第42話 バイエルライン公爵邸で
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第42話 バイエルライン公爵邸で
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バイエルライン公爵家が治めるアクセル領バゼル湊は、ライバー川沿いにある湊の中で王都に比肩する大きな湊らしい。
船酔いもなく順調に進み、俺たちは夕方にはバゼル湊に降りた。ここでも豪華な馬車が待っており、それに乗り込んで進むとうちの屋敷など掘っ立て小屋に思えるほどの屋敷に入った。ライトスター侯爵家の本宅よりも大きい。さすがは公爵家の屋敷だ。
馬車を降りると、居並ぶ騎士たちが剣を掲げ、俺たちは剣のアーケードの中を通って進む。何この光景……。
玄関は勝手に開き、その中には数十人の使用人たちが並んでいた。
「「「お帰りなさいませ」」」
一糸乱れぬ礼だ。さすがは公爵家の使用人たちである。
「失礼ながら、神殿騎士の皆様には別に部屋を用意いたしました」
「我らはトーマ様の護衛です!」
「ここはバイエルライン公爵邸にございます。護衛は不要と心得ます」
「そうはいかぬ!」
セバスさんとシュザンナ・コールラウシュ隊長が口論を始めた。
「シュザンナさん、ここは公爵様の屋敷です。セバスさんの言う通りにしてください」
「しかし……いえ、トーマ様の仰る通りにいたします。ですが、屋敷から出る際は私どもをお呼びくださると、お約束いただけますでしょうか」
「うん。屋敷から出る時は必ず呼ぶから」
「はっ。ありがとうございます」
大事にならずに済んでよかった。
「ありがとうございます。トーマ様」
セバスさんから礼を言われたので、笑みを返しておいた。
「ブリュンヒルデはどうか?」
「奥様はお変わりなく」
「そうか……。ヘルミーナ、トーマ、ロックスフォール卿、今日は休んでくれ。明日、ブリュンヒルデが起きたら」
「いえ、お母様にお会いしたいと思います」
「しかし……分かった」
公爵が自ら案内してくれる。アレクサンデル様と使用人が十人くらいついてくるようだ。
三階に上り、長い廊下を歩いた先の護衛が二人立っている扉の前で止まった。ここが公爵夫人の部屋のようだ。
使用人が扉を開けると、なんとも言えない苦い臭いがした。薬の臭いなのかな。
「ヒルデ……。ヘルミーナがきてくれたぞ」
公爵夫人は寝入っており、公爵の言葉に反応を示さない。随分とやつれているけど、品のよさがうかがえる方だ。張りのない白髪は、長く苦しんだ証なのだろう。
「お……母様」
お母さんが手を伸ばし、一度は躊躇するが公爵夫人の手を取った。記憶がなくても何かが通じるのだろうか、目に涙を溜めている。
俺は公爵夫人を情報変換で見た。病気は心の問題のようだ。娘が誘拐されて、本当に生きる気力を失ってしまったようだ。そのおかげで、心臓も肝臓も胃も何もかもが弱っている。長く気に病んでいたことで、内臓も筋肉も弱りに弱って、もう長くないというのは本当のようだ。特に心臓が弱り切っていて、厳しい状況だ。
厳しいといえば、公爵も病を抱えている。胃の癌だ。俺の情報変換だから分かったくらいに初期で、自覚はほとんどないはずだ。
「あの、公爵様」
「……何かな、トーマ」
俺が呼ぶと公爵は何故か悲しそうな表情で振り返った。
「公爵家に薬に関する書物はありますか」
「あるが……」
「俺に見せてもらえますか」
「……どうしたのだ? もしヒルデのことで……だが、侍医も匙を投げたのだ」
「見せてくださらないのですか?」
「いや、いいだろう。セバス、案内をしてやってくれ」
「承知いたしましてございます。トーマ様、こちらへ」
「ありがとう」
公爵夫人はしばらく目を覚まさないだろう。覚ましてもおそらく目は見えない。視力も失っているから、お母さんの顔を見ることは叶わない。せっかく会えたのに、それはとても悲しいことだ。
「こちらです」
セバスさんに案内してもらった部屋には、膨大な書物が収められていた。この世界にきてこれだけの書物を見るのは、初めてだ。
「薬関係の書物はこちらにございます」
俺は数冊を抱え、テーブルに置いた。
公爵夫人にはまず栄養が必要だ。食事と薬で栄養を補う必要がある。
いくつかの薬にめぼしをつけ、セバスさんに入手できるか聞いてみた。
「すぐに手配いたします」
セバスさんもそれで俺が納得するならと考えたようで、すぐに手配してくれた。どうやら公爵邸には薬を扱う部署もあるようで、俺が頼んだものはすぐに用意してもらえた。
部屋で一人になった俺は、薬に変換を使った。
公爵夫人が俺のお婆さんなのは間違いないだろう。お母さんのことを気に病み、命の炎が消えかけている。これを放置しておくことなんてできない。
―――変換! 公爵夫人を癒す薬になれ!
「くっ……」
マナが一気に減っていく。今の俺のマナは三千ポイントを超えている。その全てが持っていかれたような倦怠感が襲ってくる。
ステータスオープン……。
バカな!? マナがゼロになり、スタミナを食っている!? 今もスタミナがグングン減っていく。これ、ヤバ過ぎる……。
そこで俺の意識は飛んでしまった。
気づいたらベッドに寝かされていた。あれからどれだけたったのか分からないが、今は東の空が明るくなっているから、早朝のようだ。
ステータスオープン。
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【個体名】 トーマ・ロックスフォール
【種 族】 半神(ヒューマン・神族)
【情 報】 男 8歳 健康
【称 号】 創生神デウロの使徒
【ランク】 G
【属 性】 神
【加 護】 変換の神(未覚醒)
【レベル】 106
【スキル】 変換・レベル3
【ライフ】 3,243(6,506)
【スタミナ】 3,324(6,649)
【マ ナ】 3,486(6,972)
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あの変換でレベルが二つも上がっていた!? それだけ多くのマナとスタミナを消費したんだと思うけど、あれは本当にヤバかった。
「はっ!? 薬は?」
テーブルの上は、あの時のままだ。皿の上にある顆粒を情報閲覧で確認する。
・パクテイン(二百グラム)とアルティアニンジン(二百グラム)とジュウゼルホトウ(五十グラム)を活命丹(百粒)に変換 : 消費マナ五千ポイント
消費マナが五千ポイントか……。だからスタミナまで消費したんだろうな。
・活命丹 : デウロの使徒トーマが祖母ブリュンヒルデのために作った神薬 一日二回、朝晩に服用すること 一回五粒を百ミリリットルのお湯に溶かして飲ませることで、ブリュンヒルデは健康を取り戻す
これを公爵夫人に飲んでもらったら、症状が改善するはずだ。
俺はすぐに公爵に面会を求めた。
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