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夏の探検、夏の怪談

作者: 本棚めぐる

これは私が子供の頃に実際に体験して、そして耳にしたお話しです。


その年は酷いから梅雨で、農業用のため池が干上がるほどでした。


そんな酷く渇いた夏の日のこと、私は友達と、とある山の側面、谷の底にある地下水路の出口の前に立っていました。


山肌の新興住宅地と、その裏にある工場地帯の下に作られた、雨水や地下水を流すための水路は、いつもで有れば膝丈よりも高いほどの水が流れていましたが、その夏のにはすっかり干上がって私たちを出迎えるようにポッカリと口を開けていました。


以前からこの水路を探検したいと意気込んでいた私たちは、この機会を逃す手はないと、各々懐中電灯やら、ランタンやら、使いもしないコンパスやらを持ち寄ってこの未踏の水路へ足を踏み出したのでした。


水路の中はヒンヤリとしており、茹だるような夏の暑さから私たちを切り出して包んでくれるようでした。


これは良い避暑地を見つけたなどと、皆で軽口を叩き合いながら奥へと足を進めていきます。


背後から聞こえる蝉の声も遠くなり、入り口の明かりも細く見えなくなっていく頃、私たちは分岐路にたどり着きました。


片方は奥へと続いておりゆっくりとした登り傾斜、もう片方はすっかり鍾乳石のようになった格子が嵌めてありました。


興味本意でその格子の先にライトを照らしていた友達が初めにソレに気がつきました。


格子の奥から何か声のようなものが聞こえるのです。


唸るような、泣いているような、か細いような、不安になるような


恐らくその場にいた皆が、心のどこかで逃げ出したいと感じていたと思います。

ただ、それを友達に悟られるのは恥ずかしいと思う気持ちも同時に持っていたのでしょう。


私たちは強がりを互いに口にして、そうして互いを頼りにこけおどしのような勇気を出して、何を言っているのかわからないそれに、大きな声で呼びかけました。



帰って来たのは、おそらく男の子と女の子の狂ったような笑い声でした。


私たちは恐ろしさのあまり、一目散に逃げ出しました。

みなが持っている光源がめちゃくちゃに道を照らすなか、とにかく無我夢中で入り口へ向かって駆け出しました。


日の光が差し込み、煩いほどの蝉の声が聞こえるようになったあたりまで来たところで、抗い難い恐怖から私は後ろを振り返りました。

真っ暗なはずの水路の奥、光源も何もないそこから何かがこちらを見ているような気がしました。


水路を抜け出して、暑いはずの日差しの下にでは私たちは、みんな震えていました。

いまあった事がみな信じられない様子で、互いの顔色を伺って、誰かが先程の出来事を否定してくれるのを待ってるようでした。


しばらくの間動けずにいると、とりあえずここを離れようと、誰かが言いました。

無言で頷いて、入り口のある谷底から斜面を登って住宅地へ出ると、そこには数台の重機が大型トラックに乗せられて移動していました。


また、誰かが言いました。

もしかしてさっき聞いたのは、重機のキャタピラの音が地下に響いただけだったんじゃないか、と。


みな口々にその意見に賛同しました。

やはり聞き間違いだったのだと、驚いて損をしたと、初めに逃げ出したのは誰だったと。

あれこれと話しながら、その日は笑って解散したのでした。


後日そのことを親に話すと、危ない事をした事を叱られたあと、少しなにか考えるよそぶりをしてからこんな事を話してくれました。


知り合いの工事業者から聞いた話なのだけどと前置きして。


山肌の新興住宅地でその日、道路工事していたそうです。

その際、特定のマンホールの上を重機が通ると必ずエンストしてしまうと言う不思議なことが起きており。

工事関係者さんが、そのマンホールを開けてみたそうです。

するとそのマンホールの底、光が届いたその場所に、上を見上げて此方を見る子供が二人。


驚いた工事関係者の方々が声を掛けようとすると、その二人は狂ったように笑って、ふっと消えたそうです。

マンホールから降りて、中を調べもしたけれど、やはり誰も見つからなかったと。


私はあの水路から出た時のようにまたガタガタと震えました。


大型トラックで重機が運ばれていたその理由が、工事が一旦中止になったからだと気がついたから。

つまり、そのマンホールの底の声は、私たちが聞いた声と同じものだと気がついてしまったから。


何年も経った今でも、雨のない夏が来ると思うのです、あの水路の水がまた干上がった時、あの声がまたやってくるのではないかと。


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