アランの勝利
「ガハハハ! まさか俺様を指名するなんて、ここまでお前が馬鹿だったとは!」
「ああ。俺はどうしようもない馬鹿らしい」
闘技場にて。俺はスキンヘッドと向かい合っていた。
相手はケラケラと笑いながら、辺りを見渡す。
「アリシアやドリスの姿も見えるな。女の子にかっこいいとこ見せたいってところかぁ?」
「別にそういうんじゃない。ただ、お前には反省してもらいたくてな」
「俺様を反省させるだぁ? 笑わせるな、お前のような雑魚が俺様に勝てるわけないだろ!」
「Cランクだからか?」
「当たり前だ! Cランク風情が調子乗るな!」
「はあ。やはり俺たちはまず成り上がりを目指さないといけないな。せめてAランクまでは行きたいところだ」
「何をグチグチ言っている!」
「独り言だ」
俺は木剣を握り、相手を見据える。
構えたからだろう。相手も木剣を持って剣先をこちらに向けた。
スキンヘッドは木剣を叩きながら睨めつけてくる。
「さあ勝負だ。受付嬢、早く開始の合図をしてくれ!」
「わ、分かりました! それでは……始め!」
瞬間、スキンヘッドが嬉々として木剣を振るってくる。
俺はこちらに飛んできた攻撃を弾く。
「おいおいその程度かよ!」
だが、弾くことしかできない。
俺は一方的に攻められていた。
そう。俺はあくまでサポーター。攻撃が得意ってわけじゃない。
だが、それは能力を発動していないからだ。
「《攻撃弱体》《一撃弱体》《速度弱体》」
俺はデバフを発動する。
体の力が一気に抜け、戦闘能力が格段に下がった。
「ちょっと待てよ! こいつ自分にデバフをかけたぞ! 馬鹿じゃねえのか!?」
確かに馬鹿だ。通常、デバフは相手に付与するものである。
事実、俺は相手にデバフを付与すればある程度戦況は変わっただろう。
だがそれだけである。
相手を倒すって意味では俺の能力では無意味だ。
だから俺は自分の能力を飛躍させる。
『逆転させる』のだ。
「《反転》」
――――――――――――――――――
《攻撃強化》《一撃強化》《速度強化》
――『発動』
――――――――――――――――――
これが反転魔法。
俺が外れ職である【デバフ師】を克服した新たな境地。
「は……? デバフがバフに切り替わった……だと!?」
これが俺の力。
全てを逆転する魔法だ。
「一撃必殺。《乱撃斬》」
木剣を圧倒的な速さと攻撃力で、相手に叩き込む。
スキンヘッドはどうにか追いつき木剣で攻撃を防ぐが――
「は!?」
木剣は簡単に折れてしまい、俺は相手へと直接攻撃をした。
直撃したスキンヘッドは思い切り吹き飛ばされ、壁にぶち当たる。
土煙が上がる中、俺はスキンヘッドに近づいて木剣を顔に向ける。
「俺の勝ちでいいよな?」
「お、俺様がCランクの雑魚に負けた……? ありえねえ、イカサマだ! 受付嬢! こいつはイカサマをした!」
スキンヘッドは折れた剣を振り回しながら、抗議する。
だが、勝ったのは事実だ。
俺はイカサマなんて一切していない。
受付嬢さんも分かっていたのだろう。
嘆息しながら手を上げ、
「アラン様の勝利です。一言申し上げますと、担当に任命されたからには私情を持ち込まずに試験をしてください」
「な、な、な……!」
「やったー! アランの勝ちだ!」
「やりましたね! さすがはアランです!」
喜んでいるアリシアとドリスを横目に、俺はふうと息を吐く。
とりあえず勝利だな。
これで多少は改善されたらいいんだけど……まあ簡単には行かないだろうな。
気合いで成り上がっていくしかないか。