第113話 航空戦力
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第113話 航空戦力
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アスランダ山脈の裾野で休憩を取った後、俺たちは山へと分け入った。
上空にワイバーンが飛んでいるのが見える。こちらを警戒しているのか、忙しない鳴き声が聞こえてくる。
ワイバーンの巣は中腹にあると聞いている。緩やかな坂を上り切り立った岩を登ると、平坦な場所に出た。そこで休憩を取ろうと思ったが、ワイバーンの襲撃だ。
「殺すなよ! 首に縄をかけ、引きずり下ろせ!」
「「「応!」」」
「こちらも負けずにワイバーンを捕獲するのです!」
「「「はっ!」」」
ベンとパーシナ隊長の指示で皆が動き、襲い来るワイバーンを縄で絡め取っていく。
ワイバーンも強いが、うちの屈強な兵士たちはそれ以上だ。
「オーッ」
「エスッ」
「オーッ」
「エスッ」
掛け声でタイミングを計り、ワイバーンを地上へと引きずり下ろす。二時間もしないうちに五十体のワイバーンが捕縛できた。
ワイバーンは体長八から十メートルほどで、プテラノドンのような姿をしている。
「テイマーはワイバーンと契約を」
俺の眷属にするだけでなく、配下のテイマーにワイバーンと契約させる。
魔法を使って空を飛ぶ人はいない。俺が魔法を使えるのなら空を飛んでみたいと思うが、この世界の魔法使いはそういう発想はないようだ。だから、ワイバーンのような航空戦力は貴重な戦力になると思うんだ。
ワイバーンは五百キログラム程度なら軽々と持ち上げて飛ぶことができる。大きな個体になれば、一トンを持って飛べるだろう。
テイマーと魔法使い、または遠隔攻撃ができる人を乗せて戦場に投入すれば、優位な上空から攻撃ができるはずだ。
「よっしゃー! テイム完了です!」
「おう、よくやった!」
ベンの配下のテイマーがワイバーンをテイムした。テイマーはあまり多くないが、俺の配下で百人ほどがいる。これまでにグリフォンとヒポグリフをテイムしたテイマーが七十人、残りの三十人を全員連れてきている。
神殿騎士のほうは、テイマーは十人しかいない。
四十人が契約を終えたら、残りのワイバーンは俺が眷属にする。テイマーは契約できる数に限りがあるが、俺の眷属化に数の上限はない。
今回、俺は十体のワイバーンを眷属化した。これまでにグリフォン二十体とヒポグリフ三十体を眷属にしているから、今回のワイバーン十体を含めて六十体の空を飛べる眷属ができた。
ワイバーンを眷属化したのだから、せっかくなので飛んで帰ることにした。
変換でワイバーン用の鞍を作る。二人乗り用の鞍だ。テイマーがワイバーンを操り、もう一人は魔法や矢弓を扱える者を乗せる。そうすれば攻撃もできる。
「シートベルトはしたか?」
「大丈夫よ」
俺は一番大きなワイバーンに乗り込んだ。複座にはシャーミーが座る。
「上空は寒いから、防寒着も着込んだな?」
「ええ、おかげでブクブクよ」
「ハハハ。上空で凍えるよりはいいだろ」
「そうね。でも、最初はゆっくりでお願いね」
「任せてくれ」
シャーミーは初めての飛行を前に緊張しているようだ。だけど、空の散歩は気持ちがいいぞ。寒いけど。
「ベン。下のことは頼んだぞ」
「俺もそれに乗りたかったぜ」
「お前は皆をまとめて帰る責任者だ。諦めろ」
「ちっ」
ベンもワイバーンに乗りたいと駄々をこねていた。それをなだめすかしたが、まだ文句たらたらだ。
「よし、ワイバーン隊、出発だ!」
「「「応!」」」
ワイバーンが二度、三度と羽ばたく。砂煙を巻き上げ、上昇していく。
「うわー!」
ドンドン小さくなっていくベンらの姿に、シャーミーが感嘆の声を漏らす。
アスランダ山脈を見下ろすくらいの高度へと至るにかかった時間は十数秒だ。
「きれー」
山の山頂近くにエメラルド色のカルデラ湖があった。なかなかの絶景だと、俺も思う。
▽▽▽ Side タムリン ▽▽▽
眼下に見える緑色の湖は、まるで翡翠のような色をしていた。こんな光景を見ると、故郷を思い出す。
俺の故郷には翡翠鉱山があった。俺のオヤジは翡翠の加工職人だったが、翡翠の産出量がかなり減っていて国が指定する量を出荷できなかった。
その責任が俺のオヤジにあると言われ、神官から鞭を打たれたのだ。その怪我が元でオヤジは死んでしまった。神官は「サボるから神罰が下った」と言った。
ふざけるなと思った。神官が鞭打ちしなかったら、オヤジは生きていたんだ。なのに、何が神罰だ!? と俺は神官を殴ってやろうと思った。
だけど、オヤジが死んで俺まで神官に捕まったら、誰がオフクロと幼い弟妹の面倒を見るのか。俺は神官を殴ることができなかった。
俺たち家族は神官に家を奪われ、奴隷のような暮らしを余儀なくされた。
厳しい生活を送っていると、オフクロが倒れた。神官は倒れたオフクロをなじった。俺たち家族はさらに厳しい生活を送ることになったのだ。
そんなある日、一人の神官が現れた。その神官は今にも死にそうなオフクロを治療してくれた。それだけじゃなく、俺たちに食料を恵んでくれたのだ。
聞けば、その人はデウロ神殿の神官だった。俺たちが暮らすカトリアス聖王国では、カトリアス派以外の宗教は認められていない。当然ながら、カトリアス派の神官はデウロ神殿の神官を捕縛しようとした。その時だった、あの神官に雷が落ちたのだ。俺たちは呆然とその光景を見ていた。
「神の名を騙り、私腹を肥やす者には天罰が下るものです」
デウロ神殿の神官は厳しい口調で、雷に撃たれた神官を批判した。
その後、俺たち家族はその神官様の勧めで、クルディア王国へとやってきた。最初は難民キャンプと言われる場所で過ごした。そこでは毎日腹いっぱい食え、病気や怪我をしたら無料で治療までしてくれた。
それもこれもデウロ神殿だからだと神官様は言っていた。
なぜもっと早くきてくれなかったのか。もっと早くきてくれれば、オヤジは死なずに済んだ。神官様にそう訴えたことがある。
「痛恨の極みです。全て私の不徳の致すところです。すみません。私を憎みたければ憎みなさい。ですが、前を向いて生きる、そう約束してくれませんか? 家族のためにも、お願いです」
理不尽なことを言っていた自覚はある。それなのに、神官様は涙を流して「すまない」と言ってくれた。
この神官様は本当に俺たちのことを思ってくれているんだと感じた。
「俺も神官様みたいになれるかな?」
「全てはデウロ神様のご意志によるもの。祈りなさい」
俺は神官様の言葉を信じて祈った。時間がある時は、とにかく祈った。そしたら、身体が軽くなった気がした。ステータスを確認してみると、ランクが上がっていたのだ。
俺は元々ランクDの畜産家だった。それがランクBになっていたのだ。しかも加護まで変わってモンスターテイマーになっていた。
神官様にそう言うと、にっこり微笑まれた。
「デウロ神様はタムリンのことを見ているのですよ」
そんなある日だった。デウロ神様の使徒様がテイマーを募集していると神官様から聞いた。
「俺でも役に立てるのかな?」
「使徒様のために働きたいという気持ちがあれば大丈夫です」
「それなら働きます! 俺を使徒様のところに連れていってください!」
「分かりました。では、そのように手配しますね」
俺はオフクロたち家族と共に、バルド領のデウロ神殿へとやってきた。ここは使徒様が生まれた場所だという。
領民たちは皆笑顔だ。痩せ細り、着の身着のままの子供はいない。親がいない子は、デウロ神殿の施設で養育されているんだとか。
オフクロと弟妹もその施設で働くことになった。神官様の配慮で、家族が分かれて暮らすことのないようにしてくれたのだ。
俺は神殿騎士団に入団した。最初は訓練とレベル上げでいっぱいいっぱいの日々だった。デウロ神殿の神殿騎士は、レベル百までが新兵扱いになる。外で活動するには、レベル百を超えないといけない。
俺は必死でレベルを上げた。そしてレベル二百を超えた。使徒様は「よくがんばったね」と声をかけてくださった。
そして、俺はワイバーンをテイムするために、使徒様と共にアスランダ山脈へと向かったのだ。
「思えば遠くにきたものだ……」
いつ死ぬかも分からなかった俺が、今ではワイバーンを従える神殿騎士だ。オフクロも弟妹たちも神殿で楽しく暮らしている。俺はこの生活を守るため、同じような境遇の人を増やさないために、必ずカトリアス聖王国を亡ぼすと誓った。




