第116話 それぞれの想い
2025.5.12
タイトルを変更しました
2025.5.14
失礼しました。更新する内容を間違えていましたので、本日21.30過ぎに修正しました。
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第116話 それぞれの想い
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▽▽▽ Side ウィルヘルム・ジャドーズ・リッテンハイム男爵 ▽▽▽
王位継承について、私は中立派である。それにロブ殿のように武闘派ではない。よって、エーレンフリート第一王子の幕僚となられたバイエルライン公爵と行動を共にしている。
我がジャドーズ領軍は第一軍団の後方、アステアの町の郊外に陣を張った。
「ご当主様。ロックスフォール男爵閣下がお越しにございます」
「お通しせよ」
ロブ殿はフル装備である。ここは戦場に近い。当然の姿だ。
「ウィルヘルム殿。久しぶりですな」
「貴殿も変わりなさそうだ、いや、活き活きしてないか?」
「ハハハ。活き活きはしてないと思うが、気は張っているか。なにせ久しぶりの戦だからな」
「まさかラインハルト様の麾下に加わるとは思ってもいなかったぞ」
「中立派は後方待機だと聞いて迷ったよ。だが、俺の本分は武人だ。後方で待機など性に合わない。だから、ラインハルト様の麾下に加わった」
おそらく陛下の思惑もそこにあるのだろう。
戦功を立てれば、陞爵や領地の加増がある。王位争いをされている三勢力の者だけにその恩恵に与えるのは不公平だ。だからといって、危険性が高い独立部隊などにはなりたくない。だから、三勢力のどれかを選ぶ。
まあ、私のように安全が第一で、戦功は二の次という者もいる。そういうものは、本陣の後方へ回されるのだ。
「しかし、トーマ殿が我らより後方で補給を担当されるとは思ってもいなかったな」
「トーマの勢力は大きい。陛下もそこが気になったのであろう」
「トーマ殿はそれを納得されているのか?」
「納得してなくても、心の折り合いをつけることができる子だ、あの子は」
「信頼しているのだな」
「俺の自慢の息子だからな!」
ロブ殿はトーマ殿の自慢をして自陣に帰っていった。
うちの息子は私に似て至って平凡だ。ロブ殿が羨ましいと思ったことは一度や二度ではない。
しかもトーマ殿は私の養子になっていたかもしれない子だ。私だけではない。あの時、その可能性があった貴族の多くは、ロブ殿の運の強さに嫉妬していることだろう。
「過ぎてしまったことを悔やんでも仕方がない。我らがするべきことはトーマ殿と友好的な関係を築くことだ。それは上手くいっていると言えるだろう」
うちにはトーマ殿と仲のよいタリアがいる。トーマ殿は何度もうちを訪れてくれている。タリアもよくトーマ殿を訪れている。トーマ殿の婚約者である、ノイベルト侯爵家のレーネ嬢とも仲がいいと聞いている。
それに、我が領地はバルド領とも近く、多くの恩恵を受けている。人口も十年前の五割増しになっている。子爵への陞爵も見えているくらいだ。本当にありがたいことだ。
私や息子のような平凡な者は、足るを知るでよいのだ。トーマ殿とのよい関係を心がければ、それでいい。
▽▽▽ Side エーレンフリート第一王子 ▽▽▽
私は第一軍団を率いてサルガール要塞に入った。このサルガール要塞は対カトリアス聖王国の最前線を担うために四十年前に砦が築かれた。それから改修が繰り返し行なわれてきたが、さらに二年前に大がかりな改修を行った。
その頃だったか、私を含む王子王女が国王である父上に集められた。
「私は国王になりたくてなったわけではない」
いきなり何を言い出すかと思った。父上がよき国を作ろうとしていたとは、私だけでなく多くの者が知っている。その父上が国王になりたくなかった? 何を言っておられるのだ?
「お前たちも知っていると思うが、私は第四王子であった。ランクが三人の兄よりも高かったことで国王に推されたのだ」
父上は懐かしむように語り、さらに続けた。
「国王は決して独裁者ではない。お前たちがどう思っておろうと、貴族と民の支持なくして国王たりえないのだ」
その言葉は以前より耳に胼胝ができるほど聞いてきた。父上が貴族と民のための政を心がけていたのはよく知っている。
「王は孤独でもある。腹心と言える者らを多く抱えていても、孤独なのだ」
父上が孤独だと? そんな素振りは見せたことはない。少なくとも私は知らない。
「そのことを踏まえ、私はお前たちに問う」
父上の目が鋭く光った気がする。
「次の王になりたいか?」
その問いに誰も答えない。正直私は国王の座に就きたいと思っていないのだ。私を支持する貴族がおり、母上が私を王にしたい。そう願っていることから、私は王になるための努力をしてきた。
だが、それは王になりたいからではなく、王に祭り上げられる所謂神輿としての私なのだ。
「今すぐ答えを出さずともよい。だが、これだけは言っておく。二年か三年後、そう遠くない頃に我が国はカトリアス聖王国に攻め入る。今、その準備をしているところだ。その時、王になりたい者は軍団を率いよ。そして戦功を立てよ。より大きな戦功を立てた者こそが次の王である」
実績を作った者が次の国王になる。分かりやすく、国内の不満が出にくい。
二年後といえば、ラインハルトが成人する年か。父上はラインハルトを王にしたいのだろうか。
「その際、お前たちの代理を立てることは、許す。人を使うのも王の資質の一つであるからな」
全ての王子王女に機会を与えるということか。
「だが、心せよ。王とは、孤独と虚無の上に立つ者である」
その言葉は私の心に突き刺さっている。私も孤独なのかもしれない。貴族の支持というものは、明日はどうなるか分からぬまさに虚無なのかもしれない。
私はどうすればいいのだと、苦悩の日々を過ごすことになる。それは今も変わっていない。答えなど簡単にでないのだ。
あの時から本格的に三つの勢力が動き出した。
第四王女エリスを支持する者ら、第七王子ラインハルトを支持する者ら、そして第一王子である私を支持する者らだ。
他の王子王女は、結局手を挙げることはなかった。わたしとて兄弟姉妹と争うのは本意ではない。それに先でも触れたが、私は王というものになりたいと思ったことがないのだ。
私は歴史家になりたいのだ。たくさんの書物に囲まれ、研究に没頭する日々を送りたい。だが、立場がそれを許さない。そして、王になることに対し、手を抜くこともできない。それは私を支持する者らを裏切る行為だ。それだけはしてはいけない。だから、私の持てる力を全て出しきるつもりで、この戦いに臨む。




