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第107話 戦の足音

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 第107話 戦の足音

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 国王より何度か使者がきたが、いずれもお爺様が対応した。王妃とお爺様の間で、国王に危機感を持たすという話でまとまっているからだ。

 国王なら自分の体調をしっかりと気にしろ。ということだ。

 学園でラインハルト君に会うと、笑っていた。


「父上にも困ったものだけど、王妃様からもかなりお叱りを受けていると聞いている。そろそろ助けてやってくれないかな」

「王妃様から許可が下りないと、難しいかな」


 王妃は海千山千の貴族たちを相手に、長年その座に君臨してきた。俺なんかじゃ睨まれただけで縮み上がってしまうくらい怖い人だ。

 ただ、日頃は気のよいオバサンなので、憎めないんだよね。


「仕方がないか。父上にはそう言っておくよ」

「これに懲りたら、今度は酒を控えましょうと言っておいて」

「ハハハ。分かったよ」


 ラインハルト君は爽やかに去っていった。俺もあのように爽やかな笑みを浮かべることができるのかな? ……無理だな。頬が引きつりそうだ。


「何やってんだ?」


 ベンが変なものを見たような目で見てくる。


「なんでもない」


 ベンは文字と算術を覚えるのに苦労したが、今ではスラスラと文字を書くようになった。おかげで俺の護衛に復帰している。





 お爺様とアレリア・メシナ枢機卿が集まった。メシナ卿は四十二歳の女性で、ダルデール卿の後任として俺と神殿の調整役をしている。元神殿騎士だったらしく、今でも茶髪を動きやすく切り揃え、体を鍛えていると分かるスレンダーな体形をした人だ。

 もちろん、メシナ卿もデウロ信徒である。これ大事だから、テストに出るぞー。


「カトリアス聖王国はもう限界のようだ」


 お爺様がそう口火を切った。


「飢餓による暴動がいたるところで起こり、カトリアス聖王国の軍が何度も鎮圧を行っておる。本当に愚かなことよ。ヤツらは自ら国力を下げておるわ」


 お爺様は淡々と語った。これが三総大主教が落ちぶれたとか、軍が壊滅したとかなら楽しそうに語ることだろう。でも、今回は飢餓によって民が苦しんでいるため、そういった雰囲気はない。

 その飢餓は、周辺国が経済封鎖したことで起こっているが、そのきっかけを作ったのはカトリアス聖王国のほうだ。


 この数年でカトリアス聖王国からの難民が百万人を超えている。さすがにそれだけの難民をバルド領だけで受け入れることは厳しいが、ゴリゴリのカトリアス教徒でなければ無理してでも受け入れている。おかげで、バルド領の人口はこの王都よりも多くなってしまった。


 カトリアス教徒の難民は、一度東部の難民区に収容している。そこで改宗できたら、受け入れてくれるところに移動させているのだ。その際にどういった職につきたいか希望を聞いて、農家を希望した人は開拓地へ送っている。その支援はデウロ神殿が行っており、その物資を出しているのは俺だ。

 俺が変換で食料を創り、それをデウロ神殿を通して支援という形にしている。そして、開拓地に小さな神殿を建て、ニルグニード教のカトリアス派でもアシュテント派でもなく、デウロ教の布教を行っている。バルド領に受け入れた人だけじゃなく、そうやって地道に信徒を増やしているのだ。


「元カトリアス聖王国民の軍も着々と準備しておる。あの者らには、軍功を立てたらカトリアス聖王国だった地に土地を与えると約束しておるのだ」


 百万の難民からおよそ五万の軍が編成できた。もちろん、改宗済みだ。その五万人を食わせているのも、デウロ神殿(俺)である。

 彼らはデウロ様に感謝しながら、自分たちが生まれ育った土地を攻める。そして軍功があれば貴族や準貴族としての地位を得て土地を得ることができる。

 準貴族というのは、カトリアス聖王国攻めが決まってからできた身分になる。国や貴族家に仕える騎士や兵士、文官などがこれに相当する。まあ、今までもあったようなものだが、それを正式に制度にしたというわけだ。

 準貴族は平民の上に揃爵せんしゃく、さらに上に持爵じしゃくがあり、その上が下級貴族の准爵になる。


「カトリアス聖王国内にも協力者を作っています。聖都バニックにもそれなりの数が入っております」


 メシナ卿はデウロ神殿の神官でもある。そのデウロ神殿は、ニルグニードのような偽神クズたちを祀る神殿から独立している。

 最近は神殿と言えば、デウロ神殿のことを指すくらいになった。だから、今まで神殿と言っていたのを、ニルグニード神殿と呼ぶことが多くなっている。いい感じで切り替えが行われている。俺はニルグニード教を消滅させる意気込みを心に秘め、デウロ教の布教を進めている。


 現在、デウロ神殿はこの国を中心に、周辺国にも勢力を拡大している。

 ニルグニード神殿だった神殿が、デウロ神殿になるということもある。その際は、ニルグニードたちの像は、神殿の倉庫にしまい込んでいる。ここでニルグニードたちの像を破壊すると反感を買うから、そこまではしてない。が、こっそり回収している。そんなものは後世に残すべきじゃないんだ。


 そして国内外のデウロ信徒は、バルド領のデウロ神殿詣でをするのが一つのステータスになっているようだ。

 まあ、デウロ信徒がデウロ神殿で神光石に祈れば、伝染病に罹らないメリットがあるからね。『デウロ神殿はいいとこ、一度はおいで』というキャッチコピーで信徒を集めている。


「来年、攻め入るというのは間違いないのですか?」

「ああ、他の国々とも密約ができているし、軍部や主だった貴族もその予定で準備を進めている」

「久しくなかった大戦おおいくさですから、神殿(デウロ神殿)としてもしっかりと後方支援できるように、十分に準備をしております」


 神殿は直接戦には介入しないが、その後方支援を行うことになっている。主な支援として、食料の供給と怪我人の治療がある。

 デウロ神殿では、デウロ様に祈ることでランクが上昇する奇跡が起きている。これは、俺がしているのではなく、敬虔な信徒に現れている奇跡だ。

 ランクFだった人が、ランクDに二ランクもアップした実績がすでにある。そしてランクアップすると、加護がよくなるのだが、その半数くらいが魔法使い系になっている。

 光と水属性の魔法が使えると、回復魔法が使えるようになる。水属性の場合は、農業で水の苦労がなくなるメリットがあり人気だ。

 だからといって、邪な心で祈ってもデウロ様は応えてはくれないけどね。



ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


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