第114話 カトリアス攻め開始
■■■■■■■■■■
第114話 カトリアス攻め開始
■■■■■■■■■■
▽▽▽ Side タムリン ▽▽▽
とうとうカトリアス聖王国攻めの号令がかかった!
神の名を騙るクズらは、必ず駆逐しなければいけない。神はデウロ神様だけなのだ。使徒様はそう言っておいでだった。
俺はテイムしたワイバーンに肉を与え、鞍をつけて準備を終えた。
「頼むぞ、アイリッシュ」
俺のワイバーンはメスらしいので、アイリッシュという名をつけた。死んだバーサンの名前だ。
「タムリン隊長。皆、配置につきました」
「おう」
神殿騎士になって二年だが、俺はなぜかデウロ神殿神殿騎士団第一竜騎士隊の隊長になってしまった。
使徒様は能力主義と仰っておられたが、俺に隊長としての能力があるとは思えない。それでも使徒様は大丈夫だと仰るのだ。
使徒様がどのような考えで俺を隊長にしたのかは分からないが、その期待には応えたいし、応えなければいけない。
「皆、よく聞け!」
俺の部隊は『竜騎士隊』という部隊名だ。使徒様が名づけてくださった、俺を含めて二十人の部隊だ。十人がテイマーで、十人が魔法使いか弓使いになる。
「憎きカトリアス派を打倒すための戦いが始まる!」
ここにいる者らは、皆俺と同じような境遇だ。カトリアスの神官に何かしらの恨みがある。
「俺たちの家族を虐げ、搾取し、殺したヤツらに鉄槌を喰らわす! 命を惜しむな! デウロ神様は俺たちと共にある! カトリアスに制裁を! デウロ神様に感謝を!」
「「「カトリアスに制裁を! デウロ神様に感謝を!」」」
「出撃!」
「「「応っ!」」」
全員がワイバーンに乗り込む。俺の後ろの複座にも、魔法使いのエリンが乗り込んだ。俺と同じ十七歳の、青い髪の女魔法使いでランクはなんとAだ。俺よりランクが高いエリンを隊長にすればいいと思うが、そうはならなかった。
「シートベルトはいいか?」
「問題なし」
エリンの凛とした声が返ってくる。
「アイリッシュ、離陸だ」
「キャウ」
アイリッシュが羽ばたくと、ふわりと浮き上がった。羽ばたきごとに上昇し、雲はあるが青く晴れた大空へと舞い上がった。
俺たちは輸送部隊と救護隊の護衛が主任務になる。場合によっては物資の輸送もするだろう。直接カトリアスをぶっ飛ばせないのは不満もあるが、その結果としてカトリアスが滅ぶのなら我慢できる。
使徒様は直接手を出さなくてもカトリアスを滅ぼせると仰った。そういう貢献もあるのだと、俺は悟った。
「待っていろよ、今滅ぼしにいくからな」
カトリアスを滅ぼす未来を思い浮かべると、口の端が上がっていることに気づいた。
いかん、いかんな。気を引き締めよう。まだ始まったばかりなのだ。
▽▽▽ Side シャーミー ▽▽▽
昨日、バルド領軍に招集がかかった。とうとうカトリアス聖王国への侵攻作戦が始まる。
バルド領軍は後方支援と聞いている。トーマが前に出ると全部持っていかれるからだと、バイエルライン公爵様が仰っていた。あ、バイエルライン公爵様はトーマの伯父ですから、前公爵様ではないですよ。
私は救護班を率いることになっている。ロックスフォール侯爵家の光魔法と水魔法が使える人たちを率いて、傷病兵の手当をするのが私の仕事。
夏の暑い日、私たちはバルド領を発った。
カトリアス聖王国侵攻作戦は、トーマにとって特別な意味を持つ。あの国はトーマのお母様を攫った。その結果、アリューシャ様は記憶を失った。私には想像もつかない過酷な過去を持つ。
もし私だったらと思うと、とても耐えられないかもしれない。アリューシャ様はとても強い方だ。
バルド領から船で進む。代わり映えのしない風景が続く。ただ、川を下る船の上では、風が気持ちいい。
この川を下っていくと、そのままカトリアス聖王国に入っていく。その前に他の軍と合流することになるわ。
七日後、やっと丘に上がれたわ。なんかふわふわしているわね。
上陸してすぐにトーマは軍議に呼ばれた。私は具合がよくない人たちの看病をしましょう。
数千人もいれば、何人かは具合が悪い人がいるはず。なのに、なんでバルド領軍の兵士は誰もが元気なのよ……。
「ああ、そうだったわ。あの人たちも高レベルだったわね」
レベルが高くなると、体が丈夫になる。バルド領軍の人たちは皆がレベル上げをしていて、多くはレベル二百以上だったわ。
それなら地元の人を治療しましょう。
「病人と怪我人がいたら連れてきてください。動かせないような方がいたら、こちらから赴きますので」
それでも病人と怪我人は集まらなかった。
「デウロ神殿の神官によって治療が行われており、病人と怪我人はいません!」
「そ、そうなの……」
やることがない。
というか、いくらなんでも一人も病人と怪我人がいないなんてありえないわ! 神官たちががんばっているのはわかるけど、非常識よ!
これもトーマのおかげね。トーマは回復魔法の可能性を広げてくれた。
私たちは怪我や病気の人を、漠然と治ってほしいと願いながら魔法を行使していた。でも、トーマは言ったわ。同じ回復するにしても、病気や怪我の知識を持ち、どのように治すべきか明確なイメージを持つことで回復魔法の効果は飛躍的に高くなるのだと。
私たちはトーマの言葉を信じ、人間の身体の構造や仕組みを学んだ。するとどうだろうか、これまでなら治すことができないような病気でさえ治ってしまったのだ。
そのことが国中のデウロ神殿に伝わると、バルド領のデウロ神殿に多くの神官が学びにやってきた。ダルデール卿が隠居されたのも、そういった人たちに人体の構造や仕組みを教えるためだった。なぜか前教皇様までそこで教えていたけど、お二人のおかげでデウロ神殿の神官の回復魔法の腕は明らかに底上げされたわ。
ダルデール卿と前教皇様は、回復魔法用の指南書を二人で作られている。トーマは『解体新書』とか言っていたけど、その意味は教えてくれなかった。
神官たちが張り切るのは、回復魔法の効果が上がっただけじゃないのよね。デウロ神殿の神官が民に尽くせば尽くすほど、ランクが上がると信じられているの。
私も元はランクCだった。それが今ではランクSになっている。私の場合はトーマのせいだと思うけど、神官たちのランクが上がっているのも事実なの。本当に夢のような話だわ。




