第105話 夏だ! 食いまくれ! 泳ぎ倒れろ!
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第105話 夏だ! 食いまくれ! 泳ぎ倒れろ!
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皆の川遊び……じゃなかった水泳の練習を見ながら、俺は各串を焼いている。
「トーマ様。食材を焼くだけでしたら私どもでもできますので、泳いでこられてはいかがでしょうか」
「ありがとう、ララ。でも、これはずっとやってみたかったんだ。俺の我が儘を許してね」
「では、お手伝いをいたします」
「うん。頼むよ」
使用人や護衛の兵士を入れると、百人以上になる。それら全員分を焼くのは俺一人では大変だ。使用人たちが手伝ってくれると、助かる。
「よし、焼けたぞ。ラインハルト君たちを呼んでくれるかな」
騎士の一人に頼んで、皆を呼んできてもらう。
六人はかなり疲れているようで、ラインハルト君は激しい息遣いをしている。
「皆、水に入って冷えた体を温めてくれ」
焚火の前に六人を座らせ、温かいスープを配る。
「さあ、飲んで」
「丁度寒かったのです、いただきますわ」
肩からタオルを羽織り、下半身を隠すようにもタオルを置いているレーネ嬢がスープに口をつけた。
「美味しいですわ!」
皆に配ったのは、コンソメスープだ。野菜と肉、それにキノコ類を細かく切って入れている。
コンソメも変換で創った。
「温まるよ。ふー」ラインハルト
「優しい味ですわ」クラウディア
「ちょっと寒かったから、本当に温まります」デボラ
「おかわり!」ダニエル
「初めて飲むスープだけど、美味しいね」ブルーノ
どうやら皆に気に入ってもらえたようだ。
今度はバーベキューの大本命だ! さあ、肉を食いたまえ!
「「「「「「美味しい!」」」」」」
そうだろ、そうだろ。ミディアムレアの焼き加減もいいと思うよ。
それにこのタレ! 創った俺もビックリするほどの美味しさだよ!
マグロも野菜もキノコも全部美味しい。自然の中で友達と食べる食事がこんなに美味しいとは思ってもみなかったよ。
「トーマ様。この赤い肉はなんですの?」
「それはマグロの赤身ですよ、レーネ嬢」
「マグロといいますと、以前仰っていた海の魚ですか?」
「はい。今回は赤身を使っていますが、脂が乗った中トロや大トロも美味しいと思いますよ」
「いつか食べてみたいですわ」
「機会があったら、ご馳走しますよ」
「まあ、嬉しいですわ!」
レーネ嬢は食いしん坊だね、フフフ。
「いやー、これは美味いですなー」
パルトクール男爵も美味しいと次から次へと串を食べている。
おすそ分けしたけど、本当によく食べるな。まあ、食材はたくさんあるから構わないけど。
「トーマ、お代わり!」
ベンもパルトクール男爵に負けずと食べている。この二人、気が合いそうだ。
でも、美味しいと言ってたくさん食べてくれるのは嬉しい。不味いと言われるより数百倍はいい。
食後は少し休憩して俺も泳ぐことにした。本来の目的だ。
まずはクロール。体の切れがいい。まるで魚になったように水の中を進む。
次は平泳ぎ。カエルのようにスイスイと気持ちよく泳ぐ。
次はバタフライ。豪快に上半身を水上に出し、力強く水をかく。
次は背泳ぎ。雲一つない真っ青な空を見つつ泳ぐのは気分がいい。
最後は潜水だ。流れが緩やかで泳ぎやすい川だ。川の底は砂と石になっている。水の中には魚も多い。それだけ綺麗な水なのが分かる。
そんな川底で何かが光った。俺はそれを掴み水面に顔を出した。
「これは……水晶?」
再び川の中に顔を入れて底を見てみると、あちらこちらで光を反射している。
この川の上流に水晶の鉱床があるようだ。
俺が川から上がると、皆が見ていた。人の泳ぎを見るのもいい練習になるかもしれないけど、泳ぎなよ。せっかくの川だよ。
「トーマ君はすごく泳ぎが上手いね」
「そうですか? こんなものでしょ?」
ラインハルト君は初めて泳いだようで苦労していたけど、慣れてしまえばこんなものだと思う。
「トーマ様はまるで人魚のように泳いでおりましたわ」
「ええ、本当に人魚と間違えるところでした」
レーネ嬢とデボラ嬢に褒められてしまった。しかし、人魚はないよね。さすがに人魚より泳ぎは劣るよ。
「パルトクール男爵、これを」
川底で拾った水晶を差し出す。
「これは……っ!?」
パルトクール男爵は最初これが何か分からなかったようだが、これが水晶だと思い至ったようだ。
「これは水晶です。川底に落ちていました」
透明度の高い水晶は、高価な宝石だ。
「こんなものが……」
パルトクール男爵は走り出していきなり川に飛び込んだ。
「アップッ、アップッ、泳げないのを忘れていた!」
「「「………」」」
何をしているのか……。
水軍の兵士がパルトクール男爵を引き上げてくれた。
そこ、普通に立てる場所だからね。兵士たちも呆れていた。
「面目ない……ですが、本当に水晶がいくつも落ちていました!」
パルトクール男爵は両手に一個ずつ水晶を持っていた。溺れながらも拾ったようだ。欲深いというか、なんというか。
「ロックスフォール侯爵閣下、なんとお礼を言っていいのか。本当に感謝しております。このお礼はいずれ、必ずさせていただきます」
パルトクール男爵の去っていた後は、まさに台風一過だった。
晴れ渡った空の下、俺たちは再び水泳を楽しんだ。
ラインハルト君はなんとか泳げるようになった。その代わり、もう動けないらしい。
ほかの皆も泳ぎが向上したようだ。特にレーネ嬢は目覚ましい進歩を見せた。
最初は平泳ぎに似た感じの泳ぎだったが、クロールと平泳ぎをマスターしてしまった。さすがにバタフライまでは覚えてないけど、その泳ぐ優雅な姿は俺よりも人魚のようだ。
「泳ぐのは体への負荷が少なく身体能力を上げられるからいいんだよね」
「でも……王都に……は……泳げる……場所……がない……から……残念だよ」
寝ころんでいるラインハルト君が息切れしながら言った。
「そうでもないと思うよ。プールを造ったらいんだ」
貴族なんだから、屋敷にプールがあってもいいと思う。池のある屋敷も多いしね。
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