第104話 夏だ! 川だ! バーベキューだ!(一)
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第104話 夏だ! 川だ! バーベキューだ!(一)
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十五歳の夏がやってきた。武術大会と魔法大会が行われ、俺は魔法大会で優勝しエキシビションマッチでもラインハルト君に勝った。
これで五年間誰にも負けなかったお父様に並んだぞ。フフフ。
ラインハルト君もレベル上げに励んで学生ながら三百四十という高レベルになっている。それでもまだ俺との差は大きく、残念な結果になった。
「また負けてしまったか。トーマ君は本当に強いな」
「ラインハルト君の努力を見ているからね。追いつかれないように必死だよ」
「そう言ってくれると、僕も努力した甲斐があったというものだよ」
相変わらずの爽やかイケメンだな。
なんの脈絡もないが、この爽やかさを目にすると海にいきたくなった。
夏だし海に遊びにいってもいいと思うんだ。
「泳ぎにいくか」
ぼそっと呟いたその言葉に反応を見せたラインハルト君がニカッと白い歯を見せて笑った。
「泳ぎにいくってことは、武術の鍛錬だね。僕も連れていってくれないかな」
いや、鍛錬ではないんだが……。むしろその逆で遊びにいくんだよ。
「あら、鍛錬ですの? わたくしも連れていってくださいな」
「おう、俺もいくぜ!」
レーネ嬢とダニエル君まで乗っかってきた。
仕方がない。俺は遊ぶが、皆には鍛錬ということで。
海は遠いから日帰りの川遊びになるけどね。夏はライバー川で行水している人もいるから、大丈夫だろう。
そんなわけでやってきました、ライバー川の支流!
王都からやや上流へいくと、ライバー川の支流がある。その川はあまり深くないし、流れも速くないため、川遊びにもってこいなのだ。それに、船があまり通らないのがいい。
さらに! 清流という言葉がぴったりな綺麗な川なのだ。
「綺麗な川ですわ」
「エメラルドグリーンだね」
「王都の近くにこんな川があるなんて、初めて知ったわ」
ラインハルト君がいくというと、クラウディア嬢、ブルーノ君、デボラ嬢もついてくると言いだした。結局、いつものメンバーだ。
そこで俺は全員分のあるものを用意した。
「ジャーン! これ、どうかな?」
水着ドーンッ!
「鎧を着て泳ぐんじゃないの?」
「ラインハルト君は泳いだことあるのかな?」
「ないけど?」
水軍や海軍など、水の上で活動する軍隊はあるが、この国では水泳は一般的でない。学園でも水泳の授業はないからね。
「ラインハルト君は水を甘く見ている!」
「え?」
「鎧なんて着て泳いだら、溺れるからね!」
「そ、そうなの?」
服を着たままでも溺れる可能性は高い。それなのに、鎧のような重りを体につけて泳ぐなんてあり得ないよ。
「死にたくなければ、まずは軽装で泳げるようになることだよ」
「それでその恰好なんだね。分かったよ、僕もそれを穿かせてもらうよ」
川のそばに小屋を変換で創ってあげる。野郎どもはどーでもいいが、女の子たちはちゃんとしてあげないとね。ちゃんとシャワーとトイレ、着替え用のスペースを備えているぞ。
ほら、着替えておいで。ついでにこれを塗ってくるんだよ。
「これはなんですの?」
「それは日焼け止めだよ。肌を焼かないために、これを塗るんだ」
「そんな便利なものがあるのですか!?」
「かなり日焼けが軽減できるし、べとつきもないからいいものだと思うよ」
「これ、どこで手に入るのですか!?」
「これは俺が作ったものだから」
「トーマ様!」
「は、はい?」
「わたくしに定期的に売っていただけないでしょうか!」
「あ、はい」
すごい勢いで食いついてきたのは、レーネ嬢だった。彼女は教養一科だけど、騎士科の生徒にも負けない剣の腕がある。屋外で剣の稽古をするのは、日焼けがつきものだから切実な問題なのだろう。
日焼け止めもスライムゲルが素材に使われている。本当にスライムゲルは万能素材だよ。
俺の変換がなくても作れることから、これも産業化できると思う。女性陣には売れるはずなんだよね。
男たちは侍女や執事による人の壁がつくられて、着替えた。
女性陣はというと、小屋から顔だけ覗かせてくる。
「こ、これで本当に泳ぐのですか……?」
デボラ嬢がおずおずと聞いてくる。
「軽装は水泳の基本だよ?」
「本当……にですか?」
今度はレーネ嬢が顔だけ出した。
「服に限らず、布は水を吸うと重くなります。しかも水の中で服は動きを阻害するものになります。ですから、できるかぎりスッキリしたものがいいのです」
「そうなのですか……?」
今度はレーネ嬢が顔を出した。彼女はスレンダーだけど、出るところはしっかり出ている。綺麗だと素直に見入ってしまう。
「トーマ様?」
「あ、うん。とても似合ってますよ、レーネ嬢」
白を基調にしたワンピース型で腰にパレオを巻いているレーネ嬢は、美の女神女神と間違えるほどだ。
「べ、ベン様……」
今度はクラウディア嬢が顔だけ出して、ベンを見た。
そのベンはしっかり水着に着替えている。護衛はどうしたと、言うつもりはない。
「おう、なんだ?」
「に、似合いますでしょうか?」
「っ!?」
クラウディア嬢が水着姿を見せると、ベンが止まった。
あ、鼻血を出してるよ……。
クラウディア嬢たちはワンピースにヒラヒラがついている水着にしている。
これでもかなり自重したと思うんだよ。さすがにハイレグやビキニはね。
それでもこの世界の人には刺激が強かったようだ。
「ベン様!?」
「おい、ベン。起きろ」
ベンの頬をペチペチ叩くと、ベンは何度か瞬きして息をしだした。
「トーマ君。彼女たちが着ているのは……?」
「あれは女性用の水着だよ、ラインハルト君」
「そう、なの……」
皆が女性陣の姿に目がいく中、俺はバーベキューの用意を始めた。俺も彼女たちの水着姿が気にならないわけではないが、見てしまうと本当に見入ってしまうのだ。特にレーネ嬢は綺麗すぎて、眩しいくらいだ。
「それは何をしているのかな?」
「これはバーベキューだよ。昼食の準備だね」
「そんなことは使用人に任せたらいいのに」
「それじゃあ、意味がないんだ!」
俺は強く主張した。
前世でバーベキューは憧れだった。一度もやらずしまいでこの世界に転生してしまった。心残りの一つである。
だから、ここでバーベキューをしっかりやって、思い出を作りたいんだよ。
「そ、そうなの? 手伝うよ」
「いや、ラインハルト君はしっかり泳ぎの練習をしてきて」
「トーマ君は泳ぎの練習をしないの?」
「俺は泳げるから後でいいよ」
「そうなんだ。それじゃ、練習してくるよ」
水軍の人が練習を見てくれるから、皆は大丈夫だ。俺はバーベキューに入魂する。
まずは肉串だ。色々考えたけど、以前俺の侯爵叙爵パーティーで出したA四ランクの黒毛和牛サーロインとヘレ肉を交互に刺したものを火にかける。
黒毛和牛、黒毛豚、マグロの赤身も串に刺して焼く。野菜も大事だ。トウモロコシと玉ねぎ、ピーマン、そして野菜ではないけど椎茸を刺して焼く。
そして極めつけはタレだ! 俺は食べたことないが、想像して変換してみた。多分各串に合う美味しいタレになっていると思う。
そんな場所に馬に乗った人物が現れた。三十歳くらいの大柄の人物だ。
騎士たちが警戒した。
「遅くなって申しわけございません。某、この地を治めるレオン・タルシュ・パルトクール、爵位は男爵にございます」
一応、ラインハルト君がいるから色々根回しをしてある。当然ながら、この地の領主には遊びにいくから……ではなく、水泳の訓練にいくからと連絡した。
でもね、呼んでないから。しかも食事前のいい時にくるね。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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