第122話 侵攻停止
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第122話 侵攻停止
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軍議は進み、情報の内容をエーレンフリート様が主導して確認することになった。要は俺の情報だけでなく、多角的に確認しようというのだ。エーレンフリート様は情報を信じているようだが、他の幕僚がそう主張した。
俺を信じる信じない云々ではなく、そういった確認は大事だと思う。一つの情報だけで、重要なことを判断するほうが怖い。
エーレンフリート様は竜騎士隊を使い、速やかに幕僚を現地に向かわせた。また、被害がない第二軍団にもカッシュ港の状況を確認するために幕僚が送られることにもなった。
タムリンたち竜騎士隊のメンバーとワイバーンには悪いが、がんばって飛んでもらおう。
その竜騎士隊が戻ってきて、派遣した幕僚の書状と共に、各軍団から人を連れてきた。
その結果、俺の報告は正確だったとなり、エーレンフリート様はすぐに本国へ使者を送った。判断を仰ごうというのだ。
さらにカトリアス聖王国攻めを行っていた各国の状況も確認するため、使者を送った。これでも竜騎士隊が使われたため、休みなく飛んでもらうことになった。この状況が落ちついたらゆっくりと休んでもらうが、今は踏ん張りどころなのでがんばってほしい。
時間経過と共に各地の状況が分かってきた。
やはり各国も多くの被害を出しているようで、本国の判断を仰いでいるたり、撤退を考えていると報告が上がってくる。
そもそも侵攻したくても首脳陣を失ってしまい、撤退もままならないという軍も多い。
そうこうしていると、本国から書状が届いた。
エーレンフリート様は国王からの書状を開き目を通していく。そして、書状をテーブルの上に置いて、大きく息を吐く。
「司令官閣下、本国はなんと?」
エーレンフリート様が考えをまとめる時間を取って、伯父上が声をかけられた。
「この遠征軍の総司令官は私だから、私に判断しろと仰っておいでだ」
書状を横に座る伯父上に渡す。伯父上もその内容を確認し、軍務卿のバルツァー伯爵へと渡される。
「では、閣下。どうされるか、ご判断を」
「判断するために、皆の忌憚のない意見を聞きたい」
そこから幕僚たちの意見が飛び交う。俺は末席で、彼らの意見に耳を傾けている……わけではなく、眷属たちから各地の情報を得ようとしているのだが、やっぱり聖都に眷属は入れない。
「ロックスフォール侯爵、貴殿の意見は?」
おっと俺に水が向けられてしまった。皆の意見をほとんど聞いていなかったので、どう答えようか……?
「聖都への進軍を一旦止め、カッシュ港、ジュブレーユ、アルバース砦の三カ所を防衛ラインとして構築する。その上でカトリアスと各国の動向を見極め、対応するのがよいかと」
「その三カ所を防衛ラインとするのか……ふむ……」
「あいや待たれよ! 他にも危険な仕掛けがないとは限りません。一旦軍を退くのがよいかと!」
ファンデンベルグ侯爵だ。俺の意見は聞き入れたくないんだろうが、この意見にも聞くべきところがある。他にどんな仕掛けがあるか分かったものではないのだ、これ以上の被害が出る前に軍を退かせるという判断も正しいことだと思う。
こういった真逆の意見を聞き、判断をしなければいけないエーレンフリート様は大変だ。あのような立場になりたくないものだと、心から思う。
「他国との兼ね合いもある。我が国だけが退くわけにもいかぬであろう。よってカッシュ港、ジュブレーユ、アルバース砦を防衛ラインとし、この三カ所にさらなる仕掛けがないか、しっかりと確認させよ」
「「「はっ!?」」」
エーレンフリート様の判断に、幕僚たちは従った。まあ、どうなるか分からないのだから、強く否定する理由はない。判断が下りたら、それに従い粛々と職務を全うすることができるこの幕僚たちは、本当に優秀な人たちなんだろう。そういった人選を、国王がしたんだろう。多分。
カトリアス聖王国攻めに参加している連合軍は、ライカ王国、ベスタ皇国、フォルト国、ザバ王国、デキトム王国、そして俺が所属するクルディア王国になる。
この六カ国のうち、五カ国で大きな被害が出ている。どの被害も都市や砦などに仕掛けられた何かによって受けたものだ。
俺はその仕掛けを勇者召喚と称するものに使ったのだと思う。もしかしたら勇者召喚は人の命を捧げないとできない、邪教的なものなのかもしれない。なんにしろ、カトリアス聖王国はロクでもない国だというのが、俺の見解だ。
今回被害がなかった国は、ライカ王国の軍だ。ライカ軍はカッシュ港を目指していたが、到着していなかった。
このカッシュ港には、ラインハルト君も十一万という大軍を率いて出陣していた。
今考えると、大軍のラインハルト君の第二軍団に対し、多くても一万五千程度のライカ軍の到着が遅れていたのは違和感がある。
もしかしたら、ライカ王国はカトリアス聖王国に通じていたのではないだろうか? 俺の考えすぎなのかもしれないが、そんな邪推が頭を巡る。
こんなことを思ってしまうと、調査しなければ気が済まない。俺は眷属をライカ王国とライカ軍に送った。




