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第121話 報告と軍議

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挿絵(By みてみん)

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 第121話 報告と軍議

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 大興奮のバルツァー伯爵をなんとか宥めすかした伯父上に、話の先を促される。

 第四軍団はまだ四万が残っている。だが、首脳陣が壊滅状態で混乱。

 第三軍団はエリス王女が混乱する三万の将兵を掌握して混乱は収まりつつあるが、とても進軍などできる状態ではない。

 第二軍団に異常はないが、カッシュ港が混乱していることから、進軍を止め様子を見ている。


「ふむ。カッシュ港に入っていなかった第二軍団が無事だったことを考えると、町や拠点などに何か細工がされていたようだな」


 伯父上は冷静に状況を判断している。俺も伯父上と同じことを考えていた。


「戦をせず、暗殺するような行いは、カトリアスめがやりそうなことだ。ふんっ」


 バルツァー伯爵は鼻を鳴らした。


「総司令官殿に面会する。トーマもついてきてくれ」

「はい」


 二人に続いて総司令部の総司令官室に入った。

 エーレンフリート様はやや疲れた顔をしているが、健康に問題はないようだ。疲れているところ申しわけないが、気の重い話をせざるを得ない。


「ロックスフォール侯爵?」


 俺の顔を見たエーレンフリート様は、怪訝な顔をした。


「総司令官閣下。重要なお話がございます」

「よくないもののようだな……」

「残念ながら」


 エーレンフリート様は大きく息を吐くと、話すように促した。


「第三軍団と第四軍団に大きな被害が出たとのことにございます」

「大きな被害、というのはどれくらいか。出来る限り正確に報告を」

「はっ。第三軍団四万のうち一万が、第四軍団七万のうち三万が、消失しました」

「……戦闘があったのか?」

「いえ、都市ジュブレーユとアルバース砦に何かしかけがあったようで、城内と砦内にいた者らが、全て死亡しました」

「なんと……エリスは!? ブラックライド侯爵は、無事か?」

「エリス様は無事のようですが、ブラックライド殿は……残念ながら」

「くっ……ラインハルトは、第二軍団は無事なのか?」

「ラインハルト様の第二軍団が目指していたカッシュ港でも異変が起こったようですが、幸いにもカッシュ港の手前で野営をしておりましたので無事にございます」


 エーレンフリート様は椅子の背に持たれかかり、天を仰いで十数秒固まった。復活したら、何度かゆっくりと息を吸って吐き、一度席を立って窓の外を見た。


「ロックスフォール侯爵がいるということは、貴殿からの情報か?」


 背中越しにそう問われた。こんなあり得ない情報を聞いたのに、必死に心を落ちつかせようとしている。冷静に対応しようと心掛けられる人は多くない。特に生まれがいい人は、その傾向がある。生まれてから何不自由なく生きてきて、我慢をするということを知らない人が多いからだ。武人であれば、訓練で我慢を覚えるが、本気で武の道を志す者は貴族の中でも少ない。

 エーレンフリート様が武術を嗜んでいるのは知っているが、どちらかというと文に長けていると聞く。それでもエーレンフリート様は理性で激情を押さえ込めるようだ。

 ジークフリート君は性格がよく、人当たりも柔らかい。だけど、為政者という点において、エーレンフリート様のほうが勝っている気がする。あくまでも俺の私見だけど。


「はい、殿下。これはロックスフォール侯爵からの情報にございます」

「こちらからも確認する必要はあるが、幕僚らを集め、対応の検討を行う。すぐに皆を集めてくれ。ロックスフォール侯爵もその席に出席するように」

「……承知しました」


 伯父上に丸投げしようと思ったが、無理っぽい。情報を持ってきた責任は、とらないといけないか。

 すぐに幕僚たちが集められ、俺もその末席に加わった。

 見慣れぬ俺がいることに、幕僚たちから訝しげな目が向けられる。あまり社交的じゃないから、こういう場所は腰が落ちつかない。


「皆集まったな。これより軍議を開始する」

「総司令官閣下。よろしいでしょうか?」


 幕僚たちの顔に見覚えはあるが、なかなか顔と名前が一致しない。


「ファンデンベルグ侯爵か。何か?」

「なぜ彼がここにいるか、お聞かせください」

「ロックスフォール侯爵は補給の責任者であり、私の幕僚の一人だ。軍議に参加してもおかしくはないであろう。なぜ、そのようなことを聞く?」


 そうなんだよね、俺は一応幕僚の一人に名を連ねている。通常は後方勤務なので、軍議に参加はしないけど。


「い、いえ、これまで軍議に参加していませんでしたので」

「今回は必要だと私が判断し、参加するように命じた」

「承知しました……」


 ファンデンベルグ侯爵はあまり納得していないようだ。彼の四男は、覇天事件で死亡している。あの事件で生き残った俺のことをよく思っていないような節がある。

 そんなこと言ったら、他にも多くの生徒や教師がいたのにね。もっとも、狙らわれたのが俺とラインハルト君だから、そのとばっちりで息子が死んだと思っていても不思議はない。


「さて、参謀長(バイエルライン公爵のこと)。頼む」

「はっ。先ごろ、アルバース砦に入っていた第四軍団が、将兵三万人を失った」

「「「なっ!?」」」

「都市ジュブレーユに入っていた第三軍団も一万人を失っている」

「どういうことか!?」

「なぜそのようなことにっ!?」

「参謀長、それは真のことであるか!?」


 幕僚から矢継ぎ早に質問が繰り返されるのを、エーレンフリート様が手で制すと静かになった。


「これはロックスフォール侯爵からの情報である。彼の耳目はいたるところにあるゆえな」


 エーレンフリート様の言葉を聞き、俺に視線が集まった。いたたまれない気分だ。



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