第2話 死後の世界
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第2話 死後の世界
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意識が戻ってきた。俺はまだ生きているようだ。腹に痛みは感じない。手術の麻酔が効いているのだろうか?
目を開けると、真っ白だった。視力が戻ってきてないのかと思ったが、どうやら違うようだ。
ここは天井も壁も、それこそ床も真っ白で遠近感がおかしくなりそうだ。
しかも俺はあるのかないのか分からない床に立っている。まるで浮いているような、違和感を感じた。
周囲にはクラスメイトたちが立っていた。俺と同じく困惑しているようだ。
「転生者の皆さん、よくきました!」
「「「っ!?」」」
いきなり声がし、振り向くと見たことのない人がいた。金髪碧眼で絶世の美女と形容する以外に言葉が思い浮かばないほど美しい存在だ。
その女性は明らかに人間ではない。白い翼があり、頭の上にエンジェルリングがあるのだ。まさに天使といった容姿だった。
「あなたたちは、私が管理する世界フォースダリアに勇者として召喚されます」
天使が凛とした声でそう宣言すると、カウンターと椅子が現れた。彼女は椅子に座ってニッコリほほ笑んだ。
「あんたは一体なんなんだ。俺たちをどうするつもりなんだ!?」
相模雄太だ。金持ちでイケメンで学業優秀でサッカー部のエース。神は彼に二物どころか四物も与えた。俺にないもの全てを持っているような生徒だ。
「私は世界の管理者、言い換えるなら神です。ファストクラウド―――あなたたちが地球と呼んでいる場所であなたたちは死亡しました。よって、フォースダリアに勇者として転生召喚してもらうのです」
天使ではなく管理者? その管理者が噛むことなく流ちょうな口調で説明したように、俺はやっぱりバスの事故で死んでしまったようだ。
そして彼女が管理する世界に勇者として転生召喚されることが決まったような口ぶりだ。
異世界に転生だけど、召喚だからこの姿のまま召喚されるのだろうか? もし、赤子から始めるのだったら、人生をやり直せるのか? できればやり直してみたい。いい親に巡り合いたい。家族の愛というものを知ってみたい。そう強く思う。
「あなたたちはファストクラウドで死んでいるので、元の世界に戻ることはできません。拒否をしても転生は実行されます。フォースダリアで暮らすのが嫌なら、自殺しても構いません。もっとも、フォースダリアにはモンスターや魔族がいますので、殺されるほうが先かもしれませんが」
金髪女神は意地の悪そうな笑みを浮かべた。その笑みを見た時、俺は悟った。これまでに俺を蔑んできたヤツらと同類のヤツだと。あのような表情をするヤツは日本、管理者の言葉を借りるならファストクラウドで俺が住んでいた国にも多くいた。両親もそうだし、このクラスメイトの中にもいる。
彼らは総じて、俺を見下し、意味もなく攻撃を加えてくる。物理的な暴力も精神的な暴力も平気で行う。そういった種の人種だ。
そんな金髪女神の説明を聞いたクラスメイトたちは、青ざめた。
「異世界転生だなんて、私たちどうなってしまうの?」
「俺、勇者になれるのか!?」
「もうお母さんたちに会えないの?」
クラスメイトのざわめきが広がっていくが、管理者はクラスメイトの動揺などお構いなしだ。
「これより、加護を授けます。一列に並んでください」
クラスメイトはどうすればいいのかとざわついている。
「早く並んでください。加護を与えずに送りますよ」
管理者の言葉に、ギョッとしたクラスメイトたちは慌てて動いて並んだ。俺も列に並んだが、横から乱暴に押されて列からはみ出た。
「お前は一番後ろに並べよ、親ナシ。ここは俺様の場所だ」
「………」
この乱暴者は石破拳。空手部のエースだが、性格が粗暴で何度か問題を起こしている。親が国会議員のため、その都度問題を揉み消してもらっている。おかげで退学にならず、学生でいられるヤツだ。
俺は列の一番後ろに並んだ。問題になる行動はしない。これまでもそうやって生きてきた。心を押し殺すのは得意だ。
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