないんだ。そこに描かれているものを作ってと言っているんですよ。
「ほう、これは……。お任せください。すぐに作らせます」
「お願いします」
もうすぐアシュード領に帰らないといけない。その前にお爺様にあのことをお願いしておかないとね。色々あったから言いそびれていたんだ。
「お爺様。トーマです。入っていいですか?」
「もちろんだっ!?」
お爺様の部屋に入ると、お爺様が書類仕事をしていたデスクからソファーに移った。
「お爺様にお願いがあってきました」
「なんでも言うがいい。必ず叶えてやろう!」
食い気味の返事に、ちょっと引きながらお願いをする。
「もちろんだ! デウロ様の加護を得たトーマのおかげで、ヒルデはまた起きられるようになったし、私の病も治った! デウロ様だけの神殿を造ろう!」
俺はデウロ様の像を造って、バイエルライン公爵家が治めるアクセル領のあちこちに置いてほしいと頼んだのだけど、お爺様は神殿を造ろうと気合を入れた。
「いえ、神殿は要らないのです。それよりも、人が集まる場所や人の目につきやすい場所に、デウロ様の像を建てていただきたいのです」
このほうが人々にデウロ様の名が知れ渡るはずで、信仰を集めやすいと思うんだ。お地蔵さんみたいに、目の前を通る時に簡単に祈ってくれる人がいたらそれでいいんだよね。
まずは認知度アップ。そして徐々に信仰をデウロ様に向けさせていく。そういう作戦だ。
「いいだろう。デウロ様の像を造らせ、人の目につきやすいところに設置させてもらおう」
「デウロ様のおかげでうちの領地は馬王を造れました。それにお婆様も回復し、デウロ様にはいくら感謝しても感謝しきれません」
「私もデウロ様には感謝している。我がバイエルライン公爵家はこれよりデウロ様を守護神とし、末代まで祀っていくことにしよう」
「ありがとうございます」
お爺様の動きは速かった。職人にデウロ様の銅像の製造を百体も依頼してくれたのだ。さらに屋敷内に祭壇を造り、バイエルライン公爵家の守護神と崇め称えたのだ。
その間にセバスさんに頼んでおいたものが出来上がってきた。俺はそれに触って強度を確かめる。
「いい感じですね! ありがとうございます、セバスさん」
「いえいえ」
さっそくそれを持って、お婆様のところへ向かった。
お婆様の部屋には、お母さんとジークヴァルトもいて、お婆様は楽しそうにお喋りをしていた。
「あら、トーマちゃん。会いにきてくれたの」
「はい。気分はどうですか?」
「とてもいいわ」
「今日はお婆様を散歩にお誘いしたくやってきました」
「久しく外に出ていないので、出たいと思うのだけど……」
「奥様。トーマ様がこちらをお作りになりましてございます」
セバスさんが車椅子を前に出した。
「それは?」
「これに座っていただければ、お婆様も外にでられますよ!」
「まあ……嬉しいわ。ディアナ、手伝ってもらえるかしら」
「はい。奥様」
お婆様つきメイドのディアナさんと、お母さんがお婆様をベッドから車椅子に移動させる。
「あら、乗り心地がいいわ」
クッションにスライムゲルを使っているので、弾力があって柔らかいものになっている。
ディアナさんが車椅子を押し、お母さんはジークヴァルトを抱っこし、俺はお婆様の横で歩く。ただ歩いているだけなのに、なぜか心がほっこりする。
セバスさんたちが手際よくパラソルやテーブルを用意してくれた。
「お茶がいつも以上に美味しいわ。トーマちゃん、ありがとうね」
久しぶりの外に、お婆様は感慨深げに空を見上げた。
「ヒルデ!」
「母上!」
お茶をしていると、お爺様とアレクサンデル様、そしてお父様がやってきた。
「外に出ても大丈夫なのか?」
「今日はとても気分がいいわ」
お婆様の体調は日を追うごとによくなっている。悪いところはもうないし、あとはリハビリをすれば歩けるようになるはずだ。そのことを説明すると、お爺様が泣き出してしまった。
「そうか、そうか……よかったな、ヒルデ」
「はい。そのリハビリというものをがんばりますわ」
「うんうん。ヒルデはきっと歩けるようになる!」
リハビリのやり方はセバスさんに教えておく。俺はそろそろアシュード領に戻らないと、さすがにマズい。
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