第101話 デウロ神殿
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第101話 デウロ神殿
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船でアクセル領に入った俺たちは、お爺様とお婆様にしばしの別れを告げ、アシュード領へと向かった。
およそ一年ぶりのアシュード領は、目を見張るような発展を遂げていた。
このアシュード湊はライバー川とその支流の川が合流する辺りに造られているため、川幅はそれなりにある。
ライバー川の湊の多くは、そういった支流と合流する辺りにあるのが特徴かな。そういった支流の先にある領地からも船が集まってくることが多いのだ。
湊には多くの船が係留され、馬王、アッフェルポップ、薬膳酒、集光ランプなどが積み込まれていく。
そして、積み込みの量だけ、荷下ろしもある。主食の小麦や人間が生きるために必要な塩、さらには衣服や雑貨など多くのものが陸に降ろされていく。
これから仕込みが始まるアッフェルポップ用のアポーの木箱もかなりの量がある。
「とーさま!」
ジークヴァルトが目聡くお父様を見つけた。
「皆、元気だったか!?」
「はい、元気でした。長らく留守にしてしまい、申しわけありません」
「そんなことはいいのだ。ジークヴァルトは重くなったな! エルゼはもう首が座ったか! トーマは少し見ないうちに背が伸びたな! アリューシャも王都で磨かれてさらに綺麗になったな!」
お父様は皆を抱きしめ、最後に歯の浮くような言葉を口にした。
湊から馬車で移動し、一時間ほどで領主屋敷に入った。
皆が出迎えてくれる。懐かしい顔ばかりだ。
執事のジョンソン、メイドのサーラ、庭師のオットーの他に新しい使用人が三人増えていた。
ララが俺の専属メイドになったから、メイドを雇ったらしい。
あと、領軍の兵士も増えて百人を超えたらしい。その中には探索者を引退したコズミさんたちもいる。
酒工房からジンさんとラムさん、神殿からオトルソ・ダイゴ神父、他にも村の人たちが出迎えてくれた。感無量だ。
「トーマ、皆に声を」
「え? 俺がですか?」
「皆はトーマが帰ってきて嬉しいんだ。声をかけてやれ」
そんなこと言われても、スピーチの準備なんてしてないよ。でも、俺の顔を見るために集まってくれたのなら、一言お礼を言わないとな。
「皆さん、わざわざ集まってくれてありがとう! これからもロックスフォール家をよろしくお願いします!」
「「「おおお!」」」
大したことは言えないけど、心で繋がっていると感じられる。冬でもアシュード領は暖かいよ。
ベンとシャーミーも実家に顔を出しにいった。特にベンは貴族になって伯爵令嬢の婚約者もできた。ボーマンさんがひっくり返らないか心配だ。
その日は、家族が揃って楽しく過ごした。
夕食はかなり豪華だったし、お父様は上機嫌でお土産のビールを飲んでいた。
「かーっ、このビールって酒も美味いな!」
もう少し俺が成長したら一緒に酒を酌み交わせるだろう。その時を楽しみにして、酒造りをしよう。
翌朝、俺は神殿に赴き、デウロ様の像に祈りを捧げた。
以前は明らかに田舎の神殿だったアシュード領の神殿は、今ではかなり立派になっている。人の出入りも多く、行列ができることもあったそうだ。観光地化しているな、これ。
デウロ様像の前で祈る人を見ると嬉しくなる。
「トーマ様のおかげで、毎日多くの信者がやってきています」
俺の後ろにオトルソ・ダイゴさんが立って微笑んでいた。いつの間に?
俺はそれなりに気配に敏感だと思うけど、その俺の背後を取るなんて、神父さん暗殺者になれるよ。
「最近はトーマ様の育ったアシュード領が観光名所になっているのですよ」
本当に観光地になっていた!?
バルド領は生誕地でデウロ神殿を建設しているし、使徒というのはすごいネームバリューだな。
「多い時は一日に一千名以上が訪れております」
人口に比べて多くないですか?
でも、その半分でもデウロ様に祈りを捧げ、さらに半分でもデウロ信徒になってくれれば嬉しいな。
アシュード領で数日過ごした俺は、バルド領へと船で向かった。
その船上にはベンの弟のバッケンもいる。バッケンはベンの従者になった。ボーマンさんが連れていけと言ったらしい。
幼いころからダンジョンに入ってモンスターを倒していたバッケンは、ベンに似て逞しい男に育った。十三歳にしては背も高く筋肉もすごい。何より、ベンの弟かと思うほど礼儀正しいのだ。「兄がいつもお世話になっております。トーマ様には父もお世話になり、感謝してもしきれません」と言われた時は、誰だお前? と思ってしまった。
船を降りると、ロックスフォール侯爵家の騎士団員が並んで俺を迎えてくれた。その外側には多くの領民がいる。
なんだ、どうした、何があった?
「皆がトーマを待っておったのだ」
お爺様はリッテンハイム男爵家のジャドーズ領で合流した。
「そうなのですか?」
「減税を行い、大量の肥料を用意して小麦による連作障害を解消し、ビールの開発など多くの領民がライトスターとは違う善政を実感しておるのだ」
お爺様が手を振れと言うので、ここでも手を振って民衆に応える。俺のキャラではないな……。
元ライトスター家の屋敷に入る。赤ん坊の時に一度だけ入ったことがある本宅だ。
趣味の悪い調度品は全部撤去されている。
「金の塊ならいいが、大した金額にもならぬガラクタばかりであったわ」
ライトスターの人たちの目は思いっきり曇っていたようだ。せめて金目の物を買えばいいのに、商人にいいように騙されていたんだろう。
「そういった悪辣な商人はバルド領から排除したから安心しろ。もっとも性質の悪い商人というのは、どこにでも湧いて出てくるがな」
商人も貴族も色々な人がいる。俺は善政をしようとは思わないが、領民が不幸になるような政治はしたくはない。
俺がバルド領に入った二日後、教皇がやってきた。
デウロ神殿に神光石を安置するイベントのためだ。神殿騎士団とロックスフォール侯爵家騎士団が総出で警備が行われている中、俺と教皇は並んで新しい神殿に入った。
デウロ神殿はまだ建設中だが、本殿は完成している。本殿の奥に祭壇があり、すでにデウロ様の像が設置されている。
デウロ様の像の横に神光石を安置する場所が設けられているのだ。
俺と教皇は振り返る。そこには神殿関係者と周辺の貴族の代表者、そして国王の代理としてラインハルト君がいる。
「これよりデウロ神様が下賜してくださった神光石を安置する。皆の者、頭を下げよ」
厳かな神殿内に教皇の言葉が響く。
この教皇はかなりの人格者だ。使徒であるが、俺のような子供にも心から敬意を払っている。
そんな教皇の言葉を受け、全員が跪いて頭を下げた。
「使徒トーマ様。神光石を」
俺は教皇に頷き、異空間倉庫から神光石を取り出した。
「おおお! なんと神々しいのか……しかも、デウロ神様が近くにいてくださるかのような神威を感じますぞ」
教皇だけが神光石を直視しているのだが、泣き出して跪き祈りを捧げ始めてしまった。
これは予定にない。どうすればいいんだよ……?
仕方がない、俺が話を進めるか。
「皆の者、頭を上げよ。そして、デウロ神様にその祈りを捧げるのだ」
俺の言葉を聞いた人たちが顔を上げた。
「あああああっ………」
皆が泣き出して祈り始めた。
お父様もお母さんもお爺様もラインハルト君もダルデール卿も皆が泣いている。
この日より、デウロ神殿はこの国だけでなく他国からも人が訪れる神殿として名を馳せることになるのだった。
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ここで【トーマII】は完結になります。
すみません! 【トーマIII】はまったく執筆が進んでいません(´;ω;`)
ですから、不定期更新になります。
とりあえず、次の更新は一週間後になります。
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