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いつもありがとうございます。

天行く月の巫女のスピンオフです。

未花の姉、美祈みのりの短編です。

 月の王族であり人形師である真の住む離宮には、たくさんの使用人がいる。

生活全般の世話をする侍女、従者、離宮を守る衛兵、そしてそれら数百人もの人々を束ねる役目として仕えていたのが、家令のめいだった。

 月の民ならではの美しい紅の目を持ちながら、珍しくふんわりした優しい雰囲気を持つ、真より少し若い男。端正な容貌はその育ちの良さだけでなく、曲がったことを許さない、清らかな自らの心を映し出しているようだった。十二歳になった美祈みのりは、そんな明に密かに思いを寄せていた。明が離宮を忙しそうに行き来する度に、こっそりその後をついていったり、手ずからこしらえた菓子を、文机に向かう明に届けたりした。美祈が頬を赤らめながら、恥ずかしそうに菓子を差し出すと、明も照れくさそうに俯きながら、優しい声でお礼を言って受け取ってくれた。

 そんな日々を過ごすうちに、明殿のところへ嫁ぐことができたら、どれだけ幸せかしら。と、いつしか美祈は思うようになっていた。が、それは絶対に叶わぬこと。何故なら、美祈は真の娘だから。月の執の姫として、いずれ王族の誰かに嫁ぐことが、生まれた時から決められていた。

それに、もう一つ、美祈には誰にも言えない秘密があった。それは…。

「美祈様、お迎えに参りましたよ」

まるで花が綻ぶような心地よい声で言うと、その女は微笑む。女は侍女には違いないが、何度名前を聞いても、絶対に本当の名を教えてくれない秘密の人。

かげ、今日もあれをするのね」

「ふふふ。美祈様との時間を楽しまず、何を生きがいとしましょう」

影と美祈が呼ぶその女は、細い目をさらに細めて、優しく微笑む。そして、離宮の奥の間へ入ると、鍵をかけて慣れた手つきで美祈の衣装を脱がしはじめた。

影と会えるのは嬉しい。でも、影のすることには抵抗があった。

何故なら影は、初めて離宮に来た半年前から、美祈の体におかしな細工を施し始めたから。最初は乱暴されたも同然だった。泣き叫び、両親に言いつけると凄んだが、影は動じなかった。

「私は魔です。真様も真佑様も、月の主上でさえ、私を封じ込めることはできない。私に敵う力のあるお方など、誰一人いないのです。さあ、美祈様、あなた様は今日から私の言う通り、毎日少しずつ私を楽しませるのですよ」

そう言うと、美祈の下腹部に短刀で小さな傷跡をつけた。ぴりっと走った痛みに、顔を歪める美祈に、影は満足そうな笑みを浮かべる。

「流石、執の姫君。痛みに耐えるお顔も美しいこと」

そう言うと、ぺろぺろと傷跡を嘗め回して、丁寧に衣装を元に戻す。

「明日もまた、楽しみましょう。もしご両親に言いつけたりすれば、あなた様の一番大切な妹君がどうなるか」

「未花はだめ!!それだけは止めて!!!」

「ふふふ、分かっております。美祈様は未花様が一番大切。大切な妹君には指一本触れませんよ。美祈様が毎日私を楽しませてくださるとお約束下さるなら」

「……するわ。約束。だから未花にだけは、手を出さないで」

「承知致しました」

影は恭しく頭を垂れると、不敵で不気味な目で美祈を見た。

魅力的な目。月の民の中でもこれほど魅力的な目をした人を、美祈は未だかつて見たことが無い。決して美しいというわけではないのに、その目は美祈の心を掴んで離さない不思議な魅力に溢れていた。

私は影が好き。影の目や声が大好き。だから、私が…私だけが影の言うことを聞けば、全ては平穏に治まる。そうするのが、一番正しいのだわ。

美祈のまだあどけない心に、影に対する淡い思いと、言い知れぬ絶望が刻まれた。





 

 



いつもありがとうございます。

これからも、どうぞよろしくお願い致します!

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