第125話 五体投地
■■■■■■■■■■
第125話 五体投地
■■■■■■■■■■
三人の王子・王女が争っていた次期国王の座は、エーレンフリート様が王太子になることで話が終結した。
国王は立太子の儀を行い、国内外に次の国王がエーレンフリート様だと周知した。
それに伴い、エリス様はバイエルライン公爵家のヘルムートに嫁ぐことになった。ヘルムートは俺の従兄弟になる。
お婆様に続いて王家から降嫁が決まったことで、王家とバイエルライン公爵家の繋がりはかなり強固なものになった。
そしてなぜかエリス様はデウロ神殿の見習神官になった。降嫁が決まっているのだから、なんで見習神官にと思わないではない。意味不明だ。
また、ラインハルト君も臣籍降下することになり、新しくバルジ公爵家を興すそうだ。
ラインハルト君の領地は旧カトリアス聖王国のアルバース砦になったそうで、今は現地へ入るための準備をしているそうだ。
アルバース砦はカトリアス聖王国との最前線になるので、国王は信頼できる人を入れたかったのだろう。
他にもエーレンフリート様が国王代理として政務を行うことになり、大臣などの重要ポストの刷新が行われた。
国王はエーレンフリート様への政権移譲を円滑に行えるように、徐々に政務を減らしていくようだ。
今回の立太子の裏でどんな話があったのかは知らないけど、国王を含め当事者たちが納得しているなら問題ないね。
「伯父上。宰相就任、おめでとうございます」
「宰相など私の柄ではないのだがな」
「伯父上なら立派に宰相の重責を担うことができると思いますよ」
今回の重要ポストの刷新に伴い、伯父のアレクサンデル・アクセル・バイエルライン公爵は宰相に就任した。エーレンフリート様の最側近として、今後の国政を担っていくのだ。
あと、ラインハルト君はいずれカトリアス聖王国方面軍の司令官になるらしい。ラインハルト君はこの話を固辞しているようだけど、次期国王の弟としてそれなりの重責を担うのは既定路線だ。こういった重職が用意されているのは、ラインハルト君とエーレンフリート様の仲が悪くないというアピールでもあるしね。
「エリス様の輿入れは来年早々ですか」
「ああ、春になったら降嫁されてこられる」
「今は見習神官としてデウロ神殿で働いていますが、どこまでやる気なのでしょうか?」
「……殿下はデウロ神殿の活動を死ぬまで続けたいと言っておられたな」
「そうなのですか? そしたら、それなりのポストを用意しないといけませんね……」
「ほどほどでいいぞ、ほどほどでな」
「その見極めが大変だと思いますけどね」
相手は王族で、やがては公爵夫人だ。神官として活動を続けるというのなら、それなりのポストが必要になる。もっとも、エリス様の能力がそれなりにあればだけどね。
バルド領のデウロ神殿に帰ると、人だかりができていた。何かと思ったら、エリス様が子供たちに勉強を教えていた。
青空教室とか、いいよなー。長閑な光景だ。
エリス様の表情は、以前お会いした時よりも柔らかいものになっている。次期国王の座を争っているのは、彼女の気質に合わなかったのだろう。今はとてもよい表情をしている。
「エリス様は子供たちに大人気よ」
そんな声が横からした。
「やあ、タリア。久しぶりだね」
「トーマは相変わらず忙しそうね」
「最近は少し落ちついたよ」
「それはよかったわ。今回はゆっくりしていけるってことね」
「しばらくはバルド領にいるよ」
俺の姉のタリアは、現在神官(神殿騎士)として働いている。
快活な性格のタリアは、持ち前の明るさで神官や保護している子供たちを照らしてくれている。孤児院の責任者をしているシュザンナ・コールラウシュさんも、タリアのことを褒めていたよ。
「創始様!」
デウロ神殿の枢機卿であるブルーノ・バルリングが駆け寄ってくる。そんなに走らなくても俺は逃げないよ。
最近、俺のことを皆が「創始様」と呼ぶんだよ。以前は使徒様とか呼ばれていたけど、教皇になるのを固辞したらこんな呼ばれ方になってしまった。マジで勘弁してほしい。特に彼のような初期のデウロ信徒は、その傾向が強いんだ……。
「やあ、バルリング枢機卿」
「ご無沙汰しております、創始様!」
俺の前で五体投地をするバルリング枢機卿に、俺もタリアも苦笑しかない。
「バルリング枢機卿、立ってください」
「はっ! 失礼いたします!」
いちいち熱い。困ったものだ。
「俺は今から神光石に祈りを捧げにいく。二人は職務に戻ってね」
「それなら私もいくわ。神光石へ祈りを捧げるのは、デウロ信徒として当然のことだもの」
「某も御供いたします。創始様!」
それじゃあ、連れ祈りといきますか。
デウロ神殿の誰でも入ることができる礼拝堂に、神光石はある。
今日も礼拝堂は多くの人が祈りを捧げている。長椅子に座り祈っている人、床に膝をつき祈っている人、立ちながら祈っている人、皆が思い思いに祈りを捧げている。
デウロ神殿に決まった祈りの方法や作法はない。祈ることが大事なのであって、形はどうでもいいのだ。
俺たちの姿を見た神殿騎士が、敬礼をする。敬礼しながらも警戒は怠らないのは、さすがは精鋭だ。
「皆、ご苦労様。少し祈らせてもらうよ」
「「「はっ!」」」
「これより、創始様による祈りの儀が行われます!」
俺が祈るのををわざわざ大声で言わなくてもいいんだよ、バルリング枢機卿……。ほらー、信徒さんたちが、五体投地しちゃったじゃないかー。勘弁してくれよー。




