第111話 ベンの結婚
■■■■■■■■■■
第111話 ベンの結婚
■■■■■■■■■■
年が変わり、俺は十六歳になった。そして、ベンとクラウディア嬢の結婚式が、バルド領のデウロ神殿で行われる。
デウロ神殿で式を挙げるカップルは多い。特にバルド領の民の多くは、ここで将来を誓い合っているのだ。
元々平民には結婚式という風習はなかった。神殿に結婚したと報告すれば、それでおしまいだったのだ。
俺がたまたま神殿にいた時に、結婚の報告にきた民がいた。その際に俺がささやかな結婚式を挙げるように勧めたら、今では皆が結婚式をするようになったのだ。
元々貴族は結婚式をしていたので、それが平民用に簡素化されて簡単にできるようになっただけなんだけど、意外と好評だ。
真っ白なタキシードを着たベンは、緊張で顔が引きつっている。
「いつもの調子はどうした、ベン」
「う、うるさいな、俺はいつも通りだぞ」
「そんな真っ青な顔をして、いつも通りなのか」
思わず笑ってしまったら、ベンが睨んできた。
「フレイムバルク様。そろそろお時間になります。式場までご案内いたします」
神官が呼びにきてくれた。彼についていくと、通路で待つクラウディア嬢がいた。彼女は純白のドレスに身を包んでいて、とても清楚で美しく見えた。
「バルツァー伯爵が珍しく緊張しているぞ」
クラウディア嬢の隣に立つバルツァー伯爵が、カチコチになっているので、ベンに耳打ちをするとベンもカチコチだった。
似た者同士で気が合うのだろう、この二人は殴り合った以降結構頻繁に酒を飲み交わしたり訓練をしているらしい。
「ボーマンさんまでカチコチかよ……」
まるで出来の悪いロボットのように歩くボーマンさんがやってきた。あまりの緊張で、長男のガンズさんと三男のバッケンに両手を引かれているよ。
「ベン、クラウディア嬢。おめでとう。今日は二人の門出の日だけど、式を楽しんでいってくれ」
「お、おう……」
「トーマ様。ありがとうございます」
あとは神官に任せ、俺は式場に入る。
式場では多くの来賓がすでに座っており、二人の入場を待っていた。
最前列の長椅子で、お母さんとジークヴァルトの間に座る。エルゼは大人しくお母さんに抱っこされている。
「それでは新郎新婦のご入場です。盛大な拍手で迎えてあげてください」
大司教がにこやかに拍手を促すと、二人とその両親たちが入場してきた。
最初にベンとその両親、続いてクラウディア嬢とその両親がゆっくりと歩いてくる。
正面にはデウロ様の像があり、その横には神光石が神々しい光りを放っている。
今日は一般の参拝者は午後から受け入れるように調整し、式は午前中に行われている。
俺たちが座る最前列のところで、ベンが振り返る。そこで両親は右側に移動して、新婦とその両親が並ぶのを待つ。
クラウディア嬢とベンが並び、バルツァー伯爵夫妻が左側に移動する。ここからは二人だけで前に進み出て、親は長椅子に座ってもらう。
ボーマンさんが号泣している。その向こうでバルツァー伯爵も号泣だ。共に奥さんが夫の号泣に引いているよ。
「これよりベン・フレイムバルクとクラウディア・バルツァーの結婚の儀を執り行います。新郎新婦は向かい合ってください」
レースで顔を隠したクラウディア嬢だが、その頬が朱に染まっているのがよく分かる。
「デウロ様の御前にて、これより二人は夫婦となります。お互いに思いやりと誠意を持ち、死が二人を分かつ時まで仲睦まじく過ごすことを誓うか?」
「「誓います」」
「誓いの口づけを」
ベンがクラウディア嬢のレースを上げるが、手が震えていてぎこちない。
それでもベンはなんとかキスをした。彼らしい無骨なキスだが、クラウディア嬢は嫌ではないようだ。
「我らが神デウロ様! この若き二人にご加護を!」
「「「ご加護を!」」」
参列者が合唱すると神光石が光り輝き、まるで二人に加護を与えているかのようだ。
「なんて幻想的な光景なのかしら」
お母さんがうっとりとしている。できればお母さんにも結婚式を挙げていただきたかった。あんなクズの妾にされ、不遇の時を過ごしたことなど忘れてほしい。
ベンとクラウディア嬢の結婚式は恙なく終わった。二人は王都のうちの屋敷の敷地内で、新居を構えて仲睦まじく暮らしている。
そんな中、ラインハルト君の結婚式も厳かに執り行われた。ラインハルト君の式は王城で行われたが、そこにアシュテント派とデウロ神殿から派遣された大司教が式を執り行うことになった
一応、アシュテント派はこの国の国教だから、王子の結婚式で存在感を示さないわけにはいかないのだ。
俺も侯爵として出席をしたが、デウロ神殿の結婚式とは違って格式ばった式だった。
昔ながらの式は朝から晩まで行われ、参列者のほうが疲れるよ。すごく肩が凝ったことだけが印象に残っている。
俺とレーネ嬢の時はデウロ神殿以外の選択肢はないので、式自体は30分もかからない。至ってシンプルなものだ。




