2
いつもありがとうございます。
短編ですが、あと何話か連載します。
どうぞお付き合いください!
明は知っていた。主の娘である美祈が、自分に思いを寄せてくれていることを。最初知った時は、正直驚いた。と同時に、どうしたらいいのか、困惑した。理由は二つ。このことが主の耳に入れば、自分の身がただでは済まないこと。そしてもう一つは、自分も美祈を愛していたからだ。
美祈は天真爛漫な妹姫の未花と違って、書物を楽しんだり、一人空を眺めて微笑むような、大人しい姫君だった。しかし、そんな美祈が、はにかんだ笑顔で話しかけてくれたり、時々手ずから菓子を焼いて、仕事部屋へ持ってきてくれるのが、心から嬉しかった。正直、必死で平静を保ちながら、菓子を受け取ってはいるが、本当はどきどきして眠れない程幸せだった。そして、受け取った菓子は大切に何日もかけて少しずつ食べた。まだ主には言っていないが、いつか美祈が王族に后として嫁ぐ時には、お供して永遠に傍に仕えたいと本気で思っていた。しかし、影と名乗る女が侍女として離宮に来てから、美祈は変わってしまった。
自分に対する態度も何だか少しよそよそしくなり、菓子を持って来てくれる回数も減った。しかも、一番気になるのは、美祈が時折する表情だ。今までは大人しくても、月の執の姫君として堂々としていたのに、何者かに怯えたような表情をすることが次第に増えていったのだ。
あの女は…まさか美祈様に良からぬことをしているのでは?証拠も何もないけれど、明は何となく嫌な胸騒ぎがしていた。
が、そんなある日、ついに決定的な場面を偶然見てしまう。
何と、影は美祈をたった一人で離宮の端の部屋に連れて行き、怪しい行いをしている様子だった。鍵をかけた部屋から聞こえる、美祈の時折悲鳴の交じるあられもない声に、明は思わず目を見開く。
家令とは言え貴族である自分でさえ、遠慮して手出しをせずにいた美祈を、平凡な民でしかないあの女が好き勝手に踏みにじっている。
許せぬ、と明は怒りに震えた。
美祈様は、あのような下賤な女が手を出していい方ではない。月の王族で王家の次に身分の高い執の姫君だ。
これは何としても、止めに入らねば。
明は一瞬で覚悟を決めると、躊躇なく部屋の扉を蹴破った。するとそこには、柱に縛りつけられた美祈を囲むように、影と十数人の顔を隠した男達が、汚い欲に満ちた気配を漂わせて立っていた。
「美祈様…これは!!」
思わず明が声を上げると、美祈は恐怖と涙でぐしゃぐしゃの顔のまま、縋るように明を見る。
「明、助けて…!!!」
やっとの思いで叫んだ美祈の口に、影は容赦なく布切れを押し込む。
「過ぎるおしゃべりは身のためになりませんよ。さあ、切り刻んだ体で、この男達を楽しませてください」
「影!!」
明は美祈の前に立つ影に近寄り、その頬を力いっぱい殴りつけた。しかし影は、ぐらっと自らの体の輪郭を歪めると、何事も無かったかのように立ったまま明に微笑む。
「これは明様。よろしかったらこの男達と一緒にお楽しみになりますか?」
「ふざけるな!美祈様は執の姫君だぞ!!こんなことをして、真様が知ったら、どうなるか分かっているのか?」
「分かっておりますよ。でも平気でございます。どなたも私を罰することはできませんので」
「いい加減にしろ!!」
明は腰の刀に手をかけ、影を睨む。しかし影が不適な笑みを浮かべたまま、明を睨むと、いつの間にか体が動かなくなり、十数人の女達に囲まれていた。
「…どけ!!」
声だけで必死に抵抗する明に、影はおかしそうに高笑いする。
「明様も、私が用意した女達とどうぞお楽しみください。美祈様の泣き叫ぶ美しい声をお聞きになりながらね」
影が合図すると、女達は一斉に明に襲いかかった。
完全に体の動きを封じられた明は、なす術もなくただ悔し涙を流しながら、美祈の痛みと屈辱に満ちた絶望の叫びを、聞き続けた。
読んでくださいまして、本当にありがとうございます。
次話もどうぞよろしくお願い致します!