第40話 驚愕の事実と信仰心
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第40話 驚愕の事実と信仰心
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もうね、お腹いっぱいですわ。
あの後、俺はお父様とお母さんの間に座り、話を聞いた。
アレクサンデル様と同じ青い髪にエメラルドグリーンの瞳の五十代紳士は、バイエルライン公爵家の現当主だった。つまり、公爵様だ。
そして、なんとお母さんはバイエルライン公爵の娘なんだとか! 驚愕の事実に思考が追いつかない!
お母さんは十三歳の時に誘拐され、それ以来行方不明になっていたのだ。お母さんの本当の名前はヘルミーナ。でも、ステータスはアリューシャになっている。
そのことを聞いたら、記憶喪失の人のステータスの名前は消えるのだとか。そして、それ以降につけられた名前に変わるらしい。場合によっては加護も変わってしまう場合があるらしい。ほんまかいな! と叫びそうになったよ。
十二年も前だから、他人の空似という可能性は十分にあると思うのだけど、それも解消されていた。
まずは公爵夫人―――お母さんのお母さん、俺にとっては祖母にあたる人の若い頃にお母さんがそっくりで、金髪でエメラルドのような透き通った緑色の瞳もその祖母から受け継いでいるものだ。それだけでは本当に他人の空似の可能性は否定できないのだが、極めつけがあった。
お母さんの右胸には、★型の痣があるのだ。生まれた時からそれはあり、そして今もある。公爵はそれを確認してほしいとお父様に頼んだそうだ。まあ、お父様はその痣をしっかり見ているだろうし、お乳を飲んでいた俺もその痣には見覚えがある。つまり、お母さんがバイエルライン公爵令嬢だったことが明らかになったのだ。
アレクサンデル様がお母さんをガン見していたのは、綺麗なお母さんに見惚れていたのではなく、生き別れになった妹がそこにいたからなんだとか。そしてすぐに父であるバイエルライン公爵に伝令を出したというわけ。
公爵は馬車で四日かかる道のりを、公爵家が所有している超高速船を使ってやってきた。うちの屋敷に横づけされていた船だね。この船は公爵家が緊急時に王都などと連絡を取るためのもので、公爵が乗るような豪華装備はない。公爵は伝令が到着してほとんどすぐに船に乗り込んだらしい。公爵のお母さんへの想いは本物だと分かるエピソードだろう。
「トーマ。私がお爺さんだ。顔をよく見せておくれ」
いきなりお爺さんと言われても、俺はなんと反応すればいいのだろうか。
「トーマ」
困っていると、お父様が背中を押した。いってあげろということだろう。
「あの……トーマです」
「うむ。カール・アクセル・バイエルラインだ。幼い頃のヘルミーナによう似ておるな。フフフ」
公爵は目に涙を浮かべ、俺を抱きしめた。ちょっと強めのハグだが、それだけ想いが詰まっているのだろう。
「ヘルミーナのことは内心諦めていたのだ。だが、娘が生きており、こうして孫を抱くことができた。なんと嬉しいことだ」
優しい声が震えている。この世界での家族は、あの御屋形様と呼ばれていた実父以外とてもいい人ばかりだ。これもデウロ様のおかげなのだろう。感謝しかない。
公爵は俺の次にジークヴァルトを抱き、ギャン泣きされて困っていた。
アレクサンデル様は意外と赤ん坊のあやしかたが上手いようで、ジークヴァルトは泣くことなく笑っていた。それを見た公爵がアレクサンデル様の脛を蹴っていたが、それは見なかったことにしてあげよう。
色々あり過ぎた日が終わり、翌日の早朝にダルデール卿が来訪した。
「ホホホ。バイエルライン公、お久しぶりにございますね」
「ダルデール卿か。まだ生きていたのだな」
「久しぶりにお会いしたのに、随分な言いぐさではないですか」
お二人は顔見知りのようだ。
片や国を代表する上位貴族、片や神殿の中枢を担う枢機卿、顔見知りでも不思議ではないけど、なんか仲が悪そう。
「はぁ、またこれですか。いい加減にしてください。子供の前ですよ」
顔を突き合わせて威嚇し合っている二人は、アレクサンデル様も呆れる仲のようだ。
アレクサンデル様が教えてくれたけど、この二人は公爵が学生だった頃に、教師と生徒の間柄だったらしい。その頃から、公爵は神殿の教えに事あるごとに疑問を呈し、ダルデール卿と議論を交わしていたのだとか。
極めつけはお母さんが攫われた時のことだ。ダルデール卿は公爵に神への信心が足りてないので一心に祈りなさいと言ったらしい。神を信じてやまないダルデール卿としては、祈ればお母さんが帰ってくると言いたかったのだろうが、それは言ってはいけないと思う。
心に傷を持つ人に、貴方が悪いからそうなったのですと言っているようなものだし、この言葉は追い打ちでしかない。そういった追い打ちが宗教の常套句なのかもしれないが、そんな心の傷や隙につけこむようなことは違うと強く言いたい。
神を信じていてもいなくても、理不尽な目に遭う人はいる。それが神の仕業なら、それこそ神に祈りなど捧げないだろう。神の試練? そんな試練を与えてくださいと誰が頼んだのだ? 勝手に試練など与えるな、いい迷惑だ。と言いたいわけ。
そんなことがあり、それ以来二人の関係は余計に悪化したらしい。
俺の前世は本当に精神的にも身体的にも辛かった。さらに神を僭称するクズ神使に出遭い、闇の空間に閉じ込められたのを助けてくれたのは、デウロ様だった。
唯一俺を助けてくれたのが、デウロ様だ。だから俺はデウロ様以外の言葉は信じない。
信じてほしければ、信仰してほしければ、奪うのではなく、与えるべきだ。試練を受けたいと願うのは、一部の変態だけだ。
俺は幸せに暮らしたい。そして、今の俺は優しい両親や気のいい仲間たちに囲まれてとても幸せだ。
それがデウロ様が与えてくださった人生なのだ。
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どうも、作者の大野半兵衛です。
さて、アリューシャの記憶喪失の原因がここでは判明しておりません。当然ですよね、本人の記憶がないのですから。
これはかなり後になって判明しますので、それまで我慢してくださいね。
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ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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