第120話 急転直下
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第120話 急転直下
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今朝はうなされて起きてしまった。どんな夢だったか覚えていないが、気分のいいものではないだろう。久しぶりにこんなに寝汗をかいた。
白んできた東の空を見上げる。俺が各地に飛ばした虫の眷属からの応答は、半分以上がない。虫だから、鳥などに捕食されることがある。だが、ここまで一気に反応がなくなることは、今までになかったことだ。
「何が起きているんだ?」
もしかしたらクラスメイトが召喚されたのか? そろそろのはずだから、こんな胸騒ぎがするのだろうか? だが、眷属の応答がないのは、どうしてだ? 聖都のように結界のようなものが張られてしまったのか?
無事な眷属を問題があった場所へと向かわせることにした。
空を飛ぶ虫でも、長距離の移動は困難だ。だから、目的地方面に向かう馬車は旅人などにこっそり乗らせてもらう。だから、移動にはそれなりの時間がかかる。
眷属がアルバース砦に至った。戦闘が行われているわけではないのに、かなり騒がしい。どういうことだ?
「はぁ? アルバース砦に向かった第四軍団が壊滅?」
眷属から送られてくる情報に、俺は我が目と耳を疑った。
砦内にいた三万人が、全員死んだ? 第四軍団の兵力は七万。そのうち三万が一晩で死んでしまったというのか!?
無事だった四万人は砦外で野営をしており、周辺の警戒を担っていた。それが幸いして生き残ったが、砦内で何が起ったかは分かっていない。
砦内には第四軍団を率いていたブラックライド侯爵をはじめとする首脳陣のほとんどが寝ていたため、全滅だ。首脳陣が全滅したことから、第四軍団の指揮系統はまとまりがない。混乱のるつぼと化している。
他の場所に到着した眷属虫からも、同じような情報がもたらされた。
都市ジュブレーユに入っていた第三軍団も一万人もの犠牲があった。エリス王女は城内にいなかったため難を逃れたようだが、こちらも首脳陣の多くを失って混乱しているようだ。
第二軍団はまだカッシュ港に到着してなかったことが幸いし、被害はなかった。だが、カッシュ港では多くの住民が死んでいる。
「いったい何が……?」
他国が占拠していた各拠点でも同じようなことが起っており、ライカ王国、ベスタ皇国、フォルト国、ザバ王国、デキトム王国の各軍も混乱しているようだ。
「はっ!? ……まさかクラスメイトを召喚するために、人の命を生贄にしたのか……?」
そう考えると、納得がいく。
カトリアス聖王国のヤツらは、これを待っていたんだ!?
「やられた……」
第二軍団は健在だが、第三軍団は四万のうち一万を失い、第四軍団は七万のうち三万を失っている。
他の国もかなりの被害が出ていると思われる。おそらく今後は撤退か、よくて占領地域の維持を行うので精一杯だろう。
総司令官を務めているエーレンフリート様がどう判断するかにもよるが、進軍の判断をするとは思えない。
俺はすぐにシャーミーを呼んだ。
「俺は総司令部にいってくる。ここはシャーミーに任せる」
「え、どういうこと? 呼び出しがあったの?」
「いや、呼び出しはない。だけど、すぐに伝えなければいけない大事が起った」
「大事?」
「第四軍団と第三軍団に少なくない被害が出ている」
「え? 進軍は順調だったはずじゃ?」
「アルバース砦と都市ジュブレーユに何か仕掛けがしてあったようだ。多くの人の命が奪われた」
幸い、お父様やベンたちは被害なく健在だ。被害に遭った人たちには悪いが、お父様たちが無事なのが嬉しい。
「そんな……」
「ここは頼むよ」
「うん。任せておいて」
竜騎士隊で任務についてなかった四騎に飛んでもらい、総司令部へと向かった。
総司令部のそばに設置された竜騎士隊の発着陸場に降りて、すぐに伯父のアレクサンデル様に面会を求めた。
アレクサンデル様は軍務卿のバルツァー伯爵と会議を行っていたが、その場に通された。
「伯父上、軍務卿、お久しぶりです」
「トーマか。元気そうで何よりだ」
「ロックスフォール侯爵、久しいな」
二人にはまだ情報が入っていないようで、悲観的や悲壮感といった雰囲気はない。
「伯父上、軍務卿。非常にマズい事態になりました」
「ん? どういうことだ?」
二人の顔が引き締まった。
「アルバース砦の第四軍団は三万人の将兵を失いました」
「「なっ!?」」
「その三万人の中には、軍団長のブラックライド侯爵と多くの首脳陣が含まれます。現在、第四軍団は混乱しております」
「莫迦な。なぜだ? なぜそのようなことになっている!?」
軍務卿が立ち上がり、厳しい声を発した。
「アルバース砦だけではありません。都市ジュブレーユの第三軍団も一万人を失いました。それに第二軍団は無事でしたが、カッシュ港などで異変が起きています」
「その異変とはなんなのだ!? なぜ一晩でそのようなことになった!?」
「軍務卿、落ちつきなされ」
「これが落ちついていられるか!? この情報が真であれば、第四軍団は今後の進軍に多大なる支障が出ることになる。第三軍団も同じだぞ!?」
興奮するバルツァー伯爵を落ちつかせようとする伯父上だが、バルツァー伯爵の興奮は簡単に収まらなかった。




