第43話 祖父母の治療
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第43話 祖父母の治療
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「その薬をヒルデに飲ませたいと?」
「はい。お願いします、公爵様」
「………」
そんなに考え込まなくても、これはいい薬ですよ。決して怪しい薬ではないですから!
「許可してもいい」
「本当ですか!?」
「が、一つ条件がある」
「じょ、条件ですか……なんでしょう?」
どんな無理難題がでてくるんだ。ゴクリッ。
「私のことを『お爺ちゃん』と呼んでくれないか?」
「へ?」
なにそれ? 俺はどんな無理難題かと思って、身構えていたんだよ。俺の気持ちを弄んだわね!
「御屋形様……それはさすがに……」
ほら、セバスさんも呆れているじゃないか。
「いいじゃないか。やっと会えた孫なんだぞ。『お爺ちゃん』と呼ばれたいじゃないか」
その気持ちを汲んで『お爺ちゃん』と呼んで……いや、ちょっと待とうか。『お爺ちゃん』は無理難題じゃないのか? ハードルが高い気がする。せめて『お爺様』だろ?
「あの……」
「うむ『お爺ちゃん』になんでも言ってみなさい」
「『お爺様』ではいけませんか?」
「むむむ」
そんなに考え込まなくても!?
「御屋形様。トーマ様のご提案を飲まれませ。そうでないと、嫌われますぞ」
「何!? それはいかん! 仕方がない、『お爺様』で手を打とうではないか!」
「ありがとうございます。お爺様」
「おほっ!? トーマ、もう一度呼んでくれるか」
「お爺様」
「ウハハハハ! いいぞ、いいぞ! ハハハ!」
そんなに嬉しいのかな。俺にはよく分からないや。そもそも公爵には他にも孫がいると聞いた。アレクサンデル様の子供たちだ。その孫らに、なんと呼ばせているのだろうか? 上位貴族だから『お爺ちゃん』はないと思うんだけどなぁ。
それはさておき、公爵に許可をもらったから、お婆様に活命丹の薬湯を飲んでもらう。公爵をお爺様と呼ぶのだから、夫人はやはりお婆様と呼んだほうがいいだろうか。
お母さんがお婆様に薬湯を飲ませるようだ。お婆様は朦朧とした意識の中でも薬湯を少しずつ飲んでくれた。
活命丹の薬湯はお婆様の部屋に漂っていた臭いよりも酷い臭いを出していた。鼻が曲がりそうな臭いでも、お婆様は味覚や嗅覚も弱っているため、吐き出すことなく飲んでくれた。
お婆様には朝晩二回しっかりと薬湯を飲んでもらい、昼は野菜と肉を煮込んだ栄養満点スープを飲んでもらった。
すると、二日目にはお婆様の顔色が良くなり、三日目には目が見えるようになった。
「あぁぁぁ……ヘルミーナ……」
お婆様が俺の顔を見てお母さんと間違えた。お爺様は俺とお母さんがよく似ていると言っていたけど、俺、男ですからね。
四日目にお母さんのことを娘だと認識できるくらい目がしっかり見えるようになった。危険な状態も脱して、回復が著しい。さすが神薬だ!
「お母様……」
「ヘルミーナなのね……」
お母さんとお婆様が抱き合って泣いている。もらい泣きしそうだ。
再び図書室で調べものをする。今度は公じゃなかったお爺様の胃癌の薬だ。
書物で調べた薬の素材をセバスさんに用意してもらう。
さすがはセバスさんだ。すぐに薬の素材を用意してくれた。
俺は自室でまた薬を作った。
・ロウバン(百グラム)とタウゾン(五百グラム)とバントロ(二百グラム)を胃岩浄(十錠)に変換 : 消費マナ一千ポイント
・胃岩浄 : デウロの使徒トーマが作った胃癌用の神薬 一日一回、寝る前に服用すること 一回一錠、十日間飲み続けることで、胃癌は完治する
今回はマナの消費が一千ポイントで済んだか。
全身が弱り果て死にかけていたお婆様と、胃癌という特定の病魔を癒す薬の差かな? それとも素材の差か?
どちらにしても、胃癌が治るのだから、お爺様に飲んでもらわないといけないな!
「そんなわけでお爺様にはこれです!」
「そ、そんなわけ?」
「細かいことはいいので、これを毎晩寝る前に飲んでください」
「なぜ私に薬を?」
「お爺様の胃は病魔に侵されています。その病魔を癒す薬です」
「そ、そうなのか?」
「このまま放置すれば、遠くない未来に死に至ります」
「な、なんと……だが、侍医はなんともないと……」
「俺の薬を飲んでくれないのですか?」
「うっ……の、飲む。飲むに決まっているだろう!」
「よかった! それじゃあ、セバスさん。この薬を毎晩寝る前に飲ませてくださいね。苦いと嫌な顔をしても、絶対ですからね」
「承知いたしました」
「お爺様もいいですね」
「お、おう……」
これで祖父母は安心だ。
「俺はアシュード領でやることがあるので、二、三日後に帰りますね」
「なんだと!? そんな話聞いてないぞ!」
「今言いました」
「そ、そうか……もう少しいてはくれないのか? せっかくヒルデも元気になってきたのだ、もう少しだけでも」
「近々またきます。それにお母さんとお父様、それにジークヴァルトはしばらくこちらにいるそうです」
「そうか……ロックスフォール卿に迷惑をかけてしまったな。この穴埋めは必ずすると言っておいてくれ。もちろん、トーマには私に出来うる限りのことをしよう」
「あ、それならアポーを融通してもらえないでしょうか」
「アポーを? それは構わんが、どれほど欲しいのだ」
「とりあえず一トンを用意してください」
「一トンもか? トーマはそんなにアポーが好きなのか?」
「え? ああ、俺が食べるのではなく、お酒を造るのです。ダルデール卿に頼まれていますので」
「何、あのババアが酒をだと!? あのクソババアめ、我が孫をいいように使いおってからに!?」
「ちゃんと代金をもらいますから、構いませんけど」
「それなら私用にもお酒を造ってくれないか?」
お爺様は対抗心剥き出しで自分もと頼まれてしまった。何、そのめっちゃ期待するような目は……?
「お爺様用にですか?いいですけど、時間がかかりますよ?」
「問題ない。出来上るのを楽しみに待っている」
「分かりました。それなら、お爺様の体を考えて薬膳酒がいいかなと思います。いくつか薬の素材を用意してもらってもいいですか」
「いくらでも用意しよう。セバス、頼んだぞ!」
「お任せください」
その日の夜、お爺様は寝る前に胃岩浄を飲んだが、あまりの苦さに苦悶の表情をしたらしい。
俺は一旦アシュード領に戻り、馬王の状態を確認した。
あと、新人職人たちの状態も確認し、安全第一と衛生的な環境が大事だと再徹底した。
そして、神殿に顔を出そうと思ったら、ダルデール卿からやってきた。フットワークが軽いお婆ちゃんだ。
「ブリュンヒルデさんの容態がよくなったのですか。さすがはトーマ様にございます」
「そんなに褒めても何も出ないですよ」
「いえいえ、トーマ様のご尊顔を見せていただけるだけで、私は十分にございます」
こんな顔でよければいくらでも見てちょ。
その後、俺はとんぼ返りでアクセル領に戻った。
活命丹が全部なくなった日、お婆様はベッドから起き上がれるようになった。
「トーマ! なんと感謝すればいいのだ、ありがとう、トーマ!」
お爺様に抱きつかれた。
「あらあら、トーマちゃんが困っているじゃないですか」
「何を言うか! トーマはヒルデだけでなく、私の胃の病も治してくれたのだぞ!」
「まだ治りきってないので、ちゃんと胃岩浄を飲んでくださいね」
「うっ……もちろんだとも!」
「トーマ様。ありがとうございました。ヘルミーナ様があのようなことになり、御屋形様は笑わなくなりましたが、それが今ではあのように」
セバスさんがハンカチで目頭を押さえる。
「俺のお爺様とお婆様ですから、これくらいのことは当たり前です」
「いえ、トーマ様はご当家にとってまさに救世主様にございます。本当にありがとうございます」
使徒だったり、救世主だったり、俺はどこに向かっているのかな? でも、お爺様はいい執事を持っていて、幸せだね。
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