第115話 ロックスフォール出る!
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第115話 ロックスフォール出る!
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▽▽▽ Side ロブ・アシュード・ロックスフォール男爵 ▽▽▽
アシュード領を流れるライバー川は、リッテンハイム男爵が治めるジャドーズ領のウルム湊のところで二つに分かれる。アクセル領側へ向かうとライバー川だが、バルド領側に向かうとケンジー川になる。
ケンジー川は東へ伸びており、そのさらに先にあるのはカトリアス聖王国だ。
俺はカトリアス聖王国攻めに参陣するため、船でバルド領に入った。俺には出来過ぎた息子のトーマが治める地だ。
バルド領の玄関口であるゲランダー湊は、多くの人で溢れている。これから戦争があると思えないほどの光景だ。
そのゲランダー湊を過ぎると、今度はベルング港が見えてきた。バルド領にある軍港の一つだ。そのベルング港へ入港する。
王国屈指の軍事力を持つ侯爵家の軍港だけあり、警備体制は万全だ。それに巨大な軍船が数隻見える。他にも中型の軍船が多数に小型の軍船は数えきれないほどだ。
「お父様!」
「トーマ!」
ベルング港に降り立つと、息子のトーマが出迎えてくれた。おいおい、侯爵様で使徒様がこんなところにいていいのか。その後ろにはいつもの神殿騎士が護衛として四人ついている。今日はベンとシャーミーはいないようだ。あの二人もトーマの下で重職を担っているからな、忙しいんだろう。
「おい、こんなところで何をしてるんだよ?」
「お父様をお迎えにあがりました」
「おいおい、侯爵様が男爵ごときを出迎えるなんて聞いたことないぞ」
「息子が父を迎えるのは、不自然ではありませんよ」
まったく、この息子は……。
俺はトーマを抱き寄せ、頭をグシャグシャと撫でた。
「ちょっとお父様。いくらなんでもこれは勘弁してください」
「息子の頭を撫でているだけだ。気にするな」
「まったく……」
ブツブツ言うが、そんなこと気にしない。自慢の息子を撫で回して何が悪いのか。
トーマの屋敷で一泊した。昔、ここにはライトスター侯爵家の屋敷が建っていた。今は建て替えられていて、あの時の屋敷の面影はない。
別宅はあの時のままのようだな。今でもトーマと初めて会った日のことを思い出すことがある。あの頃も今もアリューシャ想いのいい息子だ。
「こんなに歓待してくれなくてもいいんだぞ」
「久しぶりにお会いしたのです。出来る限り歓待させていただきます」
豪華な料理に舌鼓を打ち、トーマと楽しく話をする。これから戦争に出かけようという悲壮感はまったく感じない。あえてそうしているのだろう。
「ところで、レーネ嬢とはどうなんだ?」
「普通ですよ。俺がバルド領に入ってからは、手紙のやりとりをしています」
「小まめに手紙を送って、少しでも時間があるなら会いにいくんだぞ。ほったらかしにしていると、捨てられるからな」
「そ、そうなのですか?」
「女性の心を繋ぎとめるためにも、時間を作ることだ。あとプレゼントな」
「そういうものなのですね。勉強になります」
こんな話ができるのも、アリューシャと再婚したからだな。いい息子ができて、本当に嬉しいぜ。
バルド領を出て船でケンジー川を下る。カトリアス聖王国の手前にある、ジュラ港で船を降りた。
俺は王位争いに関して中立を貫いているが、前線を希望していることからラインハルト王子の指揮下に入る。
「お父様、無茶をしないでくださいね、もう若くはないのですから」
「ちょっと待て! 俺はまだ若いぞ!」
「もう三十九ですよね? 立派な中年じゃないですか」
「誰が中年だ!? 俺はいつまでも青年だ!」
「ダニエルさん、父を頼みます。無茶をしそうなら、殴ってでも止めてくださいね」
「はっ! お任せください、トーマ様! それにアリューシャ奥様にもしっかりと手綱を握るように言われておりますので」
この野郎、裏切りやがったな!
ダニエル・ケルツは領軍の指揮官で、俺が生まれた時からのつき合いだ。もう六十近いが、今でも現役として軍を任せている。もう腐れ縁だな。
「ダニエル、いくぞ!」
「はいはい。それではトーマ様、失礼いたします」
「うん。気をつけて。お父様も気をつけてくださいね」
「おう、分かってるって」
俺は部隊を率いてラインハルト王子が布陣しているアレンディートへと進む。アレンディートはクルディア王国とカトリアス聖王国との国境の町だ。その先はカトリアス聖王国になる。
アレンディートへは二日で到着した。すぐにラインハルト王子に面会を求めた。
「よくきてくださいました、ロックスフォール卿。貴方が麾下に加わってくださり、とても心強いです」
「微力ながら最善を尽くします」
トーマの学友ということもあり、ラインハルト王子とは何度かお会いしたことがある。気さくで厭味なところがないよい王子だ。
そのラインハルト王子が指揮するのは、王国軍が二万、諸侯軍が五万、そしてカトリアス聖王国の難民らで組織された軍が四万、合わせて十一万という大軍だ。
以前聞いていた以上に、諸侯軍が多かった。諸侯軍が多かったのは、ラインハルト王子を支持する貴族以外にも、この戦争で武功を立てようと目論む貴族が多く参陣しているからだ。
第一王子のエーレンフリート様や第四王女のエリス様のところは、当初の予想通りの数らしい。
ラインハルト王子のところに貴族が集ったのは、おそらくトーマの影響だろう。ラインハルト王子の学友でかなり仲がいいトーマは、この国で最も影響力がある貴族と言っても過言ではない。そのバックには、神殿がいる。しかもデウロ神殿だけでなく、アシュテント派の神殿もだ。それは極めて大きな勢力だ。
また、難民軍も多い。これもトーマの影響だろう。難民を支援してきたのは、デウロ神殿でありトーマなのだから。
「全軍が集結するのは、二日後になります。それまでゆっくり休んでください」
「はっ。それでは失礼します」




