第36話 久しぶりのダンジョン
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
■■■■■■■■■■
第36話 久しぶりのダンジョン
■■■■■■■■■■
神殿の拡張用の物資が運び込まれてくる。
ダルデール卿は交渉前から神殿拡張の手配をしていたようで、多くの物資と人が村に入ってきた。食えないお婆ちゃんだ。
神殿騎士も森を切り開くのにその武の才を発揮していて、あっという間に元の神殿の敷地の二倍近い森が切り開かれた。神殿は石造りなので、伐られた木は職人用の簡易的な寝所になったり、薪などに使われることにる。
「最初に、俺の都合で久しぶりのダンジョン探索になってしまったことをお詫びするよ。二人には本当に迷惑をかけてしまい、ごめん」
なんだかんだいって、一カ月くらい探索していない。ダンジョンの入り口前で、ベンとシャーミーに謝罪をする。
「何言ってんだ、トーマは若いのに気苦労が多くて大変だって、オヤジが言っていたぜ。禿げないといいなってよ」
うっ。禿げたくはないな……。
「私はこれまでの探索で足りないと思ったところを見直していたから、丁度よかったわ」
なんていい仲間たちなんだ……ベンはオヤジさんの受け売りだけど。
「本当に何もしないでくださいね」
「承知しております」
俺がベンとシャーミーとダンジョンに入ろうとすると、神殿騎士が三人もついてくる。彼らの仕事は俺の護衛だから、ダンジョンであってもというか、危険なダンジョンだからついてくるのだ。トイレについてこられるよりはいいけどさ……。
「それじゃあ、いこうか」
「おう!」
「はい」
ダンジョンの一層を最短距離で進んでいる。一層では村の子供たちがモンスターを狩っていた。そのおかげでモンスターがいない。
「スライムだ」
先行していたベンが止まることなく、進んでスライムを踏みつぶした。
スライムは倒しても素材が得られないハズレモンスターだ。死体は捨てていくしかない。俺たちもこれまで捨てていた。
スライムは死んでゲル状の体がベチャーと地面に広がる。ダラダラとしてないから回収しようと思ったらできるが、しない。
そこでふと思ってしまった。スライムの死体を情報変換してないなと。ゲル状って意外と珍しいと思うんだ。
情報変換で見てみたら、「へー」と驚くくらい多くのものの素材になるようだ。これは持って帰らねば。
「おい、スライムなんか持って帰るのか?」
「ちょっと試したいことがあるんだ」
「トーマがそう言うならいいが、うえ、ムニョムニョだな、それ」
「ひんやりして意外と気持ちいいぞ」
綿の袋に入れて、背嚢へ放り込む。
それ以来、モンスターはおらず、俺たちは二層に入った。二層にもスライムはいるが、ここでも子供たちが狩りをしており、俺たちがスライムを狩ることはなかった。
もう二、三匹はスライムが欲しかったと思ったが、帰りに期待しよう。
三層に入ると、コズミさんたちと出逢った。
「おう、トーマたちじゃないか」
「「「「よう」」」」
「お久しぶりです、コズミさん、皆さん」
「おっす、オッサンたち」
「こんにちは」
五人とも大きな背嚢がパンパンだ。大猟のようでよかった。
「十層の獲物ですか?」
「いや、十一層だ」
「「「おー!」」」
俺、ベン、シャーミーの感嘆の声が揃った。
「やるじゃねぇーか、オッサンたち!」
「お兄さんだぞ、ベン」
アイアンクローされ、ベンが足掻く。
「いってーよ、オッサン」
「まだ言うか」
「だってよ、オッサンたち何歳だよ?」
「俺は永遠の二十歳だ」
「「「「俺もだぜ」」」」
「うそつけーっ!」
さすがに二十歳はない。俺もベンのように叫びそうになったよ。シャーミーなんて、隠しもせずに大笑いしているし。
護衛の神殿騎士もそっぽを向いて肩が揺れている。
「で、そっちの豪勢な鎧を着ているのは、最近話題の神殿騎士様か?」
「ええ、そうです」
コズミさんはそれ以上何も言わず、気をつけていけよと立ち去っていった。
三層を探索していると、すぐにモンスターに遭遇した。ビッグハンドというサル型の魔獣だ。
腕が俺の胴体くらいの太さがあり、手がめちゃくちゃ大きい。
ビッグハンドのその巨大な腕から繰り出される攻撃は、莫迦にできない。盾で受けたベンの顔が、衝撃で歪むほどの威力だ。
俺が矢を射るが、ビッグハンドに躱された。
「光の大神ライトルイド様に祈りを捧げます。ライトジャベリン!」
シャーミーのライトジャベリンがビッグハンドの動きを予想したかのように右肩を抉った。
「俺も負けてらんねーぜ!」
ベンがモーニングスターで殴ると、ビッグハンドは後ずさった。そこに俺はもう一射した。今度は目に命中した。左肩を狙ったのだが、結果オーライだ。
痛みでビッグハンドが暴れるが、ベンはその隙をついて飛び上がって脳天にモーニングスターを叩き込んだ。
さすがにそのままは持って帰ることができないので、ビッグハンドはこの場で皮を剥ぐ。
解体は手慣れたもので、俺たちは手際よく解体を行った。
ビッグハンドの肉は臭みが強くとても食べられたものではないので、捨てていく。情報閲覧で確認しても特に活用法はなかった。
そんな感じでリハビリがてら三層を探索していると、なんと宝箱を発見してしまった。
ダンジョンはモンスターを生み出すだけでなく、宝箱をランダムで配置する。どんな原理かはさっぱり分からない。
「三層で宝箱を発見するとは思わなかったな」
宝箱は深い層にあるもので、浅い層には滅多にないものだ。
「デウロ様に感謝を」
ベンがそう言いながら蓋を開けた。うむ、デウロ様の使徒の名において、ベンを信徒一号に認定してやろう。
「なんか籠手が入っていたぞ」
・剛腕の籠手 : 腕力上昇(小) ライフ上昇+30ポイント
アイテムでも魔道具に分類されるものは、人間同様に触りながら『ステータス・オープン』と唱えることで、フレーバーテキストが見える。中には呪われた魔道具もあるため、必ず確認が必要だ。
もしフレーバーテキストが出なかったら、それは魔道具ではないし、呪われてもいないということになる。
「これはベンが使うといい」
「いいのか!?」
「ベンが使うのが一番戦力アップになると思うよ。シャーミーもいいかな」
「うん、それでいいよ」
「よっしゃー!」
ベンは大喜びで手袋を外して籠手をつけた。それからは、ハイテンションのベンが活躍した。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
また、『ブックマーク』と『いいね』と『レビュー』をよろしくです。
気に入った! もっと読みたい! と思いましたら評価してください。
下の ☆☆☆☆☆ ⇒ ★★★★★ で評価できます。最小★1から最大★5です。
『★★★★★』ならやる気が出ます!