握力勝負
「寝不足だ」
「どうして? 何かあった?」
「体調不良ですか?」
「いや、特にそういうわけではないよ……」
君たちのおかげで眠れなかった、って言うのもあれだし。
これなら女性慣れしておくべきだったな。
でも昔から女性と関わることなんてほぼなかったし。
俺ほとんど女性と関わる機会なかったから……悲しくなってきた。
これから慣れていこう。
ともあれ、俺たちは冒険者ギルドまで赴いて受付嬢さんに挨拶をした。
「おはようございます! お待ちしておりました!」
朝のギルドは多くの人たちで賑わっていた。
さすがは王都である。田舎の方であったターリ伯爵領とは違う。
「ああ? お前らもBランク昇格依頼をこなすのか?」
「え、はい。そうです」
突然隣から声をかけられたので驚いてしまう。
どうやらこの様子だとBランク昇格依頼をこなすのは俺たちだけじゃないらしい。
赤髪の男はアリシアとドリスを見て、ニヤリと笑う。
……嫌な予感がする。最近、俺の嫌な予感はよく当たるからなぁ。
「落ちこぼれの『勇気の一手』がBランクねぇ、受付嬢さんよ。何か手違いでもしてるんじゃねえか?」
「ほんと、間違っているんじゃない?」
やっぱりこうなる。
アリシアたちをちらりと見ると、暗い表情を浮かべていた。
何も言わず、ただ俯いている。
「俺はここに来たばっかだから分からないけどさ、君たちもCランクなんだろ? お互い仲良くしようじゃないか」
「な――同じにするな!」
「同じじゃないか。お互い頑張ろうぜ」
「……ちっ、新顔のくせにでしゃばりやがって」
俺が手を差し出すと、思い切り弾かれた。
まあ、別にいい。俺を馬鹿にするのはいいが、アリシアやドリスを馬鹿にするのは許せない。
彼女たちはこんな俺を拾ってくれたんだ。
大切な仲間を馬鹿にされるのは嫌だ。
「こほん。Bランク昇格任務ですが、今回は二パーティ合同で行っていただきます。お互いに協力しあい、任務達成を目指していただければと思います」
お互いに協力しあい、か。
俺はちらりと隣を一瞥してみるが……到底協力してくれるとは思えない。
なんなら俺たちを蹴落とす気でいるだろう。
気合いを入れていかないとな。
「頑張ろうね! アラン!」
「頑張りましょう!」
「ああ。ベストを尽くそう」
「それでは馬車を用意していますので、目的地付近までご案内致します」
◆
「聞いてるぞ。お前、Aランクのドラゴンを倒したんだってな?」
「……ああ」
またこれか。それほどギルド内では噂になっているらしい。
俺は嘆息しながら頷く。
「新人はさ、そりゃ嘘の一つくらい吐きたい気持ち分かるぞ。でもなぁ、さすがに無理があるわ」
「そうよそうよ。ええと、あんた【デバフ師】だっけ? そんな外れ職業がドラゴンを倒せるわけないじゃない」
「あのね……! アランを馬鹿にするのはやめてよ!」
「そうです……アランの実力は本物です!」
「かぁー! 仲間にそんなこと言わせて恥ずかしくないのか? なら証明してくれよ。お前の【デバフ師】の力ってやつをよぉ!」
……あまり人に見せるような能力じゃないんだけど。
アリシアたちが俺のことを想って言ってくれているのを無下にすることはできない。
「分かった。まずは試しだ、握力勝負をしようじゃないか」
「いいぜいいぜ。握りつぶしてやるよ!」
俺と赤髪が手を握り合う。
赤髪は笑いながらぎゅっと握りしめてきた。
「《握力弱体》んで、《反転》」
――――――――――
《握力強化》
――『発動』
――――――――――
「あ、あがぁ!?」
あまりの衝撃に慌てて手を離し、涙目で俺のことを睨んできた。
「な、何をやったんだ……!」
「俺が持つ能力だよ。まだ謎が多い魔法ではあるんだけど、その能力の一部だ」
「生意気な野郎……覚えとけよ!」
敵を増やすのは好きではないんだけど、今回は仕方がない。
俺は適当に頷いて、アリシアたちを見る。
「……ありがとう」
「ありがとうございます」
「いいんだよ。俺がしたくてやったことだ」
感謝したいのは俺の方だ。
ともあれ、寝不足なのには違いないから少し仮眠を取ろう。
万が一任務中事故ったら不味いし。




