第98話 もうすぐ一年生も終わりですね
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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第98話 もうすぐ一年生も終わりですね
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「なんとっ!?」
神光石を手に入れ、それをバルド領に建設中の神殿に安置すれば、デウロ信者に奇跡が起こる。そう説明したら、ダルデール卿が目を剥いて驚いた。
「そ、その神光石というのは……」
「俺が保管しています。神殿以外では出せないものなので、建設中の神殿に俺がいき安置します」
ゴクリッと声唾を飲み込み音が妙に大きく聞こえた。
「デウロ様がトーマに下賜くださったその神光石を見てみたいが、さすがにここでは出せないということだな」
「はい。神聖なものです。デウロ様の神殿以外では出せません」
「うむ。ならばできるだけ早く神殿に安置しなければならぬであろう」
「はい」
そこで俺とお爺様はダルデール卿を見つめた。ダルデール卿はまだ復活してない。息している? 死んでないよね? いいお年だから……ショック死してないよね?
「も、申しわけございません。あまりにも大きなことでしたので、少し混乱してしまったようです」
「混乱ついでに一ついいですか?」
「な、なんでございますか?」
「今建設中の神殿ですが、神光石を安置するにあたり、絶対に守っていただかなければいけないことがあります」
「……おうかがいします」
「神光石はデウロ様の神威によって形成されたものです。それを他の神と合祀するのはいけないと思うのです」
「……バルド領の神殿をデウロ様だけの神殿にしろと仰るのですね」
「はい。そうでないと、神光石を安置する神殿を俺が自前で建設することになります」
神殿がデウロ様以外を祀るというなら、俺が建てるまでだ。そうなったらニルグニード教とは決別になるが、構わない。
たとえどれほど茨の道でも、デウロ様を祀る宗教をこの国の国教にしてみせるぞ!
「デウロ神を祀る神殿であれば、当家も建設に尽力しよう」
「ありがとうございます、お爺様」
そもそもあの神使たちがデウロ様と並んで合祀されていること自体が我慢できないのだ。
できることなら、あいつらの像を全て破壊してやりたいくらいだ。
「分かりました。すぐに教皇猊下に上申いたしましょう」
ダルデール卿ならそう言ってくれると信じてましたよ。
「よろしくお願いします」
十月に入ると、学園の年末試験が行われた。
選択科目を受講している生徒の試験は三日間に渡って行われるが、基礎学科の国語、算術、王国史のみの試験を受けた俺は、一日で試験が終わる。
早々に学園を後にした俺は、屋敷でジークヴァルトとエルゼと遊んでいる。
ジークヴァルトは大分走るのが上手くなった。まだ転びそうになることもあるが、転んでも我慢して泣かない男の子に育っている。
エルゼは五カ月目に入り、お乳をたくさん飲んでスクスクと育っている。
うん、二人とも可愛いね!
「にーに、だっこ」
「おう。ちょっと待ってな」
抱っこしていたエルゼをお母さんにお返しし、ジークヴァルトを抱っこする。
「重くなったな!」
高い高いしてあげると、ジークヴァルトは喜ぶんだよ。
「トーマ。休みになったら私たちはアシュード領に戻るわ」
「はい。お父様も寂しがっていることでしょうから、しっかり甘えてあげてください」
「まあ、トーマったら」
試験結果が出たら、そのまま休みに入る。あとは年が明けた一月十二日まで休みだ。
その休みを使って一度アシュード領に帰り、そしてバルド領に入る予定だ。
バルド領に建設中の神殿は、《《デウロ様だけ》》を祀るものになった。
その際に神殿長を決めないといけないので、アシュード領に帰る前に総本山に出向くことになっている。
年末試験の結果が出た。俺は基礎三科目は全て満点だった。
一応、上位百名までは成績が発表されるが、俺は対象外だ。何せ三科目しか試験を受けてないからね。
成績発表の対象者は五科目以上の試験を受けた生徒で、その平均点で順位が決まる。五科目以上だから、五科目の生徒もいれば、七科目の生徒もいる。だから合計点でなく平均点で順位が決まるんだ。
そして主席はラインハルト君だった。キラキラ王子様は成績も優秀だった。顔面偏差値イコール成績とか、憎いね~。
「レーネ嬢が次席だね」
順位が掲示されているボードのところでレーネ嬢に出会った。俺の名前はないけど、首席と次席くらいは名前を見ておこうと立ち止まったら、レーネ嬢が数秒後に現れて横に並んだのだ。
「わたくしもラインハルト様も首席はトーマ様だと思ってますわ」
いきなり何を言い出すのかと、ちょっと見つめてしまった。染み一つない綺麗な肌だ。レーネ嬢は本当に美人になると思う。
「わたくしたちの剣はトーマ様から見れば子供のお遊びに見えることでしょう」
「そんなことはないですよ」
「トーマ様とわたくしたちには、埋めようもない深い溝がありますわ」
「それはレベルの差だと思いますよ」
恐らく同じレベルなら、純粋な戦闘加護であるラインハルト君やレーネ嬢のほうが強いかもしれない。
ラインハルト君はランクSの迅雷の英雄、レーネ嬢はランクAの疾風の剣士だ。
俺は戦闘特化の加護ではない。どちらかというと支援職のような感じで、純粋な戦闘職に比べるとどうしても一歩劣るのだ。
ただ、俺のランクはSの五段階上になるため、能力的にはアドバンテージがあるのも事実だ。
ただ、能力だけで強さが決まるわけじゃない。ちょっと前にそれを見せつけられた。
ビシュノウに比べて俺の能力値は高かった。なのに、手も足も出なかったのだ。能力も大事だが、戦いに適したスキル構成はもっと重要なのだ。そう実感した。
「トーマ様のレベルに追いつけるように、わたくしも精進しますわ」
「レーネ嬢は長期連休中、何をするのですか?」
「領地に帰る予定ですわ」
「ノイベルト侯爵家の領地は王都からかなり遠いのですよね?」
「ええ、ライバー川を下り、海に出てバルケン半島へと向かいます。順調にいって王都から十日ほどかかるでしょうか」
王都からアクセル領まで四日、アシュード領まで五日、バルド領も五日。それを考えると、十日はかなり遠い。
そもそも海に出てさらに北上しないといけないんだよね。
はっ!? 北上ってことは北国だよね? 雪は降るのかな?
「あの、レーネ嬢のところの領地って雪は降るの?」
「ええ、わたくしの背丈くらい積もりますわ」
スキーができる!
前世で憧れがあったスキーやスノボができる。冬に一度でいいから北国にいってみた。
「いつかいってみたいですね」
「本当ですか!? いつか必ずきてくださいね!」
ど、どうしたの、そんなに食い気味に?
「その時はよろしくお願いします」
「楽しみですわ。ウフフフ」
そ、そうですね……。
ご愛読ありがとうございます。
これからも本作品をよろしくお願いします。
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