未知の世界・レヌァスン
あまりの眩しさに目を閉じた疾斗だったが、自分の足がしっかりと地面についていることに気づき、腹を決めて恐る恐る目を開けてみた。
すると、目の前には驚くべき光景が。
広大なサバンナに、歴史の教科書に出てくるままの竪穴住居が点在しているのだ。
そんな現代日本では確実に見ることのできない光景に、自分が異世界に迷い込んでしまったと悟った疾斗はその場にへなへなと座り込んでしまった。
「マジかよ……」
力のない声が漏れた。
それから数分経ち、やっと気持ちが落ち着いてきたのか、力の入らない脚で必死に立ち上がった彼は自分の置かれている状況を確認するために、近くの住居に向かってゆっくりと歩き出す。
住人が友好的である事だけを願いながらその中を覗いてみると中には小学校低学年くらいの年齢だと思われる褐色茶髪の男児とその両親と思われる男女がいて、なんと驚くことに、日本語を使っていた。
「だあれ?」
疾斗に気づいたその子どもが尋ねてきた。それを聞いた母親と思われる女は慌てて子どもに覆いかぶさり、男の方は振り向いて疾斗の姿を認めると手近な刃物を手に取り身構える。
「ま、待ってくれ!」
俺は怪しいものじゃない、と疾斗が必死に訴えるとそれを信じてくれたのか、2人は刃物を置き、謝罪してきた。
「ここらは最近になって賊が出るようになったので、あなたもその一味かと…」
それを聞いた疾斗は、なら仕方ない、と頭を下げ続ける2人に頭を上げるように促して、聞かなければならないことを聞いた。
「ここは、どこですか?」
疾斗がそう尋ねた瞬間、2人、とその場にいた子どもまで、ポカーンとした顔に。
そして不思議そうにしながらも、「ここはルァヴィンという村ですが」と答えてくれた。
「そうじゃなくて……。国、というか」
申し訳なさそうに疾斗が聞き直すと、今度こそ2人は驚き、思わずのけ反ってしまう。
「あ、あなたはもしや……異界から来られたのですか?」
「え、どうしてそれを?」
「この世界に国は一つしかないのですよ」
どんな田舎者でもそれぐらいは知っていて、それを知らないということは異界人であるに違いない、という理屈らしい。そして実際にその推測は当たっていた。
だがそもそも一つしかない国を『国』と呼んでいいものなのだろうか。
そんな疑問が疾斗の脳内に居座っている事に気付いたのか、女は先ほどの言葉に付け足しをした。
「国というのは世界そのものと言いますか…。世界まるまる一個が国なんです」
これ以上質問するのはかわいそうだと思いながらも気になった事は聞いてしまう。それが疾斗だった。
「この国の指導者はどんな人なんですか?」
そう言うと期待通り、男が答えてくれた。
「教皇です。私たちが信仰するフォルタ教の」
そうなんですか、と相槌を打った疾斗はまだ大事な事を聞いていないのを思い出した。
「結局、この国の名前は?」
2人も、「ああ、そうだった」という顔で声を合わせて言った。
「ここはレヌァスン。愛と神話の国です」
「愛と神話の国、レヌァスン…」
『愛と神話の国』。その響きはとても心地よく疾斗の胸に流れ込み、浸透していく。
「ところで、」と疾斗。
「あなた方の名前はなんていうんですか?」
「わたしはイルヤ。こっちが妻のグリシャで、こいつは息子のアズーです」
「俺は疾斗っていいます」と疾斗は右手をイルヤに差し出した。
しかしイルヤは、首をかしげ、「な、なんですか?」と困った表情を浮かべる。アズーやグリシャも握手を知らないらしく、顔を見合わせている。
しかたなく疾斗は、「これは、こうするんですよ。俺の世界の友好の証です」と、イルヤの右手を自分の手と合わせるように持ってきて握手をした。
この作品には『ルァヴィン』や『レヌァスン』のような読みにくい固有名詞が出てきますが、字面として異世界感を出したかっただけで『ルァ』は『ラ』、『ヌァ』は『ナ』というふうに簡略化して読んでもらえるとありがたいです。