流れ星きた2
『流れ星きた』https://ncode.syosetu.com/n2095fu/
こちらを読んでから読むと「ああ、続きなのか?」と思われます。
さあ?
クリスマスの夜って忙しいですね。
流れ星、名前はルイトン・ボワール・ノイセン・マッタイ三世である。
世のため、人のために尽くす彼は、空で不慮の事故により、落下した。
ドカーン。ひゅるるるる。
雪の地面、落ちたが衝撃は、持ち前の弾力性のおかげもあって少なく、ケガもなく助かっていた。
星だから。
「あいたたた……」
雪埃が舞う。幸いにも、家屋など建物の上には落ちなかった。街通りの脇に落ちた。しばらく倒れたままでいると、離れた所から声がかかった。
「だ、大丈夫なのですか?」
可愛らしい少女の声であった。傘をさしておらず、雪が赤いコートをうっすらと隠しつつあった。恐る恐る近づくと、流れ星は起き上がって「平気さ! キラン!」と指を立てて白い歯を見せた。
「あなたは何ですか? 星ですか?」
少女は見たまま聞いた、どう見ても星である。
「流れ星三世さ。願い事を叶えないと帰れないのだけれど、叶えたから帰ろうとしたのにサンタクロースに当たってしまって、この有り様さ。クリスマスだという事を忘れていたね、君も気をつけたまえ」
ぶつかったサンタは大丈夫なのだろうかと少女が言うだろうと思っていたが、「三世なのですね」とそこに興味を示した。
「初代についてはググってくれ。時間の無駄だ。それより、君の持つカゴのそれ、もしかして」
流れ星がさすそれを見て、少女は「ご存じですか」と取り出して見せた。
「伝説の?」
「はい、『マッチュ』です」
「たくさんあるね」
「はい、売っています。でもさっきの衝撃で、2つ落としてしまって……売り物にならなくなってしまいました」
「え、さっきの僕の落下のせいで? ドカーンひゅるるるちゅどーん、キャー、ぽとり。みたいな?」
「関西風に言うと、そういう事です」
流れ星は、それは申し訳ないと、ダメになったマッチュを2つ引き取って考えた。
「そうか、ならば」
チョチョイのチョイと流れ星は味を変えて、少女にマッチュを返す。
「これで売りたまえ。マッチャ味とマッチョ味に変えておいた。マッチュに飽きた方に勧めるといい」
「まあ。現状が好調な企業でも、その勢いは時代の流れとともに消費者の嗜好も変化を遂げ、その事業が未来永劫続くとは言い切れないですね。今後はIT化の浸透により激しい変化にさらされることは間違いありませんし、生き残るためには時代にあった事業を立ち上げ育てて行く必要があります。中略、斬新なアイデア、ありがとうございます!」
マッチュ売りの少女は感謝した。誰もマッチョ味の有る無しには言及しなかった。アリなのか?
「せっかく、でも、全然売れなくて」
コートを着てフードをかぶり、ブーツを履いて手袋はしていたものの、どれも傷んでいて寒そうであった。白い息を吐きながら、青ざめた顔で事情を話す。
「全部売らないと、月へ帰れないんです……」
西洋をこえて、さらに地球をも飛び出した話であったが、少女はかぐや姫・ネオと名乗った。歴史もこえた。
「そうなのか、じゃあ願いを言いたまえ。でないと僕も帰れないからね」
「願いですか……」
少女は空を見上げて考えた。困っている様子なので、流れ星は聞いた。
「月へ帰りたくはないのかい? 家に帰っても暴力親父に金を巻き上げられてとか? もしかして婚約者がいるとか実は親が決めた相手なのでとか」
「いえ、そうではなくて……気になる事があったんです」
「あった? それは何?」
「そこの家のリビングにあったカップボード……子どもがカップを落として割っちゃったんですよねえ、高い所だったみたいで」
「それで?」
「あれを、そうそうこうしてああすれば、落とさなくて済むのにって思って。改良してあげたいのです」
「へえ、それはいいね。じゃあそうしよう」
あっさりと承諾した流れ星は少女に連れられて、言った通りにしてあげた。売れずにこの辺りをウロウロと歩いていたら窓で目に入ったのだろう、少女は誰の家かも知れないが、ずっと気になっていて、カップボードが改良されて子どもが手にしても安全だという事が見てわかると、とても安心した様子であった。
「ああ良かった。この技術を月に帰って早速、もっと精査したいですわ。ありがとう、流れ星さま」
褒められた流れ星は赤くなった。「やあそれほどでも……」有頂天になった彼は「おっとそういえば」と思い出した。
「君のマッチュを全て売り切らないといけないね、そうだ美声にしてあげよう。そりゃ」
手を振ると、キラキラ……と微粒子が少女に向かって飛んだ。浴びた少女は「ま嗚呼~」と驚いた。
「なんと美しい声」
それをキャッチしたのは恰幅よさげなご老人で、持っていた杖で黒い帽子をクイッと持ち上げる。
「もっと聞かせておくれ。先ゆき長くないこの哀れな老人に」
「まあそんな。そんな事を」
「ああ美しい。ビバ美しい。もっと聞かせておくれ」
声を少女が発する度に、なんだなんだと周りに人が集まってくるではありませんか。
肩をトントン、と叩きながら目で流れ星は言う、マッチュを売るんだよ、と。頷いて少女は大きな声で言った。
「マッチュ要りませんか~!」
叫べば叫ぶほど、お客の数が増えていく。
「はい、並んで並んで~」
流れ星のアシストが入った。マッチャ、マッチョという横への展開から、プレミアム・マッチュや贅沢マッチュなどの縦の展開も要すると察した。後でマーケティング部に報告しなければと熱くなった。
一時間ほどが列をなしたが完売し、売り上げはこれまでで最高の数字を叩き出した、少女は大喜びで札束を放り投げた。
「これで月へ帰れます。札束で親父を叩けます。ありがとう!」
最高の笑顔で言われて、いえいえそんな、と流れ星は謙虚に、手を振って少女と別れて去って行った。
少女は月に帰る前に最後のお客であった大手プロダクションの社長に気に入られ歌手デビューした。いつ帰るの、と月からラインで親から連絡がきてお茶を濁した。実家の家具屋は誰が継ぐのかが問題であった。
流れ星はトウッ!っと渾身の馬力で飛んだが、勢いよすぎて月に当たった、ドカーン。
めでたしめでたし、続きはないはずである。
ご読了ありがとうございました。
誰かこのネタで漫才してくれませんか。
後書きブログがこちらです。
http://ayumanjyuu.blog116.fc2.com/blog-entry-294.html